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第41話 大和の街で灯る火種

休日の昼下がり。

潮多から電車で二駅、大和の繁華街はいつものように雑多な喧騒に包まれていた。ガキの笑い声とバイクの排気音、香ばしい唐揚げの匂いに、路地裏から漂う煙草のけむり。

ジンキと香田は、肩を並べてその通りを歩いていた。


「なぁジンキ……本気で来たのか?」

香田が渋い顔で問いかける。

「本気も何も、せっかくだから見に行こうってだけだろ」ジンキは手をポケットに突っ込み、飄々と答える。

「“めちゃくちゃ可愛い子がいる店”って噂を聞いてよ。ゴウキとコウスケは用事で来れねぇし、暇なら行くしかねぇだろ」

「ったく……お前ってやつは……」香田は溜息を吐きつつも、まんざらでもない表情を浮かべていた。


二人が向かったのは、商店街の一角にある小さなカフェだった。白い看板に手書きのロゴ、制服姿の女の子たちが客を呼び込んでいる。

「ほら、あそこだ」ジンキが顎で示す。

「……確かに可愛いじゃねぇか」香田は思わず声を漏らした。


しかし、楽しげな空気は長く続かなかった。


「おい、見ねぇ顔だな」

背後から低い声が飛ぶ。振り返ると、数人の不良が道を塞いでいた。肩を怒らせた特攻服、その背には赤黒い刺繍で「大和連合」と大書されている。


「潮多の制服じゃねぇか?」

「最近名が売れてる“双天鬼”ってやつか?」

周囲の連中も興味を持ったように立ち上がり、二人をぐるりと囲んでいく。空気が一気に重くなった。


「……最悪だな」香田が小声で吐き捨てる。

「なんでだ?」ジンキは飄々と首をかしげる。

「ここ、大和連合のシマだぞ」

「へぇ、そうなのか」ジンキは肩をすくめ、全く気にしていない様子だ。


大和連合の一人が唇を歪める。

「潮多のガキが何しに来やがった?」

「女見に来ただけだ」ジンキがあっさり言い切ると、一瞬周りがざわついた。


「……ふざけてんのか?」

「おいおいもしかして、てめぇらが“ドライブを潰した”って噂の双天鬼か?面白ぇ、実物はもっと潰し甲斐がありそうだ」


挑発の声に、香田が低く構える。

「ジンキ、やばいぞ。完全に狙われた」

「はは、女の話に釣られてきただけなんだけどな……」ジンキは頭をかきながら笑う。だがその笑みの奥に、わずかな緊張が走っていた。


次の瞬間、テーブルを蹴り倒すような勢いで不良たちが飛びかかってきた。


「チッ……やっぱこうなるか!」香田が迎撃に走る。

拳が閃き、真正面から突っ込んできた男の鼻を砕いた。血が飛び散り、背後に控えていた不良たちが一瞬怯む。

だが間髪入れず、別の二人が鉄パイプを振り上げた。


「危ねぇ!」香田が身を翻しながら蹴りを叩き込む。金属音と悲鳴が同時に響いた。


一方のジンキは、飛びかかってきた大男の拳を紙一重でかわし、すれ違いざまにボディを撃ち抜いた。

「ぐっ……!」男が膝をつく。

「もう一人」ジンキは軽く吐き捨て、背後から迫った敵の顎にカウンターを打ち込む。乾いた音と共に、その体は崩れ落ちた。


だが数は多い。

周囲の路地からも新たに数人が現れ、完全に二人を取り囲んだ。十人、二十人。視線の全てが敵意を帯びている。


香田は歯を食いしばりながら構える。

「ジンキ、さすがに多すぎねぇか……!」

「あ?余裕だろ」ジンキは拳を軽く握り直す。


乱闘はますます激しくなった。

香田の拳が次々と敵を弾き飛ばし、ジンキのカウンターが確実に相手を沈める。だが数の波は途切れない。


「おい、何やってんだ!」

通りの奥から別の声が飛ぶ。現れたのは大和連合の幹部格らしい男だった。革ジャンを羽織り、目つきは鋭い。

「潮多のガキが遊びに来て大立ち回りか……面白ぇじゃねぇか」


ジンキと香田が同時に目を向ける。

ただの下っ端とは違う、重たい気配。

「……こいつが大和の幹部か」香田が息を呑む。

ジンキはにやりと笑った。

「いいねぇ。今日は女を見に来ただけだが――土産話には十分だな」


幹部の男が顎をしゃくると、取り巻きたちが一斉に動いた。

夜の大和の街に、怒号と衝突音が響き渡る。


潮多から来た二人の不良と、大和連合との偶然の遭遇――それは、確実に火種となって、県全体を揺らす大乱の序章となっていった。

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