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異世界真田太平記  作者: まん丸


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小さな訪問者

 上田の領主館。


 軍議を終えた幸村たちは、そのまま一人の客人を迎えていた。


 年の頃は、銭とそう変わらない。


 上質ではあるが華美ではない衣服を身につけ、背筋を真っ直ぐに伸ばした少女。その後ろには、年嵩の男を筆頭に数名の者が控えている。


 少女は幸村の前まで進むと、美しい所作で頭を下げた。


「お初にお目にかかります。カミーユ・ロダンと申します」


「ロダン……」


「はい。先の戦にて亡くなりましたロダン男爵の娘にございます」


 部屋の空気が僅かに張り詰めた。


 海野六郎は黙ったまま少女を見る。


 佐助も壁際で腕を組み、カミーユの後ろに控える者たちへ視線を走らせていた。


「カミーユ」


「はい」


「そなたの父御を討ったのは、わしじゃ」


 後ろに控えていた男たちの顔が強張った。


 だが、カミーユは目を逸らさなかった。


「存じております」


「……そうか」


「そして」


 膝の上に置かれたカミーユの小さな手が、強く握られる。


「父を討った真田様を、私は恨んでおります」


 佐助の目が細くなった。


 六郎も何も言わない。


 幸村だけが、少女を見ていた。


「当然じゃ」


 カミーユが僅かに目を見開いた。


「父を討たれて、恨まぬ娘がおるものか」


「……」


「それで、今日はわしを討ちに来たのか?」


「いいえ」


 カミーユは即座に答えた。


「父はもう戻りません」


 声は震えていない。


 だが、握られた手だけは白くなるほど力が入っている。


「私が真田様を討ったとしても、父は戻りません。領民の腹が満たされるわけでも、荒れた畑に麦が実るわけでもありません」


 六郎が僅かに眉を上げた。


 十歳ほどの少女が口にするには、あまりに重い言葉だった。


「私には兄も弟もおりません。父亡き今、ロダン家を継ぐのは私です」


「その後ろの者たちは?」


「ロダン家に仕える者たちです」


 カミーユの後ろにいた年嵩の男が、一歩前へ出て頭を下げた。


「我らは代々ロダン家に仕え、領地の政を担っております」


 六郎が尋ねる。


「兵ではないのか」


「はい。我らは税、商い、街道、倉、農地などを預かる者にございます。戦働きには、とても」


「なるほど」


 六郎の目が変わった。


 その変化に佐助だけが気づいた。


「ご家老様、なんか嬉しそうだな」


「黙れ」


「仕事を押しつけられる相手を見つけた顔してるぞ」


「黙れと言うておる」


 幸村は横を向いて笑いを堪えた。


「それで、カミーユ。今日は何用で参った」


「はい」


 カミーユは改めて幸村へ向き直った。


 一度、大きく息を吸う。


 そして深く頭を下げた。


「お願いがございます」


「申せ」


「ロダン家を」


 カミーユの声が、ほんの僅かに震えた。


 それでも言葉を止めない。


「ロダン家を、真田様の臣の一人に加えていただきとうございます」


 誰も声を出さなかった。


「……臣に?」


「はい」


「領地ではなく、ロダン家そのものが、か」


「はい」


 幸村は少女の後ろにいる者たちを見た。


「皆も承知しておるのか?」


 年嵩の男が頭を下げる。


「意見は割れました。今も納得しておらぬ者はおります」


「であろうな」


「ですが、我らはカミーユ様の決断に従います」


 幸村は再びカミーユを見る。


「何故、真田じゃ」


「我が領を守るためです」


「王国では守れぬか?」


 カミーユは首を振った。


「我が領は、王国の中では豊かな方にございます」


「ほう」


「いくつもの街道が交わり、多くの商人が行き交います。市場もあり、倉もございます。父は街道と橋の維持に力を入れ、商人から無理に金を取ることもいたしませんでした」


 六郎が身を乗り出した。


「それゆえ商いが生きておるのか」


「はい」


「……珍しい」


 六郎が呟く。


「王国の他領は?」


「詳しくは存じません。ただ、我が領へ来る商人からは、税が重くなった、兵に取られた、荷を奪われたという話をよく聞きます」


「なるほどのう」


 幸村が顎に手を当てた。


 カミーユは続ける。


「だからこそ、次は我が領です」


「次?」


「兵を取られます。食糧を取られます。馬を取られます。そして、金を取られます」


 六郎の目が鋭くなった。


「王国が次の軍を起こすと考えておるのか」


「父を討たれた娘が、真田様の前で申すことではないかもしれません」


 カミーユは一瞬だけ視線を落とした。


「ですが、王国がこれで終わるとは思えません」


 六郎が幸村を見る。


「殿」


「うむ」


 幸村も同じことを考えていた。


「ロダン家には、それを拒むだけの兵がおりません」


「ゆえに真田へ?」


「はい」


「父御の仇である、わしに頭を下げてでもか」


 カミーユの唇が僅かに震えた。


 しばらく沈黙した後、小さく答える。


「……はい」


 幸村はその姿を見つめた。


 十歳ほどの少女。


 父を失ったばかりの娘。


 それでも泣かずに、自分の家と民を背負ってここへ来た。


「カミーユ」


「はい」


「顔を上げよ」


 カミーユが顔を上げる。


「わしを許さずともよい」


「……」


「父御のことを忘れる必要もない。恨みたければ、恨めばよい」


 カミーユの瞳が揺れた。


「されど」


 幸村は少女を真っ直ぐ見た。


「真田の臣となるならば、そなたも、ロダン家も、その民も、真田が守る」


 カミーユはしばらく何も言わなかった。


 やがて深く頭を下げる。


「……ありがとうございます」


 幸村が頷いた。


「六郎」


「は」


「頼む」


「承知いたしました」


 六郎はすぐにロダン家の者たちを呼び寄せ、領地の詳しい話を聞き始めた。


 人口、村、畑、倉、税収。


 商人の数、荷の流れ、橋の状態。


 話を聞くほど、六郎の表情が変わっていく。


 ロダン家は戦に強い家ではなかった。


 だが、領地を治めることには長けていた。


 父を失った後も領内が大きく乱れずに済んでいたのは、カミーユを支える彼ら文官たちの働きによるところが大きい。


「殿」


「なんじゃ」


「この者ら、使えまする」


「そうか」


「かなり」


 六郎が珍しく即答した。


 佐助が笑う。


「ご家老様の顔が明るくなったな」


「佐助」


「なんだ?」


「後で仕事をやる」


「なんでだよ!」


 そんなやり取りを横に、地図が大きく広げられた。


「これは……」


 六郎が地図の一点を見る。


「殿。先ほど話していた場所にございます」


 幸村も地図を覗き込んだ。


 複数の街道が交わり、川が流れ、その周囲を山々が囲んでいる。


 人が集まり、物が集まり、そこから再び各地へ流れていく。


 交通の要所。


 そして、その地形。


「……やはり似ておる」


「某もそう思います」


 カミーユが二人を見る。


「何が、でしょうか?」


「日の本に、よう似た場所があっての」


「日の本……」


「わしの故郷の近くじゃ」


 幸村は地図の一点を指した。


「この辺りは何と呼ぶ?」


 カミーユが現地での名を答える。


 幸村は地図を眺め、少し考えた。


「カミーユ」


「はい」


「この地、沼田と呼んでもよいか?」


「ヌマタ……でございますか?」


「うむ」


「真田様の故郷にあった地の名なのですね?」


「そうじゃ」


 カミーユは地図へ視線を落とし、やがて頷いた。


「では、その名をいただきます」


「そうか!」


 幸村が嬉しそうに笑う。


 佐助が頭を抱えた。


「また増えたよ……」


「何がじゃ」


「殿が勝手に名前を変えた場所だよ!」


「カミーユはよいと申したぞ」


「そういう問題じゃねえ!」


 六郎は二人を無視して地図を見ていた。


「しかし殿、この地は大きい」


「うむ」


「上田へ物を運ぶにも、周辺へ物を送るにも使えます。ここを押さえれば、兵だけではなく商人も動かせる」


 六郎は指先で街道をなぞった。


「これは兵の通る道だけではございませぬ」


「何の道じゃ?」


「銭の通る道にございます」


 幸村が笑った。


「それは大事じゃな」


「大事どころではございませぬ」


 六郎は珍しく強い口調で答えた。


 王国の多くの土地で商いが細り、人と金の流れが滞り始めている中、ロダン領ではまだ銭が流れている。


 その中心となる地が、真田へ加わった。


 沼田。


 それは真田にとって、新たな領地というだけではなかった。


 上田を外の世界へと繋ぐ、新たな道でもあった。


     ◇◇◇


「ぎゃああああああ!!」


 領主館を出ようとしていたカミーユは、庭から響いた悲鳴に足を止めた。


「……何事です?」


 後ろを歩いていた文官も首を傾げる。


「さて……」


「ぬおおおおおおお!?」


 今度は野太い声だった。


 カミーユは思わず庭を見る。


「……見てまいります」


「カミーユ様?」


 庭へ向かうと、妙な光景が広がっていた。


 子供たちが転がっている。


 十人ほどの童が土まみれになり、あちらこちらで呻いていた。


 その中央に立っているのは、美しい金髪の女。


 由利鎌之助。


 そして。


「鎌之助殿! 話が違うではないか!」


 大男が地面に転がっていた。


 三好清海である。


「何が違う」


「某は助手と聞いたぞ!」


「助手ではないか」


「先ほどから投げられてばかりではないか!」


「よく働いておる」


「これは助手とは言わぬ! 稽古台じゃ!」


 鎌之助が鼻で笑った。


「今頃気づいたか、木偶の坊」


「誰が木偶の坊じゃ!」


 その横では、銭が地面に大の字になっていた。


「もう……動けん……」


 アーニーも隣で倒れている。


「だから俺は嫌だって言ったんだ……」


「何を申す!」


 鎌之助が振り返った。


「まだ始めたばかりではないか!」


「もう百年くらいやった気がするぞ!」


「アーニー、弱音を吐くな!」


 銭が勢いよく立ち上がろうとして、そのまま再び倒れた。


「お前も立ててねえじゃん!」


 カミーユは呆然とそれを見ていた。


「……何をしているのですか?」


 全員が振り返った。


 銭が泥だらけの顔でカミーユを見る。


「誰じゃ?」


「カミーユ・ロダンです」


「俺は銭じゃ!」


 銭は何とか立ち上がると胸を張った。


「真田銭! 真田家童組組長にして、上田防衛隊隊長じゃ!」


「……はあ」


 カミーユには何一つ分からなかった。


「それで、これは?」


「修行じゃ!」


「修行?」


「うむ! 殿が鎌之助に、俺へ武術を教えよと命じたのじゃ」


「なるほど」


 それなら理解できる。


 カミーユは周囲を見る。


「では、他の方々は?」


 アーニーが即答した。


「巻き添えだ」


「違う!」


 鎌之助が怒鳴る。


「銭一人では寂しかろうと思ってな」


「それを巻き添えって言うんだよ!」


 鎌之助はアーニーを無視すると、手を叩いた。


「ちょうどよい。銭、皆も集まれ」


 童たちが渋々集まる。


 清海も立ち上がった。


「某は?」


「そこに立て」


「嫌な予感しかしないのだが」


「黙って立て、飯食らい」


「貴様! 殿の御前でも同じ口が利けるのか!」


「なんじゃと?」


「殿の前では『殿〜』などと猫を被りおって!」


「……清海」


「なんじゃ」


「後で殺す」


「童の稽古ではなかったのか!」


 子供たちから笑い声が上がる。


「静かにせい!」


 鎌之助が咳払いをした。


「よいか。お主らはまだ小さい」


「俺は強いぞ」


 銭が言う。


「そういうところじゃ」


「何がじゃ」


「己より大きな者と戦う時、真正面から力比べをしてどうする」


 鎌之助は清海を指した。


「例えば、こやつじゃ」


 子供たちが一斉に清海を見上げる。


 大きい。


 とにかく大きい。


 清海は得意そうに胸を張った。


「某の力は古今無双!」


「黙れ」


「何故じゃ!」


「銭。こやつと力比べをして勝てるか?」


 銭は清海を見上げた。


「……無理じゃ」


「では某ならば?」


 銭が鎌之助を見る。


 そして清海を見る。


「鎌之助の方がずっと小さいぞ」


「そうじゃ」


 鎌之助は清海の前に立った。


「清海と某が力比べをすれば、十度やって十度、某が負ける」


「分かっておるではないか」


「黙れ、今いいところじゃ」


「ならば褒めろ!」


「じゃが」


 鎌之助が構える。


「戦いは力比べではない」


 清海が眉を上げた。


「おい」


「来い」


「本当に行くぞ?」


「早うせい、木偶の坊」


「言ったな!」


 清海が踏み込んだ。


 巨体からは想像できぬ速さだった。


 童たちが息を呑む。


 まともに受ければ、鎌之助など吹き飛ぶ。


 だが鎌之助は受けなかった。


 僅かに身体をずらし、清海の腕を取る。その勢いを殺さぬまま懐へ入り、重心を崩した。


「ふっ!」


「ぬおっ!?」


 清海の巨体が傾く。


 次の瞬間。


 どんっ!


「ぬおおおおおお!?」


 巨体が地面を転がった。


「…………」


 童たちの口が一斉に開いた。


 アーニーが呟く。


「……オーガが飛んだ」


「誰がオーガじゃ!」


 清海が跳ね起きた。


「今のは卑怯じゃ!」


「戦場で敵に『今から投げます』と断る馬鹿がおるか」


「もう一度じゃ!」


「よかろう」


 清海が再び突っ込む。


 鎌之助は正面から受けず、身体を入れ替える。


 どんっ!


「ぬおおおおお!!」


 また飛んだ。


「もう一度!」


「来い」


 どんっ!


「ぬおおおおお!!」


 銭の目が輝き始める。


「すごい……」


「分かったか」


 鎌之助が童たちを見る。


 銭が大きく頷いた。


「技じゃ!」


「そうじゃ」


 鎌之助は地面に転がる清海を指した。


「清海は某より遥かに力が強い。まともに組めば某が負ける。ならば、まともに組まねばよい」


「なるほど……」


「相手が大きければ、大きいなりの戦い方がある。小さければ、小さいなりの戦い方がある」


 鎌之助は童たちを見渡した。


「よく覚えておけ」


 銭も、アーニーも、他の子供たちも鎌之助を見る。


「小さい者が負けるのではない」


 カミーユも、その言葉を聞いていた。


「技のある者が勝つのじゃ」


 カミーユの目が僅かに動いた。


 小さい者。


 その言葉が、何故か胸に残った。


「もっとも」


 鎌之助が続ける。


「勝てぬと思ったら逃げよ」


「逃げるのか?」


 銭が不満そうな顔をする。


「逃げる」


 鎌之助はきっぱりと言った。


「かつて右府様は、逃げるとなったら誰よりも早く退いておったわ!」


「右府様?」


 アーニーが銭を見る。


「誰だ、それ?」


 銭は腕を組んだ。


「知らん!」


「知らねえのかよ!」


「うるさい! 俺が生まれる前の者など知らん!」


「右府様は、日の本を平らげたお方じゃ」


 鎌之助が言うと、アーニーが首を傾げた。


「そんなに強い奴でも逃げるのか?」


「逃げるとも」


 鎌之助は童たちを見渡した。


「百度の戦で九十九度勝とうとも、一度の負け戦で死んでしまえば、それで終わりじゃ」


 騒いでいた童たちが静かになる。


「勝てぬ時は退け。そして生きて帰れ。次に勝てばよい」


 銭は腕を組み、真剣な顔で考えた。


 やがて、大きく頷く。


「分かった!」


 アーニーが怪しそうに見る。


「本当か?」


「うむ!」


 銭は胸を張った。


「つまり百回戦って、百回勝てばよいのじゃ!」


「全然分かってねえ!!」


 童たちの笑い声が庭に響いた。


 鎌之助は額を押さえる。


「……殿。道は長そうにございます」


「殿はいねえぞ」


 アーニーの突っ込みに、また笑いが起きた。


「では、次じゃ!」


 鎌之助が手を叩く。


「まずは受け身からじゃ。避ける、転ぶ、逃げる。そして立つ。己の身を守れぬ者に、他人は守れぬぞ!」


「おお!」


「全員並べ!」


「えええええええ!?」


 先ほどまで笑っていた童たちから悲鳴が上がった。


 カミーユの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


 その時だった。


「鎌之助」


「なんじゃ?」


「先ほど言ったな」


 いつの間にか清海が、鎌之助の後ろに立っていた。


「何をじゃ」


「戦場で敵に『今から投げます』と断る馬鹿がおるか、と」


「それがどうした」


「ならば」


 清海の巨大な腕が、鎌之助の身体を軽々と抱え上げた。


「なっ!?」


 鎌之助の身体が宙に浮く。


「貴様! 降ろせ!」


「嫌じゃ!」


「この馬鹿力!」


「技のある者が勝つのであろう?」


「今は稽古中じゃ!」


「戦場で敵が待ってくれるのか?」


「貴様ぁぁぁ!」


 童たちが腹を抱えて笑った。


 銭も笑う。


 アーニーも笑う。


 そして。


「……ふふっ」


 小さな笑い声が漏れた。


 カミーユは自分でも驚いたように、口元を押さえた。


 父が死んでから。


 初めて笑った。


 銭がそれを見逃さなかった。


「カミーユ!」


「……はい?」


「お前もやれ!」


「何をです?」


「修行じゃ!」


「お断りします」


「なぜじゃ!」


「私はロダン家の当主です。戦働きをする者ではありません」


 それを聞いた鎌之助が、清海に抱えられたままカミーユを見る。


「ならば、なおさら覚えておけ」


「え?」


「当主なのであろう?」


「はい」


「ならば死んではならぬ」


 カミーユが黙った。


「敵を倒す必要などない。逃げる術だけでも覚えておけ。お主が生きておれば、守れる者がおるのであろう?」


 カミーユは後ろに控えるロダン家の者たちを見た。


 そして少し考える。


「……見学だけなら」


「よし!」


 何故か銭が一番喜んだ。


「では童組に入れ!」


「入りません」


「字は読めるか?」


「当然です」


「勘定は?」


「できます」


「地図は?」


「読めます」


 銭の目が輝いた。


「副長じゃ!」


「何故ですか!?」


「ちょっと待てぇ!」


 アーニーが割って入った。


「なんで今来た奴がいきなり副長なんだよ!」


 銭は不思議そうにアーニーを見る。


「頭が良いからじゃ」


「まだ会ったばっかりだろ!」


「字も読める」


「俺だって読める!」


「勘定もできる」


「俺だって少しはできる!」


「地図も読める」


「…………」


「副長はカミーユじゃ」


「今ので決めんなよ!!」


「私は入るとは申しておりません!」


 カミーユまで声を上げる。


 銭は少し考えた。


「では、明日も来い」


「何故です?」


「明日、もう一度聞く」


「答えは変わりません」


「ならば明後日も聞く」


「変わりません!」


「その次もじゃ!」


「しつこいです!」


 再び童たちが笑った。


 カミーユも困ったように銭を見る。


 父の仇。


 真田幸村。


 その臣となるため、覚悟を決めて上田へやって来た。


 そこで出会ったのは、泥だらけになりながら笑う一人の少女だった。


「カミーユ!」


「今度は何です?」


 銭は満面の笑みを浮かべた。


「明日は今日より強くなるぞ!」


「……そうですか」


「見に来い!」


 カミーユは少しだけ迷った。


「……考えておきます」


 アーニーが目を丸くする。


「それ、来る奴の返事じゃねえか?」


「違います!」


「副長じゃな!」


「入りません!」


 上田に、新しい家臣が加わった日。


 そして真田家童組にもまた。


 新しい仲間が加わろうとしていた。

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