第36話 激化する衝突
鉄骨に反響した衝撃音が消えぬうちに、戦場の空気は一変した。
ジンキとドライブが向かい合う。二人の間に走る緊張は、雑魚どもの怒号すら押し殺し、ただ風の音と血の滴る音だけを響かせた。
「……行くぞ」
低く唸るような声と共に、ドライブが地面を蹴る。
踏み込み――鋭い。
その一歩はまるで瞬間移動。大地を抉るように進み出たその体から、豪腕のフックが唸りを上げた。
「っ……速ぇ!」
ジンキは身をひねって紙一重でかわす。風圧が頬を切り裂き、血の匂いが鼻を突く。
だが安心する暇はなかった。すぐさま逆側からフック。さらにまた逆――!
「ちっ!」
反射でガードを上げるが、拳が腕越しに骨を震わせる。鉄槌のような重さ。ジンキはたまらずステップバックした。
――回転が速ぇ! 左右のフックを止めても止めても、すぐ次が飛んでくる。近づけば一気に捕まる!
ドライブは冷徹な目でジンキを追う。再び鋭い踏み込み、一瞬で間合いを潰す。
「くそっ……!」
ジンキは歯を食いしばる。
――そうだ、問題はこの踏み込みだ! リーチなんざ関係ねぇ。一瞬で距離を詰めてくる!
左右のフックをなんとか受け止めたその刹那、下から突き上げるようなアッパー。
「ぐっ……!」
顎をかすめただけで脳が揺れ、視界が白く飛ぶ。皮膚を切り裂く風圧。
――やべぇ……本物だ。ドライブ……強ぇ。だが......
背後から響く仲間たちの声が遠くに感じる。香田の怒号、マッスルの咆哮、コウスケの必死な叫び……すべてが雑音に変わる。目の前にはただ、この怪物しかいない。
「逃げてるだけじゃ勝てねぇぞ、双天鬼!」
ドライブの声が叩きつけられる。再び踏み込む足音。砂利が爆ぜ、鉄骨が鳴る。
その瞬間――。
パンッ! パンッ! パンッ!
立て続けに三度、乾いた音が響いた。
「なっ……!」
ドライブの顔が揺れる。血飛沫が散り、頬が裂ける。ジンキの鋭いジャブが、呼吸の隙間を撃ち抜いていた。
「……見たぜ、二回もな」
ジンキはにやりと笑う。汗と血で濡れた顔に光が宿っていた。
「くっ!」
ドライブは歯を食いしばり、今度はフェイントを混ぜた。頭を振り、ステップをずらしながら踏み込む。真正面からのジャブをかわし、強引に懐へ潜り込む。
――ドゴォッ!
唸りを上げたのは拳ではなく――蹴り。
ドライブの脇腹に重い衝撃が走った。
「がっ……!」
呻き声を上げたのはジンキではなく、ドライブ自身だった。
ジンキの蹴りが正確にミドルへ叩き込まれていたのだ。
「なに……!」
ドライブが目を見開く。
「俺は拳だけじゃねぇんだよ」
ジンキは低く笑い、さらに連撃を叩き込む。左フック、右アッパー、ボディブロー。拳と脚が交互に繰り出され、ドライブの防御をこじ開けていく。
「ぐっ……がっ!」
ドライブは確かに豪腕を振るい反撃する。だがジンキの拳がその都度顔面を打ち抜き、胸をえぐり、顎を揺らす。被弾するたび、血が飛び散り、鉄骨に赤い飛沫が染みを作った。
周囲の雑魚どもが息を呑む。仲間たちも一瞬、手を止めてその光景に目を奪われた。
「ジンキ……強ぇ……!」
コウスケが呟く。
「あのドライブを......圧倒してやがる......」
マッスルは目を見開く。
「おい、やばいぞ……ドライブさんが押されてる……!」
間島の兵隊が震える声で吐き捨てた。
それでもドライブは膝を折らない。狂気を帯びた眼光でジンキを睨み、血を吐きながら叫んだ。
「まだだァァァッ!」
「来いよ、ドライブ……!」
ジンキは血と汗に濡れた拳を構え、さらに前へと踏み込んだ。
鉄骨が軋み、砂利が爆ぜる。
鬼と鬼の拳が交錯するたび、夜の工事現場は戦場そのものと化していった。
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