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第48話 ゴウキvsカウアード

倉庫の空気は血と汗で淀んでいた。

鉄骨が軋む音の中、ゴウキとカウアード――有森カズハが向かい合う。

互いに一歩も譲らず、ただ視線だけで圧力をぶつけ合っていた。


「お前が潮多の“怪力”か」カウアードが口元を歪めた。

「俺は弟とは違うぞ。組んだ相手を逃がしたことはねぇ。レスリングで鍛えた体で、お前を折る」


ゴウキは無言で肩を回す。血に濡れた拳を握り、鉄臭い空気を深く吸い込む。

「組むのが得意なら上等だ。俺の投げ、骨が砕けても知らねぇぞ」


空気が震えた瞬間、カウアードが突っ込んだ。

低いタックル。床を割るような踏み込みで、ゴウキの腰を狙う。


「ぐっ……!」

巨体が押し込まれ、後ろへ数歩よろめいた。

「捕まえた!」カウアードの両腕が腰を抱え込み、持ち上げようと力を込める。


だが、ゴウキは倒れない。

両腕を絡め、カウアードの上体を逆に抱え込むと、一気に腰を切った。


「おらぁっ!」

背負い投げ。

カウアードの体が宙を舞い、鉄板の床へ背中から叩きつけられた。轟音が倉庫に響き、砂利が舞った。


「ぐはっ……!」

吐血が飛び散り、カウアードの口角から赤が滴る。

それでもすぐに立ち上がると、懐から鉄パイプを引き抜いた。


「レスリングだけじゃねぇ。勝つためなら何でも使う。それが俺のやり方だ!」

パイプがうなりを上げる。

ゴウキの肩口に直撃、肉が裂け血が飛ぶ。


「ぐっ……!」

痛みに顔を歪めつつも、ゴウキは退かない。

「卑怯だろうが何だろうが関係ねぇ……その程度で俺は倒れねぇ!」


カウアードは歯を剥き出しにし、さらに打ち込む。

パイプが肩を叩き、背中を裂き、骨に響く鈍音を立てる。

それでもゴウキは拳を握り、目を逸らさない。


「まだ立ってんのか……!?」

周囲で見ていた大和連合の兵隊がざわめいた。

カウアードは焦りを隠すように、低いタックルで再び突っ込む。


「潰れろ!」


ゴウキは受け止め、全身の筋肉を硬直させる。衝撃が響く。

「甘ぇよ!」

抱え込んだまま、巨岩のような力で持ち上げると、そのまま床に叩きつけた。


「ぐおっ!」

カウアードの体がバウンドし、床にめり込む。

だが立ち上がる。顔は血だらけで歪み、目は狂気に光る。


「まだだ! まだ終わらねぇ!」


懐からチェーンを引き抜き、唸りを上げて振り回した。

鉄骨に当たり、火花が散る。

「これで終わりだ!」


ゴウキは腕で受け、肩で受け、血を流しながらも踏み止まる。

「どんな汚ぇ手を使おうが、俺は仲間を守るために立ってるんだ!」


チェーンを掴んだまま強引に引き寄せる。

至近距離。ゴウキの拳がカウアードの顔面にめり込んだ。


「がはっ!」

鼻梁が砕け、血が噴き出す。


それでもカウアードは最後の力を振り絞り、床を蹴った。

全体重をかけた必殺のタックル。

「これで決まりだぁぁぁ!」


「遅ぇ!」

ゴウキは腰を落とし、巨体を持ち上げた。

そのまま鉄骨の壁に叩きつける。


「ぐはぁっ!」

壁がきしみ、カウアードの体が弾かれたように崩れ落ちる。

肩で息をし、もう立ち上がれなかった。


静寂が広がった。

周囲の兵隊たちは震え、誰も近づけない。


ゴウキは血に濡れた肩を揺らし、荒い息を吐きながら立ち上がる。

その背は巨岩のように揺るぎなく、ただ一歩も退かずに立っていた。


「ひ、ひぃっ……」

兵隊の一人が悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

残った者たちも次々と背を向け、夜の街へ走り去った。


鉄骨の隙間から差す月光に、ゴウキの影が長く伸びる。

その姿はもう、ただの男ではなかった。


――獅鬼。


大和連合の兵隊たちの口から、その名が震えと共に漏れた。


ゴウキは血を拭うこともなく、荒々しい息を吐いた。

「これで……終わりだな」


夜は静まり返り、鉄骨の隙間から吹き込む風が、勝者の名を運んでいった。

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