第38話 溢れる才と滲む異変
レオンとジャイロによる華麗な飛演が終わると、彼らはゆっくりとキリアたちの前へ降り立った。
風を切った余韻がまだ残る中、レオンは軽く息を整えながら口を開く。
「これが操魔士の代名詞──“獣化共鳴”。
絆で繋がった魔力が魔獣の特徴を成し、自らの力になってくれる。
でも、いきなりは難しいだろうから、まずは──」
そう説明しようとした、その瞬間──
キリアの身体から、真紅の魔力がふわりと立ち昇った。
「これって“獣化共鳴”って言うんだね!」
無邪気な声とともに、キリアの周囲に形を成す魔力。
それは──リックの鋭利な爪を模した魔力爪。
そして、周囲の音をすべて拾い上げるように立ち上がった獣耳の形。
レオンは目を見開き、言葉を失った。
「え……!?
それ……いつから使えたんだい……?」
キリアは首を傾げながら答える。
「えっと、アレクと決闘した時から……?
あっ!でも、今までは耳はなかったよ。
なんか、遠くの声や音が聞こえる気がする!訓練のおかげかな?」
レオンは息を呑んだ──
誰の指導もなく、ここまで従魔の特徴を引き出せる操魔士なんて見たことがない。
才能があると言われた自分や弟のリックでさえ、幼い頃から受けた訓練があってこそ──
操魔士として熟練した父ガイアスの厳しい指導と、常に魔獣と触れ合える恵まれた環境のおかげでその才は芽吹いた。
だがキリアは、当たり前のように──
まるで呼吸をするように自然に、獣化共鳴を発動している。
その時、レオンはある“前提の間違い”に気づいた。
そもそも、キリアはリックに出会う前からBクラス魔獣と戦えていた。
この世界の理では、操魔のギフトと勇者特性は互いに反発し合う。
そのせいでキリアは、“勇者としては最弱”と蔑まれていた。
──にも関わらず。
キリアは反発しているはずの勇者特性を無理矢理引き出し、冒険者としての経験もないまま、それでもなお戦えていたということになる。
そして今、リックと共にいるキリアは、反発が完全に消え、ギフトと特性の本来の力を余すことなく発揮している。
レオンの違和感は確信に変わった。
キリアは、本当は誰よりも才能に溢れていた。
そしてリックには、世界の理すら打ち破る“特別な何か”が秘められている。
彼の胸の奥が熱く滾る。
「キリアとリックは……やはり特別なんだね。」
レオンは抑えきれない高揚をそのまま声に乗せた。
「僕と父が責任を持って、君たちを“世界最強の操魔の勇者”として鍛えてみせるよ!」
「うん、ありがとう!
期待に応えてみせるよ!ねっ、リック!」
「ガルルッ!」
──もちろん!──
キリアとリックは顔を見合わせると、力強く返事をした。
その頃──
カルシオーネの街では、キリアとリックが旅立った穴を埋めるように、残された冒険者たちが日々の依頼をこなしていた。
ギルドのカウンターでは、リエットが書類を整理しながら首を傾げる。
「ねえ、マスター。
今日、魔獣討伐に向かった新人パーティの帰り……ちょっと遅くないかしら?」
アイザックは腕を組み、眉間に皺を寄せた。
「ああ?そうかぁ?
新人だし、少し手間取ってるのかもなぁ」
「でも……あの子たち、今日は簡単な依頼だったはずよ?
ユーリィ達にでも探してもらった方がいいんじゃない?」
「それもそうだなぁ……
もう少し様子を見たら、あいつらに直接依頼出すか。」
そのやりとりから数刻後──
ギルドの扉が、勢いよく開かれた。
「ぐっ……ゔぅ……はぁっ……ぁ!」
悲痛な声を漏らし入ってきた人影──
それは、若手パーティの一人であるイリアだった。
彼女は数歩進んだところで、力尽きたように崩れ落ちる。
「イリア……!?どうしたの!」
慌ててリエットが駆け寄る。
倒れたレリアの身体には無数の傷が刻まれ、腹部は赤く血に染まっていた。
その瞳は焦点が定まらず、唇は血の気が引き震えている。
「……魔、獣が……と、突然……」
イリアの声は震え、途切れ途切れだった。
ギルドの空気が、一瞬で凍りつく。
そんな中、アイザックが怒声を響かせた。
「まずは治療だ!急いで救護室へ運べ!!
治療スキルがある者を緊急招集しろ!!」
アイザックの声を受け、周囲の冒険者や職員は我に帰ったように走り出す。
リエットも急ぎ、登録された冒険者リストから高度な治療スキルの所持者を探した。
キリアとリックのいない、カルシオーネの街に起きた“異変”──
それは静かに、しかし確実に、世界を覆う不穏の始まりを告げていた。




