第50話 バイクデビュー
ゴウキが、ある日の昼休みにぼそりと切り出した。
「なぁジンキ……免許、取ってみねぇか?」
「免許? お前がか?」ジンキはペットボトルを口にくわえたまま目を丸くした。
「お前、机に座って授業受けるの苦手だろ。すぐ寝るじゃねぇか」
「バイクだ。ほら、この前マッスルから借りただろ? 正直、思ったんだ。これから動き回ることも増えるだろうし、足は必要だ」
ゴウキは真顔でそう言った。
ジンキはペットボトルを机に置き、ニヤリと口角を上げる。
「ほぉ……珍しいな。お前が将来のことを考えてるなんて」
「うるせぇ。お前だって興味あんだろ?」
「まぁな。あの風切る感覚、悪くなかった。よし、決まりだ。俺とお前で免許取ろうじゃねぇか」
こうして二人は地元の教習所に申し込むことになった。
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最初の学科講習。
ゴウキは前の席に座り、真剣にノートを取っていた。
「制限速度は……市街地で40、か」
一方のジンキは後ろの席にだらしなく座り、机に頬杖をついている。
「……眠ぃ。標識なんざ見りゃわかるだろ。止まれの赤いのとか」
「お前なぁ……」ゴウキが呆れた声を出す。
「テスト落ちたら二人とも笑いもんだぞ」
「だいじょーぶだ。俺の勘は当たる」
教官に「そこの後ろ! ちゃんと聞け!」と怒鳴られ、ジンキは慌てて姿勢を正す。
「はいはい、聞いてますって」
クラスの笑いが起き、ゴウキは頭を抱えた。
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実技が始まると、さらにドタバタだった。
初めてバイクにまたがったゴウキは、慎重にクラッチを握る。
「よし……」
しかし力の入れ方を誤り、エンジンが止まった。
「ぐぬっ……」
「おいおい! 獅鬼さんよぉ、機械相手には勝てねぇのか?」ジンキが隣で腹を抱えて笑う。
だが次の番、ジンキは調子に乗ってアクセルを開けすぎた。
「うおっ! おっとっと……!」
ハンドルがぐらりと揺れ、コースを外れかける。
「……ほら見ろ」ゴウキが呆れながら笑う。
教官は額を押さえてため息をついた。
「お前ら……仲良く落ちる気か?」
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日が経つごとに、二人は少しずつ慣れていった。
ゴウキは真面目に一本橋の練習を繰り返し、徐々に安定して渡れるようになった。
「……ふぅ」成功した時、彼の口元には珍しく満足げな笑みが浮かんだ。
ジンキはスラロームで派手に曲がる練習をして、転倒しては笑い飛ばした。
「いってぇ! けどまぁ、これくらいなら余裕だな!」
「余裕じゃねぇだろ。派手に転んでんじゃねぇか」ゴウキが呆れる。
教習所の他の生徒たちからも、「あいつらまたやってる」と笑われるようになり、いつしか名物コンビになっていた。
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ある日の休憩時間。
「なぁ、なんでそんなに真面目なんだよ」ジンキが缶コーヒーを開けながら聞く。
「免許くらい、気楽に取ればいいだろ」
ゴウキは少し考えてから答えた。
「……強いだけじゃ駄目だと思ったんだ。俺ら、いま色んなやつと戦ってる。でも、それだけじゃ先に進めねぇ気がする。だから、こういうこともちゃんとやってみたい」
ジンキは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑って缶を飲み干した。
「へぇ……お前にしては難しいこと言うじゃねぇか。けど嫌いじゃねぇぜ、そういうの」
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やがて卒検の日がやってきた。
朝からゴウキは落ち着かず、何度も深呼吸していた。
「落ちたら笑いもんだぞ……」
「心配すんな。俺らは双天鬼だ。運転ぐらいで躓くかよ」ジンキが肩を叩く。
コースに出たゴウキは、一本橋をゆっくりと渡った。
「……いける……!」
最後にアクセルを軽く開けて突破した瞬間、外で見ていたジンキが大声を上げた。
「おおおっ! 獅鬼合格だぁ!」
次にジンキの番。彼は派手に走り抜けたが、きっちりルールを守り、試験官を驚かせた。
「……合格です」
「だろ? 俺は天才だからな」
二人は並んで結果を受け取り、互いに拳を合わせた。
「やったな」
「あぁ」
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免許証を手にした帰り道。
夕焼けに照らされながら、二人は駅前を歩いた。
「これで堂々と乗れるな」
「おう。次はバイク選びだな。マッスルから借りなくてもいい」
ゴウキは免許証をしばらく見つめ、口元をほころばせた。
ジンキはポケットにしまいながら、にやりと笑った。
「俺らに似合うのは、やっぱり派手なやつだな。黒光りするやつとかよ」
「……壊すなよ」
「壊さねぇよ!」
二人の笑い声が夜風に溶けていく。
血なまぐさい戦いの日々とは違う、ほんのひとときの穏やかな時間だった。
だが、その免許証が次の嵐を呼び込む切符になることを、この時の二人はまだ知らなかった。




