3章-47.竜人と暗殺者の邂逅
静寂が深く支配する、夜の帳が降りた不気味な森。
木々の葉音だけが響くその場所に、美しい銀の流線をたなびかせながら一人の青年が静かに歩いていた。
月光を反射して輝く長い銀髪に、暗闇の奥まで見通すような神秘的な金色の瞳。
そして何より、その気高き頭からは、夜空に輝く星よりもまばゆい黄金の角がひっそりと覗いていた。
「先ほどから、ずっとこちらを見ているね」
青年はふと足を止め、視線を動かさずに、森の奥に向けて穏やかに問いかけた。
しかし、その問いかけに対しても、周囲の闇からは何の反応も返ってこない。
ただ夜風に揺れる木々のざわめきと、冷たい月夜の光だけが不気味に辺りを支配し続けている。
「……答える気はない、か」
青年は小さく息を吐き、ふわりと美しい銀髪を夜風にひるがえした。
「出てこないというのなら、少し手荒だけれど、無理やりこちらに来てもらおうかな」
青年の薄い唇から、人間には到底発音できないような不可思議な音の呪文が紡がれる。
それと同時に、彼の足元の地面に白銀の光を放つ魔法陣が瞬時に浮かび上がった。
「——そこだね」
青年がさらに呪文を重ねる。
その刹那、空間に無数の鋭い銀閃が現れ、凄まじい速度で闇の一箇所へと集中して弾け飛んだ。
衝撃に弾かれるようにして、木々の隙間からひとつの影が音もなく地面へと舞い降りる。
「こんにちは。……僕の正体を知っていて、ここにいるのかな?」
青年の前に降り立ったその男は、一切の表情を隠す不気味な仮面をつけ、深いフードを頭から被っていた。
漏れ出る気配はどこまでも凍てつき、生きている人間の温もりがまるで感じられない。
「僕は無意味な争いは避けたいと思っている。……話し合う余地はないかな?」
青年が穏やかに言葉を重ねるが、仮面の男はやはり問いかけに対しても無言のまま動かなかった。
対話の拒絶。
一瞬の静寂の直後。
男は腰の剣を恐ろしい速さで引き抜き、大気を切り裂きながら突風のごとき速度で、一気に青年へと肉薄した。
「……!」
青年が驚愕に金色の瞳を見開き、とっさに背後へと飛び退く。
しかし、それとほぼ同時に、青年の白い腕から鮮血が飛び散り、一本の赤い筋が刻まれていた。
「古代魔法の防御を、これほどたやすく貫くか……! 君はいったい……」
青年は顔を歪ませながらも、次々と繰り出される男の鋭い追撃を紙一重の体さばきで避けていく。
仮面の男の速度と剣技は、人間の常識を完全に逸脱していた。
「そうか……このおぞましい魔力の気配……」
息つく暇もないほどに、命を刈り取る凶刃が青年の喉元へと迫りくる。
男の身体から立ち上る、光すらも吸い込むような黒い魔力。
肌に触れるだけで精神が汚染されそうな不快感に、青年は敵の正体の断片を悟った。
「闇属性か……!」
青年の驚愕の声と、それを無慈悲に切り裂く音が夜の森に重なる。
月明かりが照らす冷たい静寂の中。
新たな破滅へのカウントダウンを告げるような、最悪の絶望が静かに幕を降ろした。




