第14話 目覚めた力
真紅と蒼霹が交錯する。
キリアとアレクの戦いは、もはや人の域を超えていた。
「おいおい……速すぎるだろ……。」
「見えない……!何が起きてるんだ……!」
「アレク様の斬撃が……全て防がれてる……?」
「俺はAクラス冒険者だが……目で追うのがやっとだ……。」
二人の動きを正確に捉えられるのは、ごく一部のベテラン冒険者のみ。
それも、捉えられるだけで反応できるかは別の話だ。
重なり、爆ぜる斬撃の音が空気を震わせ、観衆の耳を痺れされる。
真紅の魔爪が縦横無尽に閃き、蒼霹の剣がそれを受け流すたび、火花が散った。
アレクは額に冷えた汗を滲ませ、真紅の斬撃を受け流すことで精一杯だった。
初めてAクラス魔獣を狩った時も感じたことがない──
それは剣帝アレクにとって、生まれて初めての苦戦だった。
「こんな……バカな……!
私が……防戦一方だと……!?」
脳裏に浮かぶその言葉と共に、恐れと焦りが身体中を駆け巡る。
手には汗が滲み、握る剣が滑る。
耳で、肌で、間近に感じる己の命を脅かす斬撃の交錯が、彼の背筋を不快に痺れさせた。
対するキリアは、アレクの斬撃の全てを“視て”いた。
まるで刹那の未来を覗き込むように、剣の軌道が手に取るように分かる。
身体は軽く、魔力が尽きる気配もない。
これが、操魔の力──
ずっと自分を苦しめてきた力。
勇者の力と反発し、彼女の心と身体を縛る枷のような力。
だが今は違う。
ついに目覚めたその力は──
立ち塞がる敵を屠る力。
未来を切り拓く力。
そして、自分が紛れもない、真なる勇者であると肯定してくれる力。
キリアはその力と、リックと共に在る“絆”に感謝した。
「リック……ありがとう。」
そう静かに呟くキリア。
胸の奥が熱く昂っているのを感じる。
その昂りに呼応するように、全身に纏う真紅の魔力はさらに輝きを増した。
刹那の連続が、永遠のように繰り広げられる攻防。
だが、キリアの動きは衰えることがない。
一方アレクは、体力も魔力も底を尽きかけているのをその身で感じていた。
アレクの剣速が落ちていく。
握る手が震え、足がふらつく。
その隙を、キリアは見逃さなかった。
真紅に染まった瞳が鋭く煌めく。
キリアは魔爪でアレクの剣を絡め取り、彼の後方へと弾き飛ばした。
「──っ!?」
アレクの剣が宙を舞い、地に突き刺さる。
キリアは爪先をアレクの首元へ突きつけた。
「勝負ありだ。」
アレクはその場に膝をつき、崩れ落ちた。
血の気が引いた顔で俯き、肩を震わせながら荒く息を吐く。
キリアは背を向け、リックの元へ歩き出した──その時。
「──ふざけるなあああああ!!」
アレクの怒号が響き渡る。
腰に携えた短刀を握り締めると、最後の力を振り絞りキリアの背後へ跳びかかった。
力任せに凶刃を振り上げ、殺意を込めて振り下ろす。
その姿は、見るに堪えない哀れな負け犬そのものだった。
だが──
キリアは身を翻し、その腕を弾く。
「残念だよ。」
その言葉と共に、真紅の魔力を纏った拳がアレクの腹へ突き刺さる。
「っ!!……ぐぅ……ぅぉぇ……。」
アレクの眼球がぐるりと上を向き、そのまま地に崩れ落ちた。
無様に伏せるその姿に、もはや貴族の面影はない。
キリアは静かに彼を見下ろした。
その瞳には、勝利の誉れではなく静かな哀惜が宿っていた。
本当は──
意識のあるまま負けを認めてほしかった。
“剣帝”は民衆の憧れの象徴でもある。
だが、彼は最後まで“真の剣帝”ではなかった。
キリアは小さく息を吐き、リックの元へ歩み寄る。
リックもまた、その勇姿を労うようにその身を寄せ彼女を迎えた。




