第34話 潮多の反撃
ジンキは踏み込むや否や、正面から突っ込んできた男の拳を紙一重でかわした。空を切った鉄パイプの風圧を頬で感じつつ、逆に懐へ潜り込み、鋭いボディブローを突き上げる。鈍い音と共に男の身体が折れ曲がり、膝から崩れ落ちた。
「次だ!」
叫ぶよりも早く、背後から角材が振り下ろされる。ジンキは一歩踏み込み、身体をひねって空振りさせ、その反動に合わせてカウンターの右ストレートを顎に叩き込む。骨がきしむ音と共に、男は白目を剥いて倒れ込んだ。
群れを相手にしても、ジンキの動きは止まらない。ボクシング仕込みの動体視力が敵の動きを正確に捉え、次の一手を見切る。正面から殴り合うのではなく、角度を変えて潜り込み、隙を逃さず打ち抜く。まるで群れの中を泳ぐ獣だ。息は上がっていくが、致命的な被弾は避けていた。
壁際に崩れたゴウキは、その姿を薄れる意識で追っていた。
――やっぱり群れ相手はジンキの領分だ。俺はタイマンなら負ける気しねぇが、大勢を相手にすると、どうしても消耗しちまう。投げて潰しても、自分の体が削られていく。……だが、あいつは違う。
「へっ、まだまだいけるぜ!」
ジンキの声が夜に響いた。血を浴びながらも、その顔には笑みがあった。
だが敵は尽きない。資材置き場の陰から次々と現れ、鉄骨の隙間を埋め尽くす。鉄パイプ、チェーン、角材、工事用スパナ。数は二十人以上に膨れ上がる。さらに、ゴウキが倒した三十人の中からも呻きながら立ち上がる影があった。顔を腫らし、腕をぶら下げながらも武器を拾い、列に加わる。
「……チッ、立ちやがったか」
ジンキは舌打ちしたが、笑みを崩さなかった。
「かかってこいよ……まとめて相手してやる!」
その一声で、工事現場は地鳴りのように揺れた。数十の足音、振り下ろされる武器、怒号。ジンキは両足を踏み込み、迫る連打を捌き、潜り、打ち返す。右、左、ボディ、フック。拳が閃光のように走り、敵が次々と沈んでいく。
だが、息は荒くなり、肩が激しく上下する。限界は迫っていた。
「ハァ……ハァ……確かに、数の暴力はやっかいだ......けどな――俺は一人じゃねぇ」
その言葉通りだった。
「お、おい……遅れてすまねぇ!」
資材置き場の影から、コウスケが半ば転げるように飛び出した。顔は青ざめ、膝は笑っている。だが拳を握りしめ、必死に突っ込む。敵の胸に拳を叩き込み、よろめかせながらも必死に踏ん張る。
ジンキは血まみれの顔で笑った。
「お前にしちゃ上等だ、コウスケ!」
続いて現れたのは香田だった。無言で落ちていた鉄パイプを蹴り飛ばし、素手で構える。
「……待たせたな」
その拳は鋭く、迫る男を殴り飛ばす。正拳突き、膝蹴り、蹴り。鍛えられた体術が武器を持つ敵を退かせていく。
さらに、月明かりに巨大な影が現れる。ガリバーだった。寡黙に一歩ずつ進み出て、振り下ろされた鉄パイプを片手で掴み、握り潰す。
「…………」
無言のまま敵を豪腕で投げ飛ばし、数人まとめて地面に叩きつけた。その存在感だけで戦場の空気が揺らいだ。
そして――雷鳴のような声が轟く。
「お前ら大丈夫かぁ!!」
マッスルだった。鉄骨を蹴破るように現れ、その巨体は月光に照らされ岩のように光る。チェーンを素手で引きちぎり、敵を両腕で抱え込んで宙へ。豪快に投げ飛ばされた男たちが地面に叩きつけられた衝撃は、地鳴りのように響いた。
敵の群れが一瞬怯む。工事現場全体が静まり返る。
ジンキは仲間たちを見渡し、血に濡れた口元で笑った。
「ははっ……これで形勢逆転だ」
朝日の顔が初めて歪む。
「……ガリバー……それにマッスルまで……! お前ら、双天鬼の下についていたのか……!」
その声には、これまでなかった焦りが混じっていた。
壁にもたれたゴウキは、その光景を見て薄く笑った。
――やっぱ、仲間っていいもんだな。
夜の工事現場に、再び咆哮と怒号が轟いた。
鉄骨に反響する衝突音。
双天鬼とその仲間たちを中心に、新たな大乱闘が幕を開けた。
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