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黒き少女

今日はあと2話載せます

町門をくぐると、石畳の道がまっすぐに伸びていた。


左右には店が軒を連ね、見慣れぬ品々が所狭しと並べられている。


商人たちの呼び声。


行き交う人々の笑い声。


荷車の軋む音。


日の本とはまるで違う町並みでありながら、人々の営みそのものは、上田や大坂の市と変わらぬように見えた。


幸村は静かに辺りを見回す。


行き交う者たちの髪は、金、赤、淡い茶。


瞳も青や緑など、幸村たちには見慣れぬ色ばかりであった。


反対に、町の者たちもまた、幸村たちを物珍しそうに眺めている。


赤備えの具足も、槍も、この町ではひどく目立っていた。


「殿」


清海が足を止めた。


その目は道端の店へ向けられている。


店先には、丸く焼かれた食べ物が幾つも並んでいた。


表面には淡い焼き色が付き、柔らかそうに膨らんでいる。


そこから漂う香りは、香ばしく、どこか甘い。


「見慣れぬ餅にございますな」


伊三が鼻をひくつかせる。


「餅かどうかは分からぬ」


幸村が答えると、清海は真剣な顔で品を見つめた。


「されど、食えることは間違いありますまい」


その言葉を待っていたかのように、清海の腹が大きく鳴る。


続いて、伊三の腹も応えた。


二人は黙って顔を見合わせる。


「殿」


「ならぬ」


幸村は店先を見たまま答えた。


「まだ何も申しておりませぬ」


「銭がないのであろう」


清海と伊三は、そろって肩を落とした。


「まずは、この町を知らねばならぬ」


幸村はわずかに口元を緩める。


「食うのは、その後じゃ」


「その後には食えるのでございますな」


「さあな」


「兄者、望みはあるぞ」


「うむ。黄泉も捨てたものではない」


二人はたちまち顔を明るくした。


その時だった。


通りの先が、にわかに騒がしくなった。


人々が左右へ避け、道の中央を空けていく。


現れたのは、武器を携えた数人の男たちであった。


その後ろを、女や子どもたちが一列に並び、歩かされている。


手首には縄。


首には鉄の輪。


鉄の輪から伸びる鎖が、前後の者を繋いでいた。


衣服は汚れ、誰もが俯いている。


「罪人か」


伊三が小さく呟いた。


清海は眉をひそめる。


「されど、女子や幼子までおるぞ」


幸村は答えず、一団を見つめた。


罪人を引き立てるにしては、扱いがあまりにも荒い。


男たちは縄を引き、まるで牛馬でも運ぶかのように人々を歩かせていた。


「足を止めるな!」


先頭の男が怒鳴る。


その言葉は、幸村たちにもはっきりと理解できた。


鞭が空を裂く。


乾いた音に、列の中の幼い子どもが肩を震わせた。


幸村の眉がわずかに動く。


その列の中に、一人の少女がいた。


まだ幼い。


痩せた体に、擦り切れた布をまとっている。


髪は黒。


瞳も黒。


幸村たちにとっては、何ら珍しくもない色であった。


されど、この町へ入ってから目にした者の中で、その色を持つ者は少女ただ一人だった。


少女が顔を上げる。


幸村と目が合った。


他の者たちは皆、俯いている。


怯えている者もいる。


泣いている者もいる。


だが、その少女だけは違った。


助けを求めるでもない。


悲しみを訴えるでもない。


ただ、真っ直ぐに幸村を見ていた。


槍でも。


具足でもなく。


その奥にある何かを見極めようとするような目だった。


幸村もまた、目を逸らさなかった。


ほんのわずかな間。


二人の視線が重なる。


その刹那。


少女の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


笑ったようにも見えた。


だが、それはあまりにも一瞬のことで、次の瞬間には、再び何の表情もない顔へ戻っていた。


「歩け!」


男が鎖を乱暴に引いた。


少女の小さな体が前へよろめく。


それでも、少女は声を上げなかった。


振り返ることもなく、再び歩き始める。


一団が通り過ぎた後も、幸村はその背を見つめていた。


「殿」


伊三が静かに問う。


「あの者たちは、いったい何なのでござりましょう」


「分からぬ」


幸村は短く答えた。


清海が険しい顔で言う。


「女子や幼子を鎖で繋ぐとは、穏やかではありませぬな」


「うむ」


まだ、この町の決まりも事情も知らぬ。


知らぬまま刀を抜けば、ただの狼藉者である。


それでも。


胸の奥に残った小さな引っ掛かりは、どうしても消えなかった。


人混みの向こうへ消えていく、黒髪の少女。


その黒い瞳と、ほんの一瞬だけ浮かんだ笑みが、いつまでも幸村の中に残っていた。

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