表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/27

一閃

今日最後です。明日から1日1話投稿しますのでよろしくお願いします♪

赤備えが風のように駆けた。


幸村の槍が、一直線に巨大な獣の喉元を貫かんと走る。


だが――


ガキィンッ!


鋭い音と共に、槍は弾かれた。


「……。」


幸村は静かに間合いを切る。


肉を貫いた感触ではない。


まるで鉄を突いたような手応えであった。


獣は低く唸り、赤い瞳で幸村を睨みつける。


「獣では……ないか。」


その瞬間。


巨体が石畳を砕きながら飛びかかる。


幸村は半歩だけ身を引いた。


牙が鼻先を掠める。


返す槍。


石突が獣の顎を打ち抜く。


鈍い音と共に巨体がわずかによろめいた。


「殿!」


清海が倒れた兵へ駆け寄る。


「まだ息がある!」


肩へ担ぎ、人混みの外へ運び出す。


伊三は鎖に繋がれた女や子どもたちの前へ立った。


「こちらへ!」


逃げられる者だけでも逃がそうと手を振る。


だが、鎖に繋がれた者たちは動けない。


その時。


獣が大きく尾を振るった。


ドォン!


凄まじい風圧が広場を吹き抜ける。


石畳の欠片が辺りへ飛び散った。


伊三は咄嗟に身を翻し、少女たちを庇う。


「伏せろ!」


それでも一つの小石が黒き少女の額を掠めた。


白い肌に赤い筋が走る。


少女は顔をしかめることもなく、静かに立っていた。


幸村の瞳が細くなる。


その一瞬。


獣が口を開いた。


今だ。


幸村は地を蹴る。


懐へ飛び込み、


顎の下から槍を突き上げた。


「はぁぁぁっ!」


穂先は柔らかな喉を貫き、


脳天へ突き抜ける。


獣の目が見開かれ、


やがて力なく崩れ落ちた。


ズゥン……。


広場は静寂に包まれる。


誰も動けなかった。


幸村は槍を引き抜き、穂先の血を静かに払う。


その時だった。


幸村は額から血を流す少女へ歩み寄った。


「大事ないか。」


少女は何も答えない。


ただ幸村を見つめていた。


そこへ一人の男が割って入る。


「おい。」


「奴隷に近付くな。」


幸村の足が止まる。


「奴隷……。」


聞き慣れぬ言葉であった。


男は少女の首輪から伸びる鎖を無造作に引いた。


「来い。」


少女の体が前へよろめく。


額から流れる血が石畳へ落ちる。


男はその血を見ることもない。


まるで荷物でも引くように、再び鎖を引いた。


「さっさと歩け。」


少女は痛みを訴えることもなく歩き出す。


その瞳だけが、静かに幸村を見つめていた。


ツカ……


ツカ……


ツカ……


幸村は男の前まで歩く。


男が眉をひそめた。


「何だ。」


ドゴッ!!


拳が男の顔面へめり込む。


男は石畳を転がり、動かなくなった。


広場から音が消える。


幸村は倒れた男を見下ろした。


「女子供に手を上げるとは。」


「見下げ果てた男よ。」


少女はその姿を見つめる。


そして。


ほんの一瞬だけ。


口元がわずかに緩んだ。


誰にも気付かれぬほど、小さく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ