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三好兄弟

第二十五話『三好兄弟』


炎が。


迫った。


「兄者!」


「おう!」


清海と伊三。


二人が左右へ飛ぶ。


轟ッ!!


二人の間を炎が走った。


直後。


背後で爆発する。


ドォォォォン!!


熱風が。


二人の背を叩いた。


だが。


止まらない。


「行くぞ、伊三!」


「おう!」


二人は。


そのまま走った。


二階。


リュシアンが。


それを見下ろしている。


「ほう」


口元に。


薄い笑みを浮かべた。


「避けますか」


杖を下ろす。


清海が笑った。


「今じゃ!」


佐助の言葉。


魔法は続けざまには使えない。


次を撃つには。


魔力を溜める時間がいる。


ならば。


今しかない。


「ぬおおおおおっ!」


清海が。


階段へ向かって走る。


伊三が続く。


あと少し。


階段へ届く。


その時。


「残念」


リュシアンが。


杖を上げた。


赤い光。


すでに。


杖の先に集まっていた。


「なにっ!」


佐助の目が見開かれる。


「早え!」


リュシアンが笑う。


「誰から聞いたかは存じませんが」


杖が。


清海へ向けられる。


「私を、その辺の魔法使いと一緒にしていただいては困りますね」


轟ッ!!


炎が。


清海を呑んだ。


ドォォォォン!!


「ぐぬっ!」


清海の巨体が。


宙を舞う。


そのまま。


石畳へ叩きつけられた。


「清海!」


幸村が叫ぶ。


だが。


伊三は。


振り返らなかった。


倒れた兄を見ることもなく。


その横を。


駆け抜ける。


リュシアンの眉が。


わずかに動いた。


「……ほう」


伊三が。


階段へ飛び込む。


一段。


二段。


三段。


巨体とは思えぬ速さで。


一気に駆け上がる。


石畳。


倒れた清海の指が。


動いた。


そして。


金棒を握り直す。


口元が。


わずかに笑った。


「行け……伊三」


小さな声。


伊三には。


聞こえていない。


だが。


止まらない。


「ぬおおおおおっ!」


二階。


リュシアンが。


初めて一歩下がった。


杖を向ける。


だが。


赤い光は。


まだ集まっていない。


「間に合いませんか」


その時。


「師団長を守れ!」


声が上がった。


二階の回廊。


リュシアンを守っていた領兵たちが。


一斉に動く。


「行かせるな!」


「師団長を守れ!」


二人が。


伊三の前へ飛び込んだ。


「退けぇ!」


伊三の金棒が。


唸る。


ガァン!!


一人が。


盾ごと吹き飛んだ。


「ぐあっ!」


だが。


もう一人。


剣を捨て。


伊三へ飛びついた。


「行かせるかぁぁ!」


「ぬうっ!」


男が。


伊三の身体へしがみつく。


伊三が。


そのまま前へ進む。


「退け!」


「ぐっ……!」


男の足が。


床を擦る。


それでも。


離さない。


一歩。


また一歩。


伊三が。


男ごとリュシアンへ迫る。


その向こう。


リュシアンの杖に。


赤い光が集まり始めていた。


伊三が。


それを見る。


「ぬっ……!」


領兵も。


気づいた。


自分の背後。


杖を構えるリュシアン。


「し、師団長……?」


赤い光が。


大きくなる。


「お待ちを……」


リュシアンが。


微笑んだ。


「ご苦労様でした」


「え――」


轟ッ!!


炎が。


領兵ごと。


伊三を呑み込んだ。


ドォォォォン!!


「ぐおおおおっ!!」


爆炎。


伊三の巨体が。


吹き飛ばされる。


領兵も。


炎の中へ消えた。


伊三が。


階段を転げ落ちる。


ドンッ!


ドンッ!


ドンッ!


そして。


中庭へ落ちた。


「伊三!」


十蔵が叫ぶ。


二階。


リュシアンは。


小さく息を吐いた。


「まったく」


杖を下ろす。


「野蛮な方々だ」


その時。


幸村が。


走った。


清海を見ない。


伊三も見ない。


ただ。


二人が作った道を。


前へ。


「なっ……!」


リュシアンの目が。


見開かれた。


幸村は。


すでに階段へ足をかけている。


「まだ来ますか!」


リュシアンが。


杖を構える。


だが。


今。


魔法を撃ったばかり。


杖の先に。


赤い光はない。


幸村が。


階段を駆け上がる。


一段。


二段。


三段。


「くっ!」


リュシアンが。


後ろへ下がる。


杖へ。


赤い光が集まり始める。


「もう一度……!」


だが。


幸村は。


もう目の前。


「遅い」


槍が。


閃いた。


ドスッ!!


「ぐっ……!」


穂先が。


リュシアンの右肩を貫いた。


「ぐあっ!」


杖が。


手から落ちる。


カラン。


乾いた音が。


回廊に響いた。


幸村が。


槍を引き抜く。


血が飛ぶ。


リュシアンが。


右肩を押さえた。


指の間から。


血が流れ落ちる。


一歩。


二歩。


後ろへ下がった。


幸村が。


槍を構え直す。


「終いじゃ」


「……」


リュシアンが。


幸村を見る。


先ほどまでの笑みは。


消えていた。


中庭。


領兵たちも。


その光景を見ている。


王国魔法師団長。


その男が。


追い詰められていた。


幸村が。


一歩。


前へ出る。


リュシアンは。


小さく息を吐いた。


「なるほど」


左手を。


懐へ入れる。


「これは無理ですね」


取り出したのは。


小さな白い石。


幸村の目が。


細くなる。


「む?」


リュシアンが。


白い石を床へ叩きつけた。


パァン!!


光が。


弾けた。


「ぬっ!」


凄まじい閃光。


幸村が。


目を覆う。


「殿!」


佐助の声が響く。


その光の中。


リュシアンは。


懐から。


もう一つ。


石を取り出した。


青く。


淡い光を放つ魔石。


それを見た。


佐助の顔色が変わった。


「なっ……!」


目を見開く。


「転移石!?」


リュシアンの身体を。


青い光が包み始める。


「サナダ」


幸村が。


薄く目を開く。


光の向こう。


リュシアンが。


こちらを見ていた。


右肩から。


血を流しながら。


それでも。


口元には。


再び薄い笑み。


「今日のところは」


一度。


傷口を押さえる。


「あなたの勝ちということにしておきましょう」


幸村が。


槍を構える。


「待て!」


踏み込む。


だが。


青い光が。


さらに強くなる。


リュシアンが。


優雅に頭を下げた。


「次にお会いする時には」


顔を上げる。


「もう少し、まともな歓迎をご用意いたしましょう」


幸村が。


槍を突き出す。


その直前。


「では」


リュシアンが笑った。


「ごきげんよう」


光が。


弾けた。


次の瞬間。


リュシアンの姿は。


消えていた。


「……」


幸村が。


槍を下ろす。


その後ろ。


階段を駆け上がってきた佐助が。


リュシアンの消えた場所を見る。


「まさか……」


「知っておるのか」


幸村が問う。


佐助は。


しばらく。


何もない床を見ていた。


「転移石です」


「転移?」


「一瞬で、遠く離れた場所へ移動できる魔石でさ」


「ほう」


幸村には。


それがどれほどの物なのか。


分からない。


佐助が。


苦笑した。


「殿」


「なんじゃ」


「あれは金を積めば買えるような代物じゃありませんぜ」


幸村が佐助を見る。


「有力な貴族がどれだけ金を積んでも、手に入らない」


佐助は。


小さく息を吐く。


「国一つと引き換えでも欲しがる奴がいるでしょうな」


「それほどか」


「ええ」


幸村は。


リュシアンが消えた場所を見る。


「ならば」


槍を肩へ担いだ。


「随分と高い逃げ賃を払わせたものよ」


佐助が。


一瞬。


黙る。


そして。


笑った。


「違いありませんな」



魔法師団長が消えた。


それを見た領兵たちから。


戦意が消えた。


「師団長が……」


「逃げた……」


一人が。


剣を落とした。


カラン。


それを皮切りに。


次々と。


武器が落ちる。


「逃げろ!」


「もう駄目だ!」


兵たちが。


中庭から逃げ始める。


「追うな!」


海野六郎が。


声を張り上げた。


「武器を捨てた者には構うな!」


「道を開けよ!」


真田の兵たちが。


武器を下ろす。


逃げる領兵を。


誰も追わない。


その中。


幸村が。


階段を降りてきた。


目を向ける。


石畳。


清海と伊三が。


並んで座り込んでいた。


二人とも。


全身煤だらけ。


着物は焼け。


肌には火傷が浮かんでいる。


金棒を杖にしなければ。


立つことすら難しい。


幸村が。


二人の前で足を止めた。


「清海。伊三」


「殿……」


清海が。


顔を上げる。


いつもの笑みはある。


だが。


さすがに立ち上がることはできなかった。


「申し訳ござらぬ」


清海が。


金棒を握る。


「我ら兄弟は、ここまでのようにございます」


伊三も。


苦笑した。


「面目次第もござらぬ」


清海が。


館の奥を見る。


「殿」


「我ら兄弟を置いて、先へ進んでくだされ」


幸村は。


二人を見る。


「そうか」


「はっ」


幸村が。


館へ向き直る。


そして。


何でもないことのように言った。


「では今宵」


清海と伊三が。


幸村を見る。


「二人とも、飯は倍食うてよいぞ」


「……!」


清海の目が。


大きく見開かれた。


伊三も。


顔を上げる。


「殿」


「それは……まことでございますか」


「うむ」


一瞬。


沈黙。


次の瞬間。


「ぬおおおおおっ!」


清海が。


金棒を支えに立ち上がった。


「兄者!」


「伊三! 何をしておる!」


「お、おう!」


伊三も。


金棒を杖にして立ち上がる。


膝が震える。


それでも。


立った。


清海が。


胸を張る。


「殿!」


「まだまだ戦えますぞ!」


伊三も頷く。


「我ら兄弟、どこまでもお供いたしまする!」


「……」


幸村が。


二人を見る。


「無理はするな」


「無理などしておりませぬ!」


即答だった。


十蔵が。


堪えきれず。


「わははははは!」


中庭に。


笑い声が響いた。


真田の兵たちからも。


笑いが起こる。


幸村も。


僅かに笑った。


だが。


海野六郎は。


領主館の奥を見ていた。


「殿」


幸村が。


六郎を見る。


「うむ」


六郎の視線の先。


館の奥。


まだ。


戦は終わっていない。


幸村の顔から。


笑みが消えた。


槍を。


握り直す。


「残るは」


幸村が。


領主館を見据えた。


「領主か」


兵たちが。


再び集まり始める。


六文銭の下へ。


幸村は。


槍を肩へ担いだ。


「参るぞ」


「応!」


真田が。


再び動き始めた。

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