第24話 双天鬼、受け継がれる意志
教室の空気が、明らかに昨日までとは違っていた。
潮多工業の生徒たちの視線が、すべて一点に集中している。
「おい、あれが……」
「双天鬼だ……」
「拍岩四十人を数分で潰したんだぜ......」
耳に届く囁きは、驚愕と畏怖が入り混じっている。
今まで「正体不明の一年」として避けられていたゴウキとジンキに、今や学校中の目が釘付けだった。
だが、本人たちは戸惑っていた。
「……なんかよ、居心地わりぃな」
ゴウキが椅子にふんぞり返りながら、落ち着かない様子で呟く。
ジンキも腕を組んで窓の外を見た。
「昨日までは避けられてたのに、今日はこれか。人間って勝手だな」
「双天鬼さん、おはようございますッ!」
顔も知らぬ一年が、教室の前でいきなり直立不動。
「は、はぁ?」ゴウキが目を丸くする。
「昨日の戦い、感動しました! ついていきます! 応援してます!」
そう言って去っていく背中を見送りながら、ジンキは深いため息をついた。
「……青春したいって言ってたの、覚えてるか?」
「覚えてるわ! これじゃ逆に全然できねぇ!」
「俺も同感だ」
二人の声に、隣で見ていたコウスケが肩をすくめる。
「いや、でも実際お前らカッコいいしな。人気出るのは当然だろ」
「そういうことじゃねぇんだよ……」二人同時に返した。
結局、休み時間になると四人――ゴウキ、ジンキ、香田、コウスケは校舎裏から屋上に出た。
―
屋上に吹き込む風は、昨日の喧騒が嘘のように涼しかった。
誰もいない広い空間に腰を下ろし、ゴウキが頭をかく。
「なぁ……やっぱ俺ら、普通に青春したいんだよ。彼女作って、遊んで……そういうの」
ジンキもうなずいた。
「喧嘩で名前を売りたいわけじゃない」
その言葉を聞いた香田は、しばらく黙っていたが、やがて真っ直ぐな目で二人を見た。
「……甘ぇな」
「は?」ゴウキが眉をひそめる。
「お前らはその力を使って、今まで道を切り拓いてきたんだろ。拳で相手をねじ伏せ、気づけば周りはお前らの背中を見てた」
香田の声は静かだったが、確かな熱を帯びていた。
「お前らが望んでなくても、その背中に色んなもんが乗っかってんだ。だったら簡単に途中で降りるなんてできねぇ。……もし降りたいんなら、今すぐ不良やめてお家に帰りな」
ゴウキとジンキは言葉を失った。
胸に突き刺さる言葉。
風が吹き抜ける音だけが、二人の沈黙を包んだ。
コウスケは大きく頷きながらも、内心で冷や汗をかいていた。
(こいつ……なんか俺のポジション狙ってね? いつの間にか“参謀ポジ”取ろうとしてない?)
妙な焦りでソワソワしていると、不意に屋上の扉がガラリと開いた。
「……お前ら、ここにいたか」
四人が一斉に振り向く。
「なっ……!」
そこに立っていたのは、三年のトップ――マッスルだった。
「なんだよ、仕返しか?」ゴウキが拳を握りかける。
だがマッスルは首を横に振った。
「そんなんじゃねぇ。昨日の戦いを見て、俺はわかったんだ。……お前らには勝てねぇ」
「……」
「だから今日は、これからのことを話しに来た」
その言葉とともに、マッスルが背後に視線を投げた。
「おい、出てこい」
現れたのは――ガリバー。
二年を束ねるトップだ。
「なっ……」コウスケが目を剥く。
「お前らも知ってるだろうが、ガリバーは二年のトップだ。今日から……ガリバーはお前らにつく。そして――俺もだ」
屋上に衝撃が走った。
ゴウキとジンキは、思わず目を見開いた。
「はぁ!? お前らが!?」
マッスルは静かに頷く。
「勘違いすんな。常に一緒に行動するわけじゃねぇ。ただ……昨日のお前らを見て、潮多を守るって意志は伝わった。だから、これからは何かあったら俺らも力になる。それだけを伝えに来た」
ガリバーも前に出て、無言でうなずく。
「二年の面子も、昨日で吹っ切れた。お前らに従う。それでいい」
ジンキはしばらく考え、やがて小さく笑った。
「……助かる。よろしくな」
ゴウキは頭をかきながら、少し照れ臭そうに笑う。
「まぁ……そういうことなら、悪くねぇか」
香田はにやりと笑った。
「おもしれぇな……これからはもっとデカいことになりそうだ」
コウスケは一人だけ焦りを隠せず、心の中で叫んでいた。
(やべぇ……完全に俺だけ置いてかれてる!? このままじゃホントに“参謀枠”取られる……!)
だが、そんな不安も屋上に吹き抜ける風が掻き消していった。
新たな絆が結ばれた瞬間だった。
―
潮多工業の空気は、大きく動き始めていた。
双天鬼の存在が、学校全体の均衡を変え、さらにその周囲をも巻き込んでいく。
彼らの青春は――まだ始まったばかりだ。
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