第6話 忍び寄る影
翌朝。
校門をくぐった瞬間から、豪鬼と迅鬼は居心地の悪さを感じていた。
廊下のあちこちから視線が突き刺さる。
ひそひそ声が耳に入ってくる。
「昨日の一年、見たか?アフロを沈めたらしいぜ」
「十人まとめてやったってよ……」
「マジかよ、伝説になるぞ」
ゴウキは頭をかきながらため息をつく。
「……なぁジンキ。俺ら、普通の青春送りに来たはずだよな?」
「……そのはずだ」
二人は同時に顔をしかめる。
そこへ――背後から妙に元気な声。
「よっ!ヒーロー二人組!」
振り返ると、昨日からやたら絡んでくる同級生・コウスケ。
オールバックにでかいホクロ、そして場違いなほど眩しい笑顔を浮かべている。
「お前ら、もう学校中の噂だぜ!いやぁ、俺は最初からただ者じゃねぇと思ってたんだよ!なぁ、一緒にやろうぜ!てっぺん取ろうぜ!」
ゴウキとジンキは同時にため息。
「興味ねぇ」
「女、紹介しろ」
即答だった。
コウスケは目をパチクリさせて、次の瞬間キラキラした目で身を乗り出す。
「いるぞ!女の子!」
ゴウキとジンキの目が一気に輝いた。
「マジか!」
「早く言えよ!」
コウスケはわざとらしく顎を撫でながらニヤリ。
「ただなぁ……この学校は知ってる通り、女が一学年十人しかいねぇ。しかもヤンキー校だから、可愛い子なんてそうそう……」
二人の肩が同時に落ちた。
「いやでも!そのうち二人を紹介してやる!」
「マジか!」
「やっぱ持つべきものは友だな!」
―
放課後。
コウスケが連れてきたのは、体育館裏。
そこに立っていたのは――
「……おい、ジンキ」
「……ああ、見間違いじゃねぇ」
二人の前に現れたのは、“女子”と紹介されるにはあまりにも迫力がありすぎる人物だった。
片方は身長180を超えるゴリマッチョ。肩幅はゴウキ並みで、笑うと牙が覗く。
もう片方はガリガリに細いのに目が血走り、手には常に鉄パイプを握っていた。
「アンタらが一年の最強コンビ?うち、強い男がタイプなんよ」
「うちも。殴り合いできる男しか認めん」
二人は両腕を組んでぐいっと迫ってくる。
ゴウキとジンキは一瞬で顔を引きつらせ、冷や汗をだらだら流した。
「……なぁゴウキ」
「……なんだ」
「……青春って、こういうんだったか?」
「……違ぇな」
とりあえずその場は乾いた笑いでやり過ごし、
「ま、ま、ありがとよ!またな!」と逃げるように解散した。
―
夜。
街灯の下。
呼び出されたのはコウスケだった。
「お、おい、なんだよこんな時間に……」
「おいコラ」
ゴウキの声が低く響く。
「紹介ってのはなぁ……もっと夢のあるやつを連れてくるんだよ!」
ジンキが冷たい目を光らせる。
「モンスターじゃなくて、人間の女子をな」
次の瞬間。
ドゴォ! バキィ!
短い“お仕置きタイム”が始まり、コウスケは地面に転がって「ひぃぃ!」と情けない悲鳴を上げた。
「覚えとけよ……」
「次こそまともなの連れてこい」
二人はそう吐き捨て、颯爽と帰っていった。
―
同じ頃。
二年の教室。
「ぐ……やめ……!」
アフロが机に押し付けられていた。
髪の毛を掴まれ、顔を殴られ、鼻血を垂らしている。
「情けねぇな。たかが一年にやられて帰ってくるなんざ」
アフロを締め上げているのは、二年のトップ。
鋭い目と分厚い腕を持つ、まさに“王者”の風格を漂わせる男。
「……豪鬼と迅鬼、だと?調子に乗ってるみてぇじゃねぇか」
男は唇を吊り上げる。
「しっかり教育してやらねぇとな。ここがどんな学校かってことをよ」
アフロは殴られながら、かすかに笑った。
「……これであの二人も……終わりだな......」
だが、その声はトップには届かなかった。
嵐の前の静けさが、校舎の夜に満ちていた。
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