第5話 ナンパ大作戦
次の休み。
豪鬼と迅鬼は、朝からそわそわしていた。
「今日はやるぞ!絶対に彼女ゲットだ!」
ゴウキは鏡の前でキメ顔をつくりながら、ワックスを山ほど使いすぎて頭がカッチカチになっていた。
「……お前、そのまま頭突きしたら兜割りできそうだな」
ジンキはジャケットを羽織りながら呆れる。
普段は無駄のない動きと冷静なオーラを纏う彼も、この日ばかりは緊張でシャツのボタンを掛け違えていた。
「ぐっ……こういうの慣れてねぇからな」
「俺だって慣れてねぇよ」
二人は同時にため息をつき、また同時に吹き出す。
――こうして博多ナンパ大作戦は始まった。
―
電車内。
揺れる車両に座った二人は、まるで受験に挑む浪人生のような表情をしていた。
「なぁ、ゴウキ」
「なんだよ」
「……ここなら俺らの親父の悪評も届いてないはずだ」
「おう、もう“久里鬼の息子”とか“鷹鬼の息子”とか関係ねぇ!完全にリセットだ!」
力強く頷いたものの、二人とも手のひらは汗でぐっしょり。
吊り革を握りすぎてカクカクと揺れる姿は、周囲の乗客から「今日は何のイベントだ?」と訝しまれるほどだった。
―
博多駅に着いた瞬間。
二人のテンションは爆上がりする。
「すげぇ……女が溢れてやがる!」
「選び放題だな……!」
駅前広場を歩く女子高生たち、ショッピングバッグを抱えたおしゃれ女子、カフェで談笑する大人のお姉さんたち。
その光景に、二人は完全に圧倒されていた。
だが問題は――声をかける勇気が出ないこと。
「おいジンキ、あの子行けよ」
「お前が行け」
「なんでだよ」
「お前の方が体格いいし、守ってくれそうって思われる」
「いや、お前の方がイケメンだから!目力とか女ウケ半端ねぇよ!」
延々と譲り合い。
まるでキャッチボールするように「お前が行け」が行き来し、結局誰も声をかけられない。
その結果――周囲からは「女を睨んでる怪しい二人」と誤解され、避けられる。
―
昼を過ぎ、結局何もできずに二人はファストフード店に入った。
「……腹減ったな」
「……俺ら何しに来たんだ?」
ポテトをつまみながら沈黙。
隣の席ではカップルが仲良さそうに笑っている。
その光景を横目で見て、二人は思わず頭を抱えた。
「なぁジンキ……俺ほんとは、地元じゃモテてたんだぜ」
「俺だってモテてたわ」
「でも、女の前だと変にあがっちまうんだ」
「……わかる。結局、自分で遠ざけてただけだな」
一瞬だけしんみりした空気。
だが次の瞬間――
「親父のせいにしてたけど、全部俺らのせいだったな!」
「アホすぎだろ俺ら!」
二人は大爆笑。
笑いすぎてジュースを吹き出し、店員に「お客様……」と怒られ、さらに大爆笑。
―
夕暮れ。
博多川沿いのベンチに並んで座る二人。
「結局、何もできなかったな……」
「……ああ」
川面に映る夕陽を見つめながら、肩を落とす。
だが心のどこかで「これも悪くねぇ」と思っていた。
「……なぁゴウキ、次は必ず声かけような」
「おう!今度こそ絶対成功だ!」
強がりながらも、二人はまた顔を見合わせて笑った。
―
帰りの電車。
ぐったりと座席に沈みながら、ゴウキがぼそっと呟く。
「……でもよ、今日の俺ら、なんか青春っぽかったよな」
「……ああ。結果は最悪でも、気持ちは……最高だったな」
窓の外には夜景が流れていく。
笑い合いながら、二人はまた次の青春を夢見るのだった。
――こうして「博多ナンパ大作戦」は、盛大に失敗。
だが、その失敗すらも二人にとっては大切な一歩になっていくのだった。
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