第3話 青春したいだけなのに
入学式が終わり、ざわつく体育館を抜けて指定された教室に向かう。
ゴウキは廊下を歩きながら、胸の内でため息をついた。
「はぁ……せっかく県外まで来て、心機一転“普通の青春”を送るつもりだったのによ……。初日から不良に囲まれて派手に暴れちまった。これじゃまた噂になっちまうじゃねぇか」
そんなことを考えながらドアを開けると、最初に目に入ったのは――既視感のある後ろ姿。
「……おい、嘘だろ」
振り返ったその顔を見て、ゴウキは頭を抱えた。
「やっぱりお前も同じクラスかよ、ジンキ!」
ジンキは机に肘をついたまま、気だるげに肩を竦めた。
「……俺だって驚いてる。まさか同じ高校、同じクラスとはな」
二人は同時に苦笑を浮かべ、席に着いた。
―
しばらくして、クラス全員が揃うと担任がやってきて簡単な挨拶をした。
その声を右から左へ受け流しながら、ゴウキとジンキは顔を見合わせ、視線だけで「あとで話すぞ」と合図を交わした。
放課後。
人の少なくなった教室の隅で、二人は向かい合って座った。
「なぁジンキ。なんで誰にも言わずに県外の高校なんか来たんだ?」
ゴウキが切り出す。
ジンキはしばらく黙っていたが、やがて観念したように笑った。
「……正直に言うと、俺さ。彼女がほしかった」
「…………は?」
「中学の頃は喧嘩ばっかで有名になったけど、女の子とは縁がなくてな。だから誰も俺のことを知らない土地で、普通に青春したいと思ったんだ」
その言葉にゴウキは一瞬ぽかんとしたが、次の瞬間――
「……ぶははははっ!」
腹を抱えて笑い出した。
「おい、笑うなよ」ジンキがむっとする。
「いや、悪ぃ悪ぃ……でもな、それ俺と全く一緒なんだよ! 俺も彼女がほしくて、青春したくて、だから県外来たんだ!」
「……マジかよ」
「マジだ。お前もか……やっぱ俺ら似た者同士だな」
二人は目を合わせ、また大笑いした。
だが次の瞬間、互いに同時に肩を落とす。
「……でもなぁ。入学初日で派手にやっちまったんだよな」
「不良五人まとめてぶっ飛ばす新入生……女子が近寄るわけないよな」
二人は揃って天井を仰ぎ、重いため息を吐いた。
―
「おーい!」
そのとき、妙に張りのある声が飛んできた。
振り返ると、教室の入り口に一人の男子生徒が立っていた。
黒髪をオールバックに固め、額の真ん中にやたらと目立つ大きなホクロ。
そして妙に年寄りじみた顔で、目をキラキラさせている。
「さっきの、見てたよ! 二人とも、めちゃくちゃ強かったなぁ! すげぇよ! 最高にかっこよかった!」
駆け寄ってきたその男は、やけに鼻息が荒い。
「俺、コウスケ! いやぁ、同じクラスにこんな化け物がいるなんて……これから楽しみだなぁ!」
あまりに無邪気な笑顔に、ゴウキとジンキは同時にため息をついた。
「……寄ってくるの、こういう奴ばっかかよ」
―
その帰り道。
並んで歩きながら、ゴウキはぼそっと呟いた。
「俺さ、背も高いし、顔だってそんな悪くないと思うんだよな。それなのに全然女が寄ってこねぇ。きっと父ちゃんのせいだ」
「……父ちゃんのせい?」
「ああ。親父、地元じゃ有名な不良で今も怖がられてるだろ。たぶん“あの久里鬼の息子だ”って思われて、みんなビビってんだ」
ジンキは吹き出しそうになりながらも、首を横に振った。
「……奇遇だな。俺もだ」
「自分で言うのもなんだが、俺、結構イケメンだと思うんだよ。けどなぜか女が寄ってこない。きっと父さんのせいだ」
「お前の父さんの?」
「ああ。俺の父さんも、お前の親父さんと一緒に不良やってただろ。しかも元プロボクサーで世界王者。地元じゃ伝説みたいに言われてるから、近寄りがたいんだろうな」
二人は顔を見合わせ、そして同時に爆笑した。
「結局どっちも親のせいかよ!」
「……自分のせいとは思いたくねぇよな!」
―
そして夕暮れ。
それぞれが別方向へ歩いて帰るはずだったのに――
ゴウキが辿り着いたアパートの前で、ジンキがカギを取り出しているのを見て、二人はまた固まった。
「……は?」
「……おい、嘘だろ」
ゴウキが指差す。
「お前、隣の部屋かよ!」
「お前こそ!」
互いに頭を抱えたが、次の瞬間にはもう笑っていた。
こうして――幼なじみで最強コンビの二人は、県外に来てもなお、青春どころか再び同じ日常を歩むことになったのだった。
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