第44話 逆襲の狼煙
翌日。
潮多工業の東側の街に、不穏な空気が漂っていた。
朝から制服姿の生徒たちが血相を変えて駆け込んでくる。殴られ、蹴られ、顔を腫らし、時には血を流しながら。
「や、やべぇ……! 大和連合が――!」
「潮多のやつらも、間島のやつらも関係なく狙われてる!」
その報せは一気に校内を駆け抜けた。
大和連合が街ごと包囲し、手当たり次第に暴れている。敵味方を問わず、“東地区は大和が支配する”という無言の宣言だった。
―
昼休み。潮多工業の旧部室。
ガリバーが机を叩いた。
「……ふざけやがって」
その低い声に、部屋の空気が震える。
香田は既に制服の袖を捲り上げ、拳を固めていた。
「生徒を狙うなんざ外道だ。俺らが出るしかねぇ」
「俺も行く」コウスケが手を挙げた。
顔は青ざめていたが、その瞳には決意が宿っていた。
「怖ぇけど……見過ごすわけにいかねぇだろ」
マッスルは肩を回し、大きな音で骨を鳴らす。
「上等だ。まとめてぶっ潰してやる。潮多のガキは俺らが守る」
四人の決意は固かった。
東地区で暴れる大和連合を食い止める――それが自分たちにできることだと。
だが、その時。
部屋の隅に座っていたゴウキが静かに立ち上がった。
「……なぁ」
全員の視線が彼に集まる。
「俺とジンキで、大和の本拠地に乗り込む」
「はぁ!?」コウスケが叫ぶ。
「無茶だろ! 相手の巣に二人で突っ込むとか正気かよ!」
「今だからだ」ゴウキの声は揺れなかった。
「兵隊の大半はこっちに来てる。頭も幹部も、守りは手薄になってるはずだ。だったら――今がチャンスだ」
香田が眉をひそめる。
「だが、下手すりゃ帰ってこれねぇぞ」
「それでも行く」
ゴウキの瞳は迷いを知らなかった。
ジンキは机に足を投げ出したまま、退屈そうに耳をほじり、にやりと笑う。
「俺も賛成だ。守りばっかじゃつまんねぇ。どうせなら本丸ぶっ潰したほうが早ぇだろ」
マッスルが唸るように声を出した。
「……本気か」
「あぁ」ゴウキは即答した。
仲間たちは言葉を失った。
止めたい。だが、二人の眼には火が灯っている。揺らぎもしない。
「……ちっ、わかった」香田が観念したように息を吐く。
「俺らは潮多の守りを固める。お前らが帰ってくるまで、絶対に誰も通さねぇ」
ガリバーは短く一言。
「……必ず戻れ」
コウスケは震える拳を握り締めた。
「絶対死ぬなよ……!」
ジンキが立ち上がり、伸びをする。
「よし、決まりだな。マッスル、バイク借りるぜ」
「お、おい! 俺の愛車だぞ! 壊すんじゃねぇ!」
マッスルが大声で怒鳴るが、その目は仲間を信じる色で揺れていた。
―
夜。
潮多工業の校門前。
月光が落ちる中、黒光りする大型バイクが唸りを上げる。
ジンキがハンドルを握り、ゴウキが背後に跨る。
「おい、運転できんのか?」ゴウキが怪訝そうに訊いた。
ジンキはエンジン音に負けない声で笑う。
「俺はなんでもできるんだよ!」
アクセルをひねる。
轟音が夜を切り裂き、タイヤが火花を散らす。
校門前で見送る仲間たちの姿が小さくなる。
香田が腕を組み、コウスケが不安げに手を振り、マッスルが歯を食いしばり、ガリバーは無言で立ち尽くす。
その視線を背に受けながら、ジンキとゴウキは東の街へと突っ走った。
風を切る感覚。
夜の街灯が流星のように背後へ消えていく。
胸に溜まるのは、恐怖ではなく昂ぶり。
「行くぞ、ゴウキ」
ジンキが吐き捨てるように言う。
「――あぁ」
背後でゴウキが短く答える。
その声は、静かな炎を秘めていた。
バイクは闇を切り裂き、大和連合の本拠地へ。
双天鬼の逆襲が、いま始まろうとしていた。




