トレント対木こり
トレントに気づかれることなく接近することに成功した俺が、ノクジルアックスを振るう。
この隕鉄製の斧は、最近になってマイナーチェンジを行っていた。
金属部分の斧はそのままだが、その持ち手である木製の柄をブレナンパーティーが倒したトレントの枝で作り直してある。
手に吸い付くように馴染み、俺の力をしっかり斧へ伝えられるようになっていた。
また、外気功・属性強化によって柄を木の青色闘気で外纏させることで、これまで以上のしなりと粘りを発揮するようになっている。
これにより、筋肉量も闘気量も増した今の俺が全力で振るっても、その衝撃をトレントの柄が優しく受け止めてくれるために、俺自身の手にかかる負担が少ないというのも特徴だ。
そんな使い勝手と威力の増したノクジルアックスがトレントの幹へと激突する。
狙ったのは幹の中央部分だ。
もちろんそれは表層から見ただけではなく、目に闘気を集めて観察して見つけたウィークポイントを狙っている。
ノクジルアックスは俺の闘気を糧に成長する斧ではあるが、まだまだ成長段階だ。
成長する金属という特徴が強くある隕鉄だが、現時点ではまだ弱く、軽い。
しっかりと相手の弱点を狙わないと、その衝突の威力で斧自体が傷んでしまうこともある。
ゆえに、相手の弱点である急所を見極めて攻撃した。
トレントは木の魔物であり、その表面には青い気がくまなく流れているのが観察できる。
が、流れがあるということはその強弱も存在しているということで、木の幹を流れる青い気が薄く、停滞している部分こそトレントにとっての弱点だ。
これは、以前のブレナンパーティーがトレントと戦っているときにも観察していたから多分間違いないと思う。
というか、普段は擬態して普通の木のようにしているのだけれど、闘気を目に集めてみるとトレントに流れる青い気の流れでおおよそだがどこに目と口の模様が現れるかが、だいたいの場所だがわかるのだ。
そして、目と口の中心付近だけが、不自然なくらい気の流れが悪かった。
そこに俺の一撃が命中する。
が、浅い。
ノクジルアックスを振りぬいた後のトレントの状態を見ても、一撃で伐り倒すことはできていない。
ゆえにトレントも反撃してくる。
内気功・迷彩によって完全に虚を突いた攻撃をしたおかげで動き出しが遅かったが、攻撃を受けたことで枝を振り回すように反撃してきたのだ。
枝が左右に振られて俺の体を叩こうと動く。
だが、ダッキングするように身を沈め、その一撃をかわす。
こちとら、一撃でトレントを伐ることができるとは思っていない。
なにせ、俺はまだ普通の木ですら一撃で伐るなんてことはできていないのだから。
けれど、俺だって木こりの一員だ。
これまでに何度も木を伐ってきたし、木こりたちの仕事ぶりも見てきた。
木を伐るには、効率のいい手順というものがある。
斧の一振りで木を伐る木こりなんてものは存在せず、けれど効率よく、より少ない力で木を伐る方法があるのだ。
しゃがんでトレントの枝を回避した俺は、すぐに姿勢を戻して再度ノクジルアックスを振るう。
先ほどは少し上から下へと振り下ろすようにトレントの弱点部分を狙ったが、次は違う。
今度は先ほどの切り口よりも少し下の部分に、下から角度をつけて斧を振った。
ノクジルアックスが再びトレントの幹を叩き、傷をつける。
一撃目と二撃目で、トレントの幹に受け口ができた。
木こりなら誰もが使う伐採の基本だ。
伐った木が狙った方向に倒れるようにあらかじめ入れておく切れ込みだ。
横から木をみたら三角形の形をした切れ込みを入れた。
そして、その斧を振った流れで立ち位置を変える。
先ほど作った受け口とは逆側に回り込む。
受け口のある部分を起点に幹の正反対のところへと第三の攻撃を繰り出す。
追い口だ。
受け口とは逆側の、少し上の高さに切れ込みを入れる。
枝による攻撃をかわしての追い口づくりは成功し、そしてトレントの幹に変化が現れた。
ミシミシミシ、と嫌な音が森に響く。
俺が作った切れ込みは決して幹の直径を切断できるほどの深さではなかった。
が、適切な位置に受け口と追い口を作ったことで、トレントという大木の重さ自体がそれぞれの切れ込みに負荷をかけ、破断に至る。
盛大な破砕音を響かせながら、トレントは枝を振り回しながらも幹が中ほどで折れて地面へと倒れていったのだった。
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