第35話 ジンキとドライブ
敵の群れがざわめく中、まず飛び込んできたのは香田だった。
「雑魚は俺らに任せろ! ジンキ、ドライブはお前が取れ!」
その声は鋭く、夜の鉄骨に反響した。香田の拳が闇を裂き、武器を構えた敵の顎を正確に撃ち抜く。歯が飛び散り、男が崩れ落ちる。間髪入れず二人目が角材を振り下ろすが、香田は半歩踏み込み、脇腹に打ち込んだ拳が鈍い音を響かせた。苦鳴を上げて折れ曲がる身体を肩で押し返し、そのまま背後の敵に叩きつける。血と汗の臭いが強まり、鉄骨に反響する悲鳴が場を満たした。
「道は俺が作る!」
彼の背は、確かにジンキの進路を切り開いていた。
「気をつけろよジンキ!」
次に飛び込んできたのはマッスルだった。巨体が鉄骨を揺らし、地面を踏み抜くような足取りで迫る。
「ドライブは怪物みてぇに強ぇぞ!」
豪快な声が響いたその直後、数本のチェーンが一斉に唸りを上げて彼に襲いかかった。だがマッスルは一歩も退かず、片腕でその鎖を受け止めると、握力だけで金属を歪ませた。ギリギリと不気味な音を立てながら鉄が潰れていく。敵が目を見開く間もなく、マッスルは相手の身体を掴み上げ、まるで布袋のように地面へ叩きつけた。ドン、と衝撃が走り、砂利が大きく跳ねた。鉄骨までも軋みを上げ、周囲の敵が思わず後ずさる。
「次はどいつだ!」
血に濡れた顔で笑うその姿は、獣そのものだった。
そこへ、さらに大きな影が差す。ガリバーだ。月明かりに照らされた巨体は鉄骨の柱と見紛うほど揺るぎない。
「…………」
無言のまま歩み出ると、角材を振りかざした敵の一撃を片手で止め、そのまま握り潰した。砕けた木片が飛び散る中、ガリバーは数人の男を同時に抱え込み、巨岩のような体重を乗せて地面へ叩きつける。地響きが夜を震わせ、土煙が舞い上がった。わずかに振り返り、低い声が響く。
「ジンキ……お前なら勝てる」
その短い言葉には、迷いのない信頼が込められていた。
「やっちまえ、ジンキ!」
最後に声を張り上げたのはコウスケだった。顔は青ざめ、腕は震えている。敵の拳をまともに受け、血を吐きながらよろめく。それでも拳を握りしめ、必死に振るう。力のない一撃でも、何度も立ち上がって放たれるその拳は、仲間を鼓舞するには十分だった。
「俺だって……やれるんだ!」
震えながら叫ぶ声は、確かに戦場全体に響いた。
仲間たちがそれぞれの戦場を切り開き、雑魚を押しとどめていく。香田の拳は鋭く敵を砕き、マッスルの豪腕は大地を揺らし、ガリバーの巨体は壁となって押し返す。コウスケの必死の声は、士気をつなぎ止めた。
その光景を目にしたジンキは、血に濡れた口元を吊り上げる。
「いいなお前ら……燃えてくるぜ」
彼は大きく息を吸い込み、満身創痍の身体を引きずりながら加速した。全身の筋肉が悲鳴を上げる。だが止まらない。敵が道を塞げば、跳び蹴りで足場に変える。雑魚の肩を踏み、鉄骨を蹴り、一直線に駆け抜けた。
「ドライブぅぅぅ!」
咆哮が夜を震わせる。月光に浮かぶその姿は、まるで鬼火のように輝いていた。
ドライブは冷徹な眼光を放ち、迫るジンキを睨み据える。
――個の力では、確かに奴らの方が上……だが、ゴウキは既に動けない......この場でジンキを潰せばすべてが終わる。奴らの戦意を砕き、双天鬼の名を地に落としてやる!
「潰してやる、双天鬼!」
怒号と共に拳を振り下ろす。その動きは重戦車の突撃のような迫力だった。
「上等だァァァ!」
ジンキも全身の力を振り絞り、拳を叩き出す。血まみれの口から、笑いすら漏れていた。
――次の瞬間。
鉄骨を震わせる衝撃音が夜を切り裂いた。砂利が爆ぜ、鉄パイプが跳ね、風がうねりをあげる。
二人の拳が激突し、互いの身体が弾かれる。その一撃だけで、戦場全体の空気が変わった。
仲間たちも敵も、思わず動きを止め、その光景を凝視する。
「……やるじゃねぇか」
ジンキが口の端を吊り上げる。
「ここで終わらせる」
ドライブの瞳は鋭く光り、再び拳を構えた。
二人の鬼の戦いが――ついに幕を開けた。
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