第37話 操魔士の真価
キリアとリックが基礎訓練を始めて三日ほどが経った頃。
セルドリクはダルタディオへの経過報告を兼ねて、一度デュランダール公爵家へ戻ることになった。
「キリア様、リック。私は一度、ダルタディオ様の元へ戻ります。
どうか無理をなさらず、しかし、しっかりと学んでください。」
「うん!セルドリクさんも気をつけてね!」
「グルルッ!」
キリアは馬車で去っていくセルドリクに手を振り、リックは尻尾を揺らして見送る。
馬車の姿が見えなくなると、キリアとリックは再び訓練場へ向かった。
ここ数日で、二人は互いの魔力の絆を結ぶ感覚を確実に身につけていた。
「もうリックが何を考えているか、自分のことみたいに感じられるよ!」
「ガルルッ!」
──うん!キリアの意思が伝わる!──
リックもまた、言葉を介さずともキリアの意識を“感じ取る”ことができるようになっていた。
レオンはその様子を見て、驚きと誇らしさを滲ませた。
「さすがだね。
こんなに早く魔力の絆をものにするなんて……本当に驚かされるよ。」
「ふふふっ。
レオンさんの教え方が上手いからね!
あと、お兄さんができたみたいで嬉しいよ!」
レオンは一瞬目を瞬かせたが、すぐに柔らかく笑った。
「ははっ。僕でよければ、兄と思ってくれて構わないよ。」
「じゃあ、レオン兄だね!」
そう言ってキリアが嬉しそうに笑うと、レオンの胸に温かいものが広がった。
失った弟の記憶が、キリアの笑顔に重なる。
その温もりが、レオンの心の隙間をそっと埋めていくようだった。
一方で、リックは二人の距離が縮まるのを見て、胸の奥に小さな痛みを覚えていた。
自分では、どんなに心の距離を縮めても、やはり“魔獣と人”──この輪の中に、本当の意味では入れない。
嬉しさと同時に、言葉にできない孤独が入り混じる複雑な感情が、リックの胸には渦巻いていた。
「よし、じゃあ──
そろそろ次の段階に移ろうか。」
レオンが表情を引き締めて告げた。
「うん!」
「ガルッ!」
キリアとリックは元気よく返事をする。
「じゃあ、まずはやってみせるよ。」
レオンは深く息を吸い、ジャイロへ視線を向けた。
「──“獣化共鳴”。」
「クオオオオッ!!」
ジャイロが雄叫びを上げた瞬間、周囲の空気が陽炎のように歪んだ──熱が走り、魔力が渦巻く。
レオンとジャイロの身体を包む魔力が赤く染まり、流麗な奔流となって形を変えていく。
レオンの背には翼が、両腕には鋭い鉤爪が、まるで“獣王”の力を宿したかのように形成されていく。
その姿は、まさに二対の獣王が並び立つかのような威容だった。
「す、すごい……!」
キリアは息を呑んだ。
リックも目を見開き、胸が熱くなる。
──兄さん……ここまで……──
かつての兄が──むしろ、より勇ましくなった姿が今目の前にある。
言葉にならない誇らしさと、届かない距離への切なさが胸に広がった。
「いくぞ。」
レオンが低く呟いた。
次の瞬間──ジャイロが空へと飛び上がる。
それに合わせて、レオンも地を蹴り、空へ舞い上がった。
「え……!!空を飛べるの!?」
「グルルルッ!」
キリアは驚愕し、リックは興奮を隠せず喉を鳴らした。
キリアは、自身に宿る“操魔と勇者”の力が微かに疼くような感覚を覚えた。
翼を持つ従魔との“獣化共鳴”は、操魔士の中でも極めて難易度が高い。
ましてや、“獣王種”であるカイザーイーグルと同じように空を舞うなど至難の業。
それをこの若さでやってのけるレオンの姿は、紛れもない才能と、たゆまぬ努力を証明していた。
空を駆ける二対の獣王。
自由自在に風を切り、旋回し、急降下し、また舞い上がる。
その姿は、操魔士という存在の“無限の可能性”を体現していた。
「すごい……すごいよ、レオン兄……!」
キリアは目を輝かせ、胸を高鳴らせた。
リックはその横で、誇らしげに胸を震わせた。
──兄さん……やっぱりすごい……!──
二人の羨望に応えるように、空を舞うレオンとジャイロ。
その勇麗な姿は、キリアとリックにとって“憧れ”となり“目標”となった。
操魔士の真価──その圧倒的な力を前に、キリアとリックの胸は、燃えるような期待の熱を帯びていた。




