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第17話 苦悩の使者と真紅の勇者

 セルドリクが窓から少し目を凝らすと、地方にしては堅固な門壁を構える街が見えてきた。


 カルシオーネの街へ到着したセルドリク一行は、まず目につく住民から“真紅の勇者”について話を聞こうと街を歩き回った。


 だが、街の反応は予想以上に冷ややかなものだった。


 「あんた……公爵家の人だろ?」

 「あんたたちに話す事はないね。」

 「剣帝様の尻拭いか……?ご苦労なこった。」

 「お貴族様が、こんな地方に何の用だよ。」


 その声には、拒絶と嘲笑が混ざっていた。

 無理もない──デュランダール公爵家の家紋を掲げた馬車から降りてきた、身形の整った男。

 それがアレクの関係者であることは、誰の目にも明らかだった。


 「やはり……一筋縄ではいかんか……。

  それにしても、ここまでとは……やはり、あの噂は真実なのだな……。」


 セルドリクは呆れた声で呟いた。

 彼は胸の奥に重いものを抱えながら、胃を摘み上げられるような感覚を覚えた。

 仕方なく、次の手として冒険者ギルドを訪れることにした。


 ギルドの扉を静かに押し開けると、受付でリエットが書類を整理している姿が目に入った。

 周囲の刺すような視線を肌に感じながら、靴音を響かせ受付に向かう。


 「失礼いたします。」

 セルドリクは優しく声をかけた。


 「はーい。

  あら、渋いおじ様ね。

  冒険者には見えませんけど、ギルドに何かご用ですか?」

 リエットは少し不思議そうに首を傾げた。


 「私はデュランダール公爵家にて、執事筆頭を賜るセルドリク・カーマインと申します。

  真紅の勇者──キリア・シャルドレッド様にお会いしたく馳せ参じました。」


 そう言ってセルドリクが丁寧に頭を下げると、先程までの華やかな表情が消えた。

 リエットは明らかに不機嫌そうな溜め息を吐き、眉をひそめた。


 「キリアなら、あちこち回って依頼をこなしてるわ。」


 彼女の声には、“あなたに教える義理はない”という意思がはっきりと滲んでいた。

 そのまま背を向け、また書類の整理を始めてしまう。


 セルドリクは彼女の背中から、ここに来た理由と、道中でキリアに命を救われたことを包み隠さず説明した。


 リエットは横目でこちらに視線を向ける。

 そして少し間を置き、ふっと柔らかく微笑んだ。


 「……まったく……あの子らしいわ。

  依頼中でも、困ってる人を見たらすぐ助けちゃうんだから。」


 呆れたように話すリエット。

 だが、その声は確かな誇らしさを滲ませていた。


 そこへ、ギルドマスターのアイザックが通りかかる。


 「おお?見覚えのある顔だと思ったら。

  こんな田舎まで珍しいじゃないか。

  ──どうした?……何かあったのか?」

 アイザックはそう言うと、セルドリクに拳を向けた。


 「ははっ。相変わらず元気そうだな。

  お前──少し老けたんじゃないか?」

 セルドリクも笑い、拳を軽く当てた。


 「なに?マスター、知り合いなの?」

 リエットが首を傾げる。


 「ああ。冒険者やってた頃の腐れ縁だ。」

 アイザックは肩をすくめながら答えた。


 「お前がマスターなら話は早い。

  少し相談したい事があってな。」


 「相談……?何かあったのか?」

 アイザックは怪訝そうに首を傾げる。


 セルドリクは軽く一呼吸置き、ダルタディオ公爵から受けた“勇者キリア召見”の命について話し始めた。


 アイザックは眉間に深い皺を刻み、リエットは呆れたような表情を浮かべている。

 少し間を置き、アイザックが厳しい表情で口を開いた。


 「……あいつは素直だからな。

  公爵様に来いと言われれば、行くだろう。

  だが、一つ忠告だ──

  キリアの扱いを間違えれば、俺を含めて、この街の冒険者や住民が黙っていないぞ。」


 その声には、彼だけの言葉ではない重さが宿っていた。

 キリアへの深い信頼と、彼女へ向けたかつての過ちを悔いる慚愧が滲む。

 まるで、この街の住民が抱く想いまでも代弁するかのようだった。


 「あいつ……

  俺が頭を下げた時、なんて言ったと思う?

  “些細なこと”……だとさ……。」


 アイザックは両掌で天を仰ぎ首を軽く振る。

 少し間を置き、眉をひそめ言葉を続けた。


 「キリアは、今まで俺たちがしてきた事を意に介さんのだ。

  それどころか、魔獣の被害があればすぐに飛んでいく──今やこの街のヒーローだ。」


 セルドリクは深く頷いた。

 その瞳には彼女への畏敬の念が宿っている。


 「先ほど話した通り、私も命を救われた身だ。

  その命に賭けて、ダルタディオ様に寛大なお心遣いをいただけるよう嘆願すると約束しよう。」


 彼はそう言って深く頭を下げた。

 アイザックはしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。


 「……仕方ない。

  旧友の頼みだ。俺から話しておいてやる。」


 その言葉に、セルドリクは目を見開き、深く感謝した。



 ──翌日の午後。


 ギルド奥の応接室には冒険者たちの賑わいが遠く響いていた。

 そこで一人、ソファに浅く腰掛け、静かに待つセルドリク。


 心臓が飛び出しそうなほどの脈が胸を打つ。

 手のひらには汗が滲み、心がざわついて仕方がない。


 しばらくして、扉がノックされる。


 「待たせたな。」


 アイザックの声と共に扉が開く。

 そこに立っていたのは──


 美しい銀糸の髪を揺らし、淡紅の瞳を静かに輝かせる少女。

 流麗な真紅の魔力をその身に宿す、あの少女。


 「……やはりあなたが……

  勇者、キリア・シャルドレッド様……。」


 セルドリクは思わず息を呑んだ。

 喉は渇き、それ以上の言葉は出てこない。


 昨日、自分たちを救い颯爽と立ち去ったあの“戦姫”が、今目の前に立っている。

 傍には、セルドリクを見定めるように見つめる従魔の姿もあった。


 その姿はまさに──

 噂に聞いた“真紅の勇者”そのものだった。



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