第4話 またかよ、遠のく青春
次の日の朝。
まだ慣れない教室で机に突っ伏していたゴウキの耳に、妙に張りのある声が飛び込んできた。
「おーい! 二人とも! 大変だぞ!」
顔を上げると、昨日と同じく目をキラキラさせたコウスケが、勢いよく教室のドアを開け放って入ってきた。
黒光りするオールバックに、額の真ん中の大きなホクロ。今日も妙に存在感がある。
「……はぁ。なんだよ朝っぱらから」
ゴウキは寝ぼけ眼でうんざりしたように答える。
「昨日のお前らの喧嘩、噂になってるぞ!」
コウスケは得意げに声を張り上げた。
「特に二年! 昨日ぶっ飛ばした連中が仲間集めてるらしい! 十人くらいでお前らを狙ってるって!」
「……またかよ」
隣でノートをめくっていたジンキが、眉間に皺を寄せてため息をついた。
「俺ら、普通に青春したいって言ってんのになぁ……」
「ほんとにな」
二人が同時に肩を落とす様子に、コウスケは慌てて両手を振った。
「いや、でも正直俺も助けたいんだよ? けどなぁ……」
わざとらしく右手を持ち上げ、苦しげに握ったり開いたりする。
「俺、最近拳を痛めててさ……ドクターストップってやつ? いやほんと、残念だなぁ」
「……嘘くせぇ」
「お前、どう見てもピンピンしてんだろ」
二人が同時に突っ込むと、コウスケは「いやいや本当だから!」と慌てて首を振った。
だがゴウキとジンキは完全にスルー。教室の窓の外を見つめながら、声を揃えた。
「どうでもいい」
コウスケは一瞬しゅんとしたが、すぐに「でもな、気をつけろよ! 本当に来るからな!」と叫んで教室を飛び出していった。
―
その日の放課後。
並んで下駄箱に靴を突っ込み、校門を出る二人。
夕陽に伸びる影は、どこか疲れたように見えた。
「……なぁジンキ。俺らさ、入学二日目でこれとか、どう思う?」
「思うも何も……俺はただ、普通に女の子と帰りたいだけだ」
「だよなぁ……」
やれやれと首を振りながら歩いていると、不意に背後から怒声。
「おい新入生! ちょっと待てや!」
二人が振り返ると、そこには制服を着崩した二年生が十人。
昨日の不良たちも混じっている。彼らは腕を組み、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
その中心に立っていたのは、派手なアフロヘアの男。
黒い学生服の襟を立て、胸を張って名乗りを上げる。
「俺は田中……通称アフロだ。この学校じゃ二年でもトップクラスの実力者だ。昨日のこと、タダで済むと思うなよ」
ゴウキとジンキは顔を見合わせた。
「……誰だ?」
「知らん」
本気で知らなかった。
噂など耳に入れていない。彼らはただ、普通に青春がしたいだけの男たちだ。
「やれやれ……」
ゴウキは頭をかき、ジンキは無言で息を吐いた。
「……しょうがねぇ、やるか」
「……二日目にしてこれか」
―
先に飛び込んできたのは三人。
だがゴウキの豪腕が一人を薙ぎ払い、残る二人をジンキが瞬時に沈める。
「ぐっ……はやっ!」
「な、なんだこいつら!」
後ろで見ていたアフロが苛立ち、声を張った。
「下がってろ! こいつらは俺がやる!」
ゴウキとジンキの前に、一歩踏み出してくる。
「二人まとめて沈めてやる……!」
アフロは確かに強かった。
突進力もあり、パンチには重さがあった。
だが。
ゴウキの左腕がそれを受け止めた瞬間――
「おっせぇな!」
笑いながら右拳を叩き込む。
「ぐぉッ!」
アフロの体が宙を舞い、地面に転がった。
そこにジンキの蹴りが追撃。
「もう終わりか?」
冷ややかな声とともに、アフロは完全に動かなくなった。
残りの不良たちは一斉に青ざめた。
「や、やべぇ……! 勝てるわけねぇ!」
「逃げろ!」
蜘蛛の子を散らすように散り散りになっていく。
―
沈黙の路地。
倒れたアフロを一瞥し、二人は同時にため息をついた。
「……なぁジンキ」
「……ああ」
「俺ら、普通に彼女つくって、放課後デートして……そういう青春したいんだよな?」
「そうだ」
「なのに、なんでこうなるんだ」
「……さぁな」
二人は顔を見合わせ、同時に苦笑した。
そして帰り道。
ゴウキが不意に言った。
「よし、次の休みはナンパ行こうぜ」
ジンキは吹き出す。
「……結局それか」
「いや、これしかねぇだろ!」
二人は笑い合いながら夕焼けの街を歩いていく。
背後には、不良たちが倒れたまま残されていたが――彼らにとってはもうどうでもよかった。
青春を求めて選んだ県外の高校。
その道は、まだまだ波乱に満ちていた。
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