第34話 空を統べる王
辺境伯邸へ到着した翌朝。
キリアたちはレオンの案内で、広大な敷地内を見て回ることになった。
朝の空気は澄み、森から吹き抜ける風はどこか懐かしい匂いを運んでくる。
リックは鼻に届く懐かしさで瞳を揺らし、キリアは胸を弾ませながら、屋敷の庭へと足を踏み入れた。
「わあ……!」
思わず声が漏れる。
そこには、これまで見たことのないほど多種多様な魔獣たちがいた。
一般的な獣型から鳥型、爬虫類型まで──
珍しい種を含む様々な魔獣が、操魔士たちと共に訓練を行っている。
「すっごいね!色んな子がいるよ!」
キリアの弾む声が響く。
「ええ……
これは、滅多に見られない光景ですな。」
セルドリクも食い入るように周囲を見渡した。
そんな二人を見て、レオンは誇らしげに微笑む。
「ここでは基礎的な訓練を学びながら、
Bクラス以上の魔獣を調伏できるまでのサポートをしています。
一定の水準を満たす者は、我々の私兵──“操魔師団”へ登用されます。
その他、冒険者や街の警備兵を目指し、皆が日々研鑽に励んでいるのです。」
その声には、グランジェット家の一員としての誇りが滲んでいた。
「素晴らしい……
操魔士にとっては、この上ない環境ですな。」
セルドリクが感嘆の声を漏らす。
その横で、キリアは目を輝かせ訓練を見つめた。
「僕も……ここのみんなみたいに、
色々できるようになるのかな……!」
「グルルッ!」
──キリアならできるよ!──
リックは嬉しそうに喉を鳴らした。
レオンはその様子を見て、優しく微笑む。
「ふふっ。もちろんです。
僕がしっかりご指導させていただきますので、よろしくお願いします。」
「はい! よろしくお願いします!」
キリアは活気に満ちた声を返した。
「では、まずは僕の従魔をご覧いただきましょう。」
レオンがそう言った瞬間──
彼の瞳が赤く煌めき、淡紅の魔力が身体を包み込んだ。
いつもの柔らかい雰囲気は消え、そこに立つ青年は“操魔士レオン”という一人の強者へと変わる。
取り巻く空気が周囲を震わせる。
キリアとセルドリクは息を呑み、リックは毛を逆立てて身構えた。
「……おいで。」
レオンが静かに呼びかける。
次の瞬間──
空から強烈な魔力の気配が落ちた。
その気配は、かつてキリアとリックが戦ったワイバーンに勝るとも劣らない。
捕食者としての圧倒的な存在感が、周囲の空気を支配する。
「な、なんだこれ……!?」
キリアが思わず後ずさる。
すると、巨大な影が地面を覆い、風が砂を巻き上げた。
そして──レオンの隣に降り立ったのは、巨大な鳥型の魔獣だった。
鋭い眼光。
太陽のような羽毛に鋼の如きクチバシ。
そして、大地を抉るほどの爪。
広げた翼は、まるで空そのものを支配するかのような威圧感を放っている。
「“カイザーイーグル”……!」
まさか……従魔としてお目にかかれるとは……!」
セルドリクが息を呑んだ。
Sクラス魔獣──カイザーイーグル。
“獣王種”と呼ばれる希少な魔獣で、野生で姿を見ることすら難しい。
捕獲ともなれば、Sクラスの中でも困難を極め、調伏できる操魔士は滅多に現れない。
その強力かつ気高い魔獣が、レオンの隣で静かに翼を畳んでいる。
「この子が……レオンさんの従魔……?」
キリアは目を輝かせた。
「かっこいいーっ!!」
子どものように跳ねるキリアに、セルドリクは苦笑する。
「キリア様……落ち着いて……!」
「グルルルッ!」
──くそぉ……かっこいい……!
でも、さすがは兄さんだ!──
リックは嫉妬と誇らしさが入り混じった複雑な声を漏らした。
レオンはそんなリックを見て、生前の弟の面影を見た気がした。
微かに瞳を揺らしながら、どこか懐かしそうに微笑んだ。
「この子は“ジャイロ”。
数年の修練を経て、最近やっと調伏した従魔です。
空を統べる“獣王種”──その名に恥じない力を持っています。」
ジャイロはレオンの言葉に応えるように、低く、誇り高い鳴き声を上げた。
響き渡るその声は、空を震わせるほど力強かった。
キリアは胸を押さえ、感動に震えた。
「すごい……!
こんな子と一緒に戦えるなんて……レオンさん、すごいよ!」
レオンは照れたように微笑む。
「ありがとうございます。
でも──あなたもすぐに分かりますよ。
従魔と心を通わせるということが、どれほど強さに繋がるのか。」
キリアはリックを見つめ、リックもキリアを見返した。
──僕たちも、負けてないよ!──
リックの瞳がそう語っていた。
キリアは強く頷いた。
「ふふっ。
僕もリックと一緒に、もっと強くなる!」
レオンは満足げに頷いた。
「ええ。では早速──
次は、二人の力を見せてください。」
キリアの胸が高鳴る。
こうして、キリアの“操魔の勇者としての第一歩”が静かに始まった。




