第23話 校内大乱闘
校庭に緊張が張り詰める。
潮多工業の生徒たちが窓越しに固唾を呑んで見守る中、拍岩高校の四十人が狂ったように叫んでいた。
「双天鬼! 出てこい!」
「マッスルもいねぇ潮多なんざ終わりだ!」
その叫びに応えるように、土煙を蹴立てて現れたのは四人。
ゴウキ、ジンキ、香田、そして後ろに控えるコウスケ。
「おい……ほんとに出てきやがった……!」
「一年だぞ、あれ……」
「でもあいつら、マッスル倒したって……」
ざわめきが広がる。
ゴウキは腕をぶんぶん回し、顎を鳴らして笑った。
「あー、イライラするぜ。おい、ジンキ」
「なんだ」
「今日は数が多い。体慣らしにはちょうどいい」
「ふっ……勝手にやれ」
香田は拳を握り、にやりとした。
「お前ら二人に負けてられっかよ」
コウスケは喉を鳴らしながら震えた声を出す。
「お、おう……俺は後方支援担当だ! ちゃんと確認してトドメさすからな!」
「それ支援って言わねぇだろ」ジンキが呆れた顔をした。
その一瞬のやりとりで、拍岩のボス格の金髪が歯ぎしりしながら吠えた。
「やっちまえええええ!」
怒号とともに四十人が一斉に突っ込んできた。
―
先陣を切ったのはゴウキだった。
大柄な体を前に出し、殴りかかってきた一人の拳をまともに受ける。
「ぐっ……!」周囲が息を呑む。
だがゴウキは眉一つ動かさず、その腕をがっしりと掴んだ。
「効かねぇなぁ......お返しだ」
そのまま柔道仕込みの大外刈り。
バキィッと骨が軋む音がし、相手は地面に叩きつけられて動かなくなった。
「次ッ!」
飛びかかってきた二人をまとめて抱え上げ、豪快に巴投げ。
ドガァッと土煙が上がり、不良が二人まとめて沈む。
「うぉおおお!」
「な、なんだあの力……!」
まるで戦車のように突き進み、殴られても蹴られても前に進む。
ゴウキは笑っていた。
「ちっとは効く攻撃してみろや、拍岩ァ!」
―
その横を、影のようにジンキが駆け抜ける。
敵の群れの間を縫うように動き、拳を最小限の軌道で放つ。
「ッ!」
ジャブが一つ。
顎を撃ち抜かれた不良が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「シッ!」
ショートアッパー。鳩尾を突かれた男が胃液を吐きながら膝をつく。
次の瞬間、左右から襲い掛かる二人。
ジンキは腰を落とし、後ろ足を捻り込むように左ストレート。
その威力は見物していた生徒の頬にまで風圧を感じさせ、敵は宙を舞った。
「速ぇ……!」
「見えねぇ……」
ジンキは一切表情を変えない。
まるで機械のように、正確無比なボクシング技術で敵を沈めていった。
―
香田も負けてはいなかった。
背丈はそこまで大きくはないが、喧嘩慣れした勘と攻めの強さは本物だ。
「オラァッ!」
掴みに来た腕を払って頭突き。
鼻血を撒き散らして不良が崩れる。
「テメェら、数だけじゃ勝てねぇんだよ!」
蹴りを放ち、敵の膝を的確に狙う。バキッと嫌な音を立て、相手が倒れ込む。
仲間を庇おうとした拍岩の三人が同時にかかってきたが、香田は一歩も引かず殴り返した。
「調子に乗るな!!」
その勢いに圧され、相手は次々と地面に伏せた。
「やるじゃねぇか、香田!」ゴウキが笑う。
「当たり前だ!」香田は拳を振って応えた。
―
一方、後方のコウスケ。
震えながらも必死に動いていた。
「こ、こいつ……動いてないよな? お、おう、動いてねぇな……」
倒れている不良の顔を覗き込み、確かめる。
「じゃ、じゃあトドメっと!」
靴底で小突きながら確認していく。
「お、お前ら頑張れー! 俺も地味に戦力だぞー!」
生徒たちはドン引きだったが、必死さだけは伝わった。
―
拍岩高校の不良が次々に倒れていく。
金髪のボス格は顔を引きつらせ、汗をダラダラと流し始めた。
「ば、馬鹿な……! 四十人だぞ!? こんな……!」
仲間が地に沈むのをキョロキョロと見回し、焦燥を隠せない。
彼は震える拳を握りしめ、叫んだ。
「てめぇら! 俺が誰か知らねぇのかーー!」
その言葉が終わるより早く。
「知らねぇよ」
低い声が重なった。
気づいた時には、双天鬼が目の前に立っていた。
ゴウキとジンキ。二人の拳が同時に振り抜かれる。
「ぐはぁっ!」
轟音。金髪の男の顔面に二人の拳がめり込み、数メートル吹っ飛んで地面を転がった。
完全に気絶。
―
戦いは――ものの数分で終わった。
校庭に横たわる拍岩高校の不良たち。
立っているのは、双天鬼と香田、そしてコウスケだけ。
沈黙を破ったのは潮多の生徒たちのざわめきだった。
「……嘘だろ」
「四十人が……」
「数分で……」
次の瞬間、爆発するような歓声が校舎中に広がった。
「うおおおお! 双天鬼だ!」
「マッスルを倒しただけじゃねぇ! 四十人も蹴散らしたぞ!」
「やべぇ……マジで伝説が始まった!」
―
その光景を、少し離れた場所でマッスルが見ていた。
彼は腕を組み、目を細める。
「……信じられねぇ」
自分が守ってきた潮多が、今は別の力で守られている。
その事実に悔しさと、わずかな安堵が混じっていた。
「双天鬼……やつら、本物だ」
ゴウキは肩を回し、ジンキは汗を拭った。
香田は息を荒げながらも笑みを浮かべ、コウスケは両手を広げて震えながら叫ぶ。
「勝ったぁぁぁぁぁ!」
潮多工業の空気が、一瞬にして塗り替わった。
双天鬼の名は、この日決定的に校内へと刻み込まれたのだった。
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