倒すべき相手
魔物肉をよく食べるようになってから、俺の体つきに少しずつ変化が現れ始めた。
それまでの子ども特有のプニプニした肉体が消え去ったわけではないが、服を脱ぐと、これまでより筋肉の凹凸がはっきり分かるようになってきた気がする。
鏡なんて高価なものもないのだが、思わずポージングして、自分の体の変化を確かめてしまうくらいには変わってきていた。
魔物肉は、筋肉を育てる効果がかなり高い気がする。
それに、体つきが変化したことで、闘気の量も質も以前とは違ってきた。
これまでよりもたくさんの量の気を体内に満たすことができるようになったし、気の状態もよくなってきたように感じる。
これまでと同じだけの外気功をノクジルアックスに行っても、以前よりもよく切れるようになってきたのだ。
筋肉量の増大とともに闘気による強化効率が上がったのだとすれば、魔物を相手にするときの攻撃力としても期待できる。
「そろそろ、次のステージに進んでみることにしようかな?」
ブレナンたちが去ってからすでに三か月が経過していた。
季節もいつの間にか春を過ぎ、夏へと移ろうとしていた。
今のところ、村はまだ滅びていない。
村に滞在している探索者の数も減っておらず、むしろ少し増えていた。
強力な魔王種がいることは広く知れ渡ったようだが、ケイオス村が村をあげての支援を行っているということで、ちょっと一狩り行こうかと考える探索者がいたのだろう。
だが、魔境の森の探索と魔物討伐はある一定ラインから先は停滞していた。
それは、俺がまだほとんど足を踏み入れておらず詳細な地図が作れていない地点。
そして、それはトレントがいる場所でもあった。
一見すると普通の木々にしか見えないにもかかわらず、近づくと急に動き出して人間を襲う木の魔物。
このトレントがいる地点を境に、その向こう側の魔境の奥地にはほとんどの探索者が踏み込めておらず、探索を躊躇していた。
それも当然かもしれない。
魔王種を倒そうと意気込んでこの地に来たブレナンパーティーですら、トレントの危険性から子どもの俺に声をかけてでも探知能力を手に入れてトレントとの戦いを避けたのだ。
であれば、普通の探索者が二の足を踏むのは仕方がない話だろう。
というか、強力な魔術をぶっ放せる魔術師がいるのでもない限り、トレントがいるところに近づきたくはないに違いない。
だが、この状態は決して好ましいものではない。
なぜなら、トレントは動くからだ。
地面に根をはって動かない普通の木と違って、根っこで移動することもできるトレントが、今の位置から今後動かないなんてことはないはずだ。
まだ、現状ではトレントの大きな移動は確認されておらず、それゆえに村に来た探索者たちはその位置よりも手前で魔物を狩るばかり。
しかし、いずれはその均衡は破られることだろう。
魔境に魔王種がいることがトレントの危険性を高めている。
後から聞いた話では、ほかの土地でトレントを倒す際には、漁夫の利を狙うのだそうだ。
魔物がいる魔境でも、普通は魔物は種族が違えば争い合う。
トレントとそのほかの魔物も例外ではなく、トレントが別の魔物と戦っているところを狙って倒すのが一般的な戦い方なのだそうだ。
どうやら、トレントは相手の脅威度を感じ取って攻撃するらしく、人間の探索者と魔物が近くにいれば個体としての強さが高い魔物を狙うことが往々にしてあるから、その特性をつくのだとのこと。
しかし、この地ではその作戦は使えない。
魔王種がいるからだ。
魔物を従え、異種同士でも同じ配下とする魔王種がいるから、トレントは近くの魔物を狙わずに探索者を狙う。
むしろ、ほかの魔物と共闘するくらいだ。
攻撃力が上がった俺にトレントが倒せるだろうか。
まだ一度も、自分の手で戦ったことがない相手だ。
だが、今後のことを考えると、トレントは本当に危険なので一体でも数を減らしておきたい。
そう考えた俺は、日が高くなる前の早朝にトレントを探して魔境の奥へと進んでいったのだった。
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