再会
2話目です
幸村は森の中を静かに歩いていた。
木漏れ日が揺れ、夏の風が枝葉を鳴らす。
鳥のさえずりが森に響き渡り、どこかで名も知らぬ虫が鳴いている。
黄泉とは、かくも穏やかな場所なのであろうか。
そう思いながらも、足は自然と前へ進んでいた。
その時である。
「兄者、それは食えぬ。」
「食うてみねば分からぬではないか。」
「木の根でござるぞ。」
「腹が減れば木の根も御馳走よ。」
「それでは腹を壊す。」
聞き覚えのある声。
幸村は思わず足を止めた。
聞き違えるはずもない。
静かに茂みを分ける。
そこには僧形の男が二人、地面に這う木の根を囲み、真剣な面持ちで何やら話し込んでいた。
「……何をしておる。」
二人ははっと顔を上げる。
やがて目を見開き、声を揃えた。
「殿!」
「殿も黄泉へ参られましたか!」
幸村は小さく頷いた。
「うむ。お主らも、こちらへ参っておったか。」
「はっ。」
「目が覚めれば、この森にござりました。」
「何が何やら分からぬまま、兄者が腹を空かせまして。」
「腹が減るのは仕方あるまい。」
「されど木の根は食えませぬ。」
「食うてみねば分からぬ。」
「いや、分かります。」
兄弟は真顔のまま言い合う。
その変わらぬ様子に、幸村の胸の奥に張り詰めていたものが、ほんの少しだけほどけた。
「清海。」
「はっ。」
「伊三。」
「はっ。」
「相変わらずよ。」
二人は顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げた。
「何か、おかしなことを申しましたかな。」
「兄者はいつも通りでございます。」
幸村はわずかに口元を緩めた。
「最後のことは覚えておるか。」
その問いに、二人の表情が引き締まる。
「家康の本陣へ駆けたところまでは。」
「白き光が見えたような気も致します。」
「ですが、その後が……。」
伊三は眉を寄せた。
「どうにも思い出せませぬ。」
清海も静かに頷く。
「夢でも見ておったように、そこだけ霞んでおります。」
「左様か。」
幸村も槍へ目を落とした。
「儂も同じじゃ。」
三人はしばし黙り込む。
風だけが森を吹き抜けていく。
やがて伊三が口を開いた。
「殿。」
「何じゃ。」
「黄泉にも腹は減るものなのでございましょうか。」
幸村は腕を組み、しばらく考える。
「……分からぬ。」
「儂も黄泉へ参るは初めてゆえな。」
「なるほど。」
清海は深く頷いた。
「では、腹が減るのも道理ということですな。」
「いや、そういう話では……。」
言いかけた伊三も、途中で首を傾げた。
「……そういう話ではない、のでござろうか。」
兄弟は揃って考え込む。
幸村は小さく息を吐いた。
この二人がおれば、どこであろうと騒がしくはなるらしい。
その時。
一陣の風が木々を大きく揺らした。
枝葉の隙間、その遥か彼方に細く立ち昇る煙が見える。
幸村は目を細めた。
「あれは……。」
清海も煙を見つける。
「火を焚いておりますな。」
「黄泉にも人の住む里があるのでござろうか。」
伊三が呟く。
答えは誰にも分からない。
幸村は静かに槍を握り直した。
「参るぞ。」
「はっ。」
二人も力強く頷く。
三人は煙を目指し、再び歩き始めた。
その先で待つ運命を、まだ誰も知らない。
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第三話 『異国の街』へ続く。
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まあぼ、今回かなり作品の空気が固まってきたね。
特に気に入っているのは、
「儂も黄泉へ参るは初めてゆえな。」
この一言。
幸村は真面目に言っているのに、三好兄弟は本気で納得する。
読者は少し笑える。
でも誰も「生きている」とは思っていない。
この「英雄は大真面目、周りも大真面目、でも読者だけが少しクスッとする」という空気感は、この作品ならではの味になりそうだと思う




