第46話 潮多防衛戦
東地区は、昼からすでに修羅場と化していた。
大和連合が大挙して押し寄せ、制服を着た生徒なら学校を問わず襲いかかる。潮多工業も間島高校も関係ない。ただ「力で支配する」という暴力の象徴。
「うわぁああっ!」
逃げ惑う潮多の一年が、角材を振り下ろされそうになる。
その瞬間――鋭い拳が横から飛び込み、敵の顎を撃ち抜いた。
「こっから先は通さねぇ!」
香田だった。
鋭い正拳突きが次々と繰り出され、武器を持った不良たちを次々と弾き飛ばす。
「俺ら潮多の生徒に手ぇ出すなら――まず俺を倒してからにしろ!」
怒号が響き、敵が群がる。
だが香田は怯まない。鉄のように固めた拳で、正面突破するように道を切り開く。
―
「ひ、ひぃ……!」
後方で震える一年を庇うように、コウスケが前に立つ。
敵の一人が鉄パイプを振りかぶった。
「てめぇもまとめて潰してやる!」
「や、やらせるかぁッ!」
コウスケは恐怖で顔を引きつらせながらも、叫び声と共に飛び込む。
握った拳が震えていたが、必死に振り抜いた。
腹に当たった瞬間、敵が呻き声を上げて後退する。
「くそ……怖ぇけど……! でも退けねぇんだよ!」
後ろで怯える仲間を見て、コウスケは必死に立ち続けた。
その姿に香田がちらりと目を向ける。
「……上等だ、コウスケ!」
―
地鳴りのような声が響いた。
「オラァァァ!」
マッスルが現れた。
彼の巨体が敵の群れに突っ込み、両腕で数人をまとめて抱え上げる。
「潮多の生徒に手ぇ出すんじゃねぇ!」
そのまま豪快に投げ飛ばす。
コンクリートに叩きつけられた衝撃で、周囲が一瞬すくんだ。
敵がチェーンを振り下ろすが、マッスルは片腕で受け止め、握り潰す。
「そんなオモチャで俺を止められると思ってんのか!」
拳を振り抜くと、三人まとめて吹っ飛んだ。
「みんな下がってろ! 俺が壁になる!」
その背中はまるで城壁のように分厚かった。
―
「…………」
最後に前へ出たのはガリバーだった。
敵の一人が棍棒を振りかざして突っ込む。
だがガリバーは一歩も退かず、その武器を片手で掴む。
ミシミシ……と不気味な音が鳴り、棍棒が握力だけで折れた。
「なっ……!」
次の瞬間、無言で拳が突き出され、男の顎が跳ね上がる。
ガリバーは言葉を発しない。ただ黙々と、淡々と、迫る敵を打ち倒していく。
彼が一歩踏み出すたびに、数人が弾き飛ばされ、逃げ惑った。
その圧倒的な姿に、潮多の一年たちは思わず息を呑んだ。
「す、すげぇ……」
「これが……双天鬼の仲間……!」
―
香田の拳、コウスケの必死の奮闘、マッスルの豪腕、ガリバーの巨体。
四人がそれぞれに戦場を支え、潮多の仲間たちを守り抜いていた。
「オラァ! まだやんのか!」
マッスルの怒声が響く。
敵は次第に後退を始める。
「くそ……あいつらヤベぇ……!」
「四人だけで……止められるのかよ!」
やがて蜘蛛の子を散らすように、大和連合の兵隊は散っていった。
―
戦場に残ったのは、荒い呼吸と汗に濡れた四人。
香田が拳を下ろし、深く息を吐く。
「……どうにかなったな」
コウスケは尻もちをつきながらも、必死に笑った。
「い、生きてる……オレ、生きてるぞ……!」
マッスルは大声で笑い飛ばす。
「当たり前だ! 俺たちがついてんだ!」
ガリバーは静かに周囲を見渡し、低く言った。
「……だが、まだ終わってない」
四人の胸に浮かんだのは一つの不安。
ここで撃退できたのはただの兵隊。
本拠地に残っている有森兄弟や本物の幹部たちが動き出せば――。
「……ジンキ、ゴウキ。お前ら、無事でいろよ」
香田がぽつりと呟いた。
夜風が吹き抜け、血と汗の匂いをさらっていった。
潮多工業の仲間たちは立ち尽くしながら、遠く大和の方角を見据えた。




