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第42話 大和連合幹部、諸岡

繁華街の喧騒から外れた裏通り。

大和連合の取り巻きに囲まれたジンキと香田の前に、一人の男が姿を現した。


革ジャンに「大和連合」の刺繍。背はさほど高くないが、全身から立ちのぼる威圧感は異様だった。鼻梁には古い傷跡、目は獣のように鋭い。

「……俺は諸岡。大和連合の幹部だ」

低い声が路地裏に響いた瞬間、周囲の取り巻きが一斉に静まり返る。


ジンキはポケットから手を抜くと、大きな欠伸をして見せた。

「幹部だぁ? へぇ……強そうだな。でも悪ぃな」

そのまま香田の肩を軽く叩き、にやりと笑う。

「俺、ちょっと疲れた。香田、やっとけ」


「……はぁ?」香田が振り返る。

「おいおい、今さら何言ってやがる」

「だってめんどくせぇんだよ。どうせ誰がやっても同じだろ? お前の腕、ちょっと見せてやれよ」

ジンキは壁にもたれ、まるで観客のような顔をして手を振った。


香田は大きく息を吐き、仕方なく一歩前に出る。

「ったく……人使い荒ぇな」


諸岡は鼻で笑った。

「人任せか。そんな調子で潮多のトップ気取りか? 双天鬼ってのは拍子抜けだな」

「口ばっかじゃねぇか。来いよ」香田の眼光が鋭くなる。


次の瞬間、諸岡が地を蹴った。

重たい踏み込みと同時に、鋭い右ストレート。拳が風を裂き、真正面から突き刺さるように迫る。

「速ぇ!」

香田は反射的に半身でかわし、カウンターを狙う。だが、諸岡はすでに左肘を繰り出していた。


「っ……!」

肘が肩をかすめ、骨が震えるような衝撃が走る。

続けざまに諸岡は膝蹴りを突き上げてきた。

「終わりだ!」

「舐めんな!」香田は腰を沈め、拳を真っ直ぐに突き出す。


拳と膝がぶつかり、火花のような衝撃音が路地裏に響く。

二人の体が同時に弾き飛ばされた。


「……ほぉ、思ったよりやるな」諸岡が口の端を吊り上げる。

「そっちこそ、ただのゴロツキじゃねぇな」香田は肩を回し、再び構えた。


取り巻きがざわめく。幹部がここまで押されるのは珍しいのだろう。

ジンキは壁に寄りかかったまま、退屈そうに口笛を吹いた。

「ほら見ろ、いい勝負だろ。香田も本気出せば強ぇんだ」


諸岡は深く踏み込み、今度はボディを狙って低いフックを繰り出す。香田は腕で受け止めたが、衝撃は鈍い鉄塊のように重かった。

「がっ……!」息が漏れる。だがそのまま踏み止まり、逆にカウンターの膝蹴りを放つ。諸岡の脇腹に鈍い音が響いた。


「チッ……」諸岡の顔が歪む。

「どうした、幹部さん。顔色悪ぃぞ」香田は息を荒げながらも挑発を返す。


二人は互いに譲らず、拳と拳をぶつけ合う。

諸岡の打撃は重く、泥臭い。掴んでは頭突き、離れては蹴り。喧嘩の場数を踏んだ者特有の、相手を傷めつけるためだけの攻撃。

対する香田は正確無比な拳と蹴りで応戦する。余計な動きは一切なく、真っ直ぐな技が諸岡の体を確実に削っていった。


「はぁ……はぁ……」香田の額から汗が滴り落ちる。

諸岡の口元からは血が滲み、笑みと共に顎を伝っていた。

「面白ぇ……お前、名前は?」

「香田だ」

「覚えといてやるよ」


最後の一歩。

諸岡が渾身の力で踏み込み、右の拳を突き上げる。

香田は真っ向から応じ、正拳を叩き込んだ。


――ドガァッ!


轟音が路地に響き渡り、二人の体がぶつかり合った衝撃で埃が舞い上がる。

諸岡の体が大きく揺れ、ゆっくりと膝をついた。


「……まだ、終わってねぇ」諸岡は歯を食いしばり立ち上がろうとする。

だが次の瞬間、香田の拳が顎を打ち抜いた。

「これで終いだ!」


諸岡は仰向けに倒れ込み、完全に動かなくなった。


沈黙。

取り巻きの不良たちは一歩も動けず、ただ目を見開いていた。


ジンキは壁から体を離し、ポケットに手を突っ込んだまま歩み寄る。

「やっぱお前、やるじゃねぇか。いいもん見せてもらったわ」

「……お前なぁ、最初から全部押し付けやがって」香田は息を切らしながら苦笑した。


取り巻きの一人が慌てて諸岡を抱き起こす。

「く、諸岡さんが……!」

「覚えとけよ……双天鬼……!」


その声は震えていた。


大和連合の幹部を打ち破った一撃。

それは確実に、この街に新たな火種を残した。

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