エピローグ-133.蒼天の結婚式⑥(最終話)光の満ちる、幸せな未来へ
この国で最も格式が高いとされる教会。
その荘厳な扉が、ゆっくりと開かれる。
フィン公爵と歩調を合わせながら、私はその聖なる道を進んでいく。
厳粛な雰囲気が満ちる中、参列した多くの人々から一斉に視線が注がれた。
ある者は好奇の目で。
またある者は、子爵家の娘がなぜ公爵家へと嫁ぐのかという疑問の目で。
しかし、私はそれらの視線を、恐れることなく受け止める。
この先に、最愛の彼が待っているのだから。
フィン公爵の足が止まる。
それと同時に、私は一人で道に立つことになった。
見上げると、そこにはどこまでも鮮やかで美しい赤い髪。
ステンドグラスから差し込む七色の光を煌めかせる、あの碧玉の瞳。
誰よりも誠実な想いで、私を愛してくれる人。
最上級の装飾が施された、純白の正礼装を身にまとうグレンの姿がそこにあった。
(グレン……)
私は彼の元へ、一歩ずつブライダルシューズを進めていく。
始まりは、あの前世の記憶を取り戻した時からだった。
学園でたまたま彼の目に入り、あっという間に彼が私への婚約を申し入れてくれた。
私は、すでにその時から、彼のことが好きだった。
誰よりも優しく、情熱的で、時には強引に私を引っ張り、そして少しだけ嫉妬深い彼。
グレンが私を支えてくれなかったら、今の私はここにいない。
もう、彼なしでは生きていけない。
私は彼の隣へと、ようやく並び立った。
「……ルナリア」
彼が愛おしさをあふれさせるような小さな声で、私にだけ聞こえるように優しく名前を呼んでくれた。
彼に名前を呼ばれるだけで、胸にどうしようもないほどの幸福感が咲き乱れる。
私もそれに応えるように、誰よりも大好きな彼と向き合った。
私達を見つめながら、神父が聖書を開きながら厳かに問いかける。
「グレン、あなたはルナリアを妻として迎え、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も。死がふたりを分かつまで、愛し、慈しむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
グレンが迷いなくうなずく。
それを見届けた神父が、今度は私の方へと温かな視線を向け、問いかけた。
「ルナリア、あなたはグレンを夫として迎え、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も。死がふたりを分かつまで、愛し、慈しむことを誓いますか?」
「はい……誓います」
私も彼と同じ想いで、ただ前を見据えてうなずいた。
誰よりも強く優しい彼とともに過ごす生涯を願う。
「……では、誓いの証として、指輪の交換を」
グレンは、ベルベットの上に置かれた一つの指輪を手に取る。
そして、その指先をわずかに震わせながら、私の左手の薬指へと通した。
「新婦ルナリアよ。あなたの愛の証を、新郎の指に」
神父にうながされ、私も指輪を手に取る。
こみ上げる涙をこらえながら、グレンの左手の薬指に、きらめく指輪を滑らせていく。
「いま、二つの魂は結ばれました。新郎グレン、誓いのキスを」
グレンの手によって、顔を覆っていたベールがゆっくりと上げられる。
ステンドグラスから差し込む極彩色の光が、彼の端正な横顔を鮮やかに照らし出していた。
彼はこの上なく幸せそうな表情で私を見つめた。
私はそのぬくもりを胸に宿しながら、まぶたを閉じて彼を待つ。
そして、神の御前で、私達は誓いの口づけを交わした。
「いま、おふたりの誓いは厳かに結ばれました。ここに集まった皆様、どうぞ、新しく誕生したご夫婦に、盛大な拍手をお送りください」
教会の中が、二人の幸せを刻み込むかのような祝福の拍手で満たされていく。
来賓の方々が外へ出るのと同時に、グレンは私に向けて優しく手を差し出した。
「行こう、ルナリア」
「ええ、グレン」
グレンの手に自身の右手を重ねながら、私達は教会の扉の向こうへと一歩を踏み出す。
そこには、アル、エリオス、ヴィル、セフィラ。
そしてフィン公爵やイリス女王陛下も、私達の新たな門出を祝うために待ってくれていた。
私達が外へと足を踏み出した瞬間、色鮮やかなフラワーシャワーが、祝福の雨のように私達に向かって舞い落ちる。
「グレン、私……今、とっても幸せよ」
「私も、君に負けないくらい幸福だ」
そう告げると同時に、彼は私を軽々と横抱きにした。
「グ、グレン……!?」
「やっと君を妻に迎えることができた。……ずっと、この時を待っていたんだ」
彼が私の耳元へと唇を近づけ、他の誰にも聞かせないような声でささやいた。
「愛している、ルナリア。この世界の誰よりも……」
「私も……、世界で一番、あなたを愛しているわ。グレン……」
その言葉が空に溶けていくと同時に、色鮮やかな花びらが私達の周りを風とともに舞い上がった。
見上げれば、どこまでも広がる蒼天。
あの長く苦しかった夜が、嘘のように遠い。
寄り添う彼の温もりを感じながら、私達はゆっくりと、光の満ちる未来へと歩み始めた。
これで完結となります。ご愛読ありがとうございました!
ここまで読んでくださった皆様のおかげで完結できました。
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今後更新予定の番外編
・ヴィルとセフィラの話
・竜人国でアルとエリオスが頑張る話
・グレンとルナリアのその後の話




