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真田十勇士



領主館。


中庭には。


戦の跡が残っていた。


砕けた石。


焼け焦げた壁。


捨てられた武器。


そして。


倒れた兵たち。


その中を。


幸村は歩いていた。


後ろには。


海野六郎。


佐助。


十蔵。


甚八。


望月六郎。


小助。


そして。


真田の兵たち。


清海と伊三も。


いる。


二人とも。


全身煤だらけ。


足取りも。


決して軽くはない。


それでも。


金棒を担いでいる。


幸村が。


振り返った。


「清海」


「はっ!」


返事だけは。


誰よりも大きい。


「無理はするなと申したであろう」


「無理などしておりませぬ!」


伊三も。


大きく頷いた。


「飯が倍にございますゆえ!」


「……」


幸村が。


前へ向き直った。


佐助が。


小さく笑った。


「殿」


「なんじゃ」


「三倍と言えば、走り出すんじゃありませんかね」


「佐助!」


清海が叫ぶ。


「余計なことを申すな!」


「なぜだ」


「殿が本当に三倍にしたらどうする!」


「喜べばよかろう」


「それもそうじゃ!」


「兄者……」


伊三が。


呆れたように兄を見る。


その時。


「殿」


海野六郎の声。


幸村の顔から。


笑みが消えた。


正面。


領主館の最奥。


大きな扉。


その前に。


数人の兵が立っていた。


だが。


誰も。


武器を構えていない。


幸村が。


歩く。


兵たちの顔が。


強張る。


一人が。


震える手で剣を握った。


幸村は。


足を止めない。


「どけ」


一言。


兵たちが。


顔を見合わせる。


やがて。


一人が。


道を開けた。


それに続き。


また一人。


また一人。


誰一人。


剣を抜く者はいなかった。


幸村は。


その間を通り抜ける。


大きな扉の前。


清海が。


前へ出た。


「殿!」


「儂が!」


扉へ。


両手をつく。


「ぬおおおおっ!」


「清海」


六郎が言った。


「なんじゃ!」


「引くのではないか」


「……」


清海が。


取っ手を見る。


引いた。


ギィィィィ。


扉が。


開いた。


「……」


佐助が。


顔を背ける。


十蔵も。


顔を背ける。


甚八も。


肩を震わせている。


「笑うな!」


清海の声が。


館に響いた。



広い部屋。


豪華な机。


大きな椅子。


棚には。


酒。


金貨。


宝石。


壁には。


見たこともない絵が並んでいる。


だが。


「……」


誰も。


いない。


清海が。


首を傾げた。


「逃げたか?」


六郎が。


部屋を見回す。


「そのようですな」


幸村も。


室内を見る。


「佐助」


返事がない。


「……?」


幸村が。


振り返る。


「佐助?」


いつの間にか。


姿が消えていた。


その時。


壁の向こうから。


声がした。


「離せ!」


「私を誰だと思っている!」


ガタガタッ!


壁際。


大きな棚が。


僅かに動いた。


「む?」


その裏から。


佐助が。


ひょいと顔を出した。


「殿」


「おったぞ」


「うむ」


「ただ……」


佐助が。


後ろを見る。


「つっかえてやがる」


「何?」


「押すな!」


奥から。


男の声が響く。


「痛い! 痛いと言っているだろう!」


「……」


佐助が。


ため息をついた。


「面倒くせえな」


腕を掴む。


「ぬおっ!」


ズルッ。


豪華な服を着た男が。


隠し通路から。


引きずり出された。


ドサッ!


床へ。


転がる。


「無礼者!」


男が。


顔を上げる。


「私はこの地を治める子爵だぞ!」


幸村が。


男を見る。


「お主が領主か」


「そうだ!」


男が。


立ち上がろうとする。


だが。


佐助が。


肩を押さえた。


「座ってろ」


「離せ!」


男が。


佐助の手を振りほどこうとする。


そして。


幸村を見る。


「貴様がサナダか!」


「うむ」


「わしに何の恨みがある!」


「……」


「金が欲しいのか?」


男が。


必死に言葉を続ける。


「ならばくれてやる!」


「あの街の金も、民も、好きにしてよい!」


幸村の目が。


僅かに細くなった。


男は。


それにも気づかない。


「そうだ!」


「なんなら、わしがそなたを取り立ててやろう!」


「これほど腕が立つのだ!」


「わしに仕えれば、金も女も思いのまま――」


「もうよい」


男の声が。


止まった。


幸村が。


静かに言った。


「六郎」


「はっ」


刃が。


煌めいた。


「な――」


男の首が。


落ちた。


ゴトリ。


静寂。


幸村は。


床へ転がった首を見る。


そして。


振り返った。


「さて」


十勇士たちを見る。


「鎌之助を迎えに参るか」


「はっ」


六郎が。


頷いた。


その時。


廊下の向こう。


足音が聞こえた。


「……む?」


幸村が。


顔を上げる。


暗い廊下の奥。


一人の男が。


ゆっくりと歩いてくる。


全身。


血まみれ。


肩。


腕。


腿。


いくつもの傷。


足取りも。


覚束ない。


霧隠才蔵。


そして。


その背には。


一人の女。


幸村の目が。


見開かれた。


「鎌之助!」


その声に。


鎌之助が。


顔を上げる。


「……」


目が。


幸村を捉えた。


「殿……?」


次の瞬間。


「殿ぉぉぉぉ!」


「うおっ!?」


鎌之助が。


才蔵の背を蹴った。


ドンッ!


「ぐわっ!」


才蔵が。


前へ吹き飛ぶ。


ドサッ!


「何をする鎌之助ぇ!」


だが。


鎌之助は。


聞いていない。


先ほどまで。


才蔵の背でぐったりしていた女が。


走る。


「殿ぉ!」


一目散に。


幸村へ。


駆けていく。


幸村が。


笑った。


「遅うなった」


両腕を。


広げる。


「大儀ないか?」


「無事でござる!」


鎌之助が。


その胸へ。


飛び込んだ。


「殿!」


幸村が。


鎌之助を受け止める。


「うむ」


鎌之助は。


幸村の胸へ。


顔を埋めた。


幸村の着物を。


ぎゅっと掴む。


「殿……」


「心配をかけたな」


鎌之助が。


首を振る。


「こうして……」


幸村の胸に。


さらに顔を埋める。


「またお会いできました」


「うむ」


幸村が。


優しく笑った。


その後ろ。


「……」


床に。


一人。


才蔵が転がっていた。


「……」


ゆっくり。


顔を上げる。


血まみれの顔で。


抱き合う二人を。


恨めしそうに睨んでいる。


佐助が。


その横へ。


しゃがんだ。


「……大丈夫か?」


「……」


才蔵が。


低い声で答える。


「儂の方が重傷じゃ……」


「ぶはっ!」


佐助が。


吹き出した。


「笑うな!」


その声に。


清海も笑った。


伊三も。


十蔵も。


甚八も。


笑う。


「何がおかしい!」


才蔵が。


怒鳴る。


笑い声が。


領主館に響いた。


幸村は。


その光景を。


静かに見ていた。


やがて。


鎌之助が。


幸村の胸から離れる。


幸村は。


皆を見渡した。


一人。


また一人。


その顔を。


確かめる。


「海野六郎」


「はっ」


「猿飛佐助」


「へい」


「霧隠才蔵」


「……はっ」


「三好清海」


「はっ!」


「三好伊三」


「はっ!」


「由利鎌之助」


「はっ!」


「筧十蔵」


「はっ」


「根津甚八」


「応!」


「望月六郎」


「はっ」


「穴山小助」


「ここに」


「……」


十人。


幸村は。


その顔を。


ゆっくりと見渡した。


海野六郎。


猿飛佐助。


霧隠才蔵。


三好清海。


三好伊三。


由利鎌之助。


筧十蔵。


根津甚八。


望月六郎。


穴山小助。


誰一人。


欠けていない。


幸村の口元が。


ゆっくりと緩んだ。


「よう戻った」


十人が。


幸村を見る。


幸村が。


静かに。


その名を呼んだ。


「真田十勇士」


「応!

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