城門
とうとうストックが切れました!申し訳ないのですが、今後月水金に投稿します。
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「かかれぇぇぇぇぇ!!」
「応ォォォォォォォ!!」
幸村の号令とともに。
三十余名が一斉に駆け出した。
その頭上。
六文銭が風を切る。
領都の城壁。
「……来た」
領兵の一人が呟いた。
「本当に来やがった!」
「三十人だぞ!?」
「馬鹿どもが!」
笑い声が起こる。
千を超える兵が集まる領都へ。
わずか三十余名。
正面から。
それも徒歩で。
「弓兵!」
隊長が声を上げた。
「前へ――」
その時。
ゴゴゴゴゴ――
重い音が響いた。
巨大な城門が。
ゆっくりと開き始める。
幸村たちの前方。
城門の奥。
暗がりから。
一人の兵が現れた。
続いて。
一人。
また一人。
全身を覆う分厚いプレートアーマー。
頭部まで覆う兜。
左手には、身体の大半を隠す巨大なカイトシールド。
右手には長槍。
重装歩兵。
二十。
三十。
四十。
次々と城門から姿を現す。
だが。
その動きに乱れはない。
「前へ!」
号令。
重装歩兵たちが一斉に進む。
そして。
ガン!
ガン!
ガン!
巨大な盾を地面へ据えた。
盾と盾が重なる。
その隙間から。
長槍が突き出される。
瞬く間に。
城門の前へ鋼鉄の壁が出来上がった。
ヒノモト傭兵団の足が止まった。
「……重装隊」
一人が呟く。
別の男が顔を強張らせた。
「領兵の精鋭だ」
「魔物の群れを正面から押し返す連中だぞ」
「なんであんな奴らが……」
城壁の上。
領兵たちから歓声が上がった。
「重装隊だ!」
「終わったな!」
「真正面から来るからだ!」
「踏み潰せ!」
重装隊。
子爵軍の中でも選りすぐりの兵。
良質な武具を与えられ。
日々、訓練を重ね。
領内に魔物が現れれば、その討伐の先頭に立つ。
領兵たちにとって。
彼らは最強だった。
幸村は。
その鋼鉄の壁を見ていた。
そして。
何も言わず。
横を見る。
清海。
伊三。
二人と目が合った。
一瞬。
沈黙。
清海の口元が。
ゆっくりと吊り上がった。
伊三も。
同じように笑った。
獰猛な笑み。
幸村も僅かに笑う。
それだけで。
十分だった。
「兄者」
「おう」
二人が前へ出る。
清海が肩に担いでいた巨大な金棒を下ろした。
伊三も金棒を握る。
傭兵の一人が目を見開いた。
「お、おい!」
「何をするつもりだ!」
清海が振り返る。
「決まっておろう」
伊三が続いた。
「道を開ける」
二人が走り出す。
「うおおおおおおおお!!」
重装隊の隊長が剣を掲げた。
「盾!」
ガンッ!!
数十枚のカイトシールドが揃う。
「槍!」
盾の隙間から。
一斉に槍が突き出された。
鉄壁。
正面から突破するなど。
誰も考えぬ。
だが。
清海は止まらない。
「ぬうううううん!!」
巨大な金棒が振り上げられた。
そして。
振り下ろす。
ドゴォォン!!
鈍い音が響いた。
「な――」
カイトシールドが。
へこんだ。
その向こう。
重装兵の身体が浮く。
「ぐあっ!」
後ろの兵を巻き込みながら吹き飛んだ。
城壁の上。
歓声が消えた。
「……は?」
清海が踏み込む。
金棒を横薙ぎに振るう。
ゴガァン!!
盾。
鎧。
人。
まとめて吹き飛ぶ。
「ぬるいわ!」
その隣。
伊三も重装兵の盾へ金棒を叩きつけた。
ドゴン!
「ぐっ!」
兵が耐える。
伊三が笑った。
「ほう」
もう一撃。
「ならば!」
ドゴォォン!!
重装兵が盾ごと地面を転がった。
「兄者!」
「おう!」
二人が並ぶ。
そして。
鋼鉄の壁へ突っ込んだ。
金棒が振るわれるたび。
盾がへこむ。
槍が折れる。
鎧を着た兵が吹き飛ぶ。
一人。
二人。
三人。
重装隊が。
押されていた。
いや。
違う。
蹴散らされていた。
「止めろ!」
重装隊の隊長が叫ぶ。
「二人だぞ!」
「たった二人だ!」
だが。
止まらない。
清海と伊三は。
一歩。
また一歩。
前へ進む。
重装兵を吹き飛ばしながら。
城門へ向かって。
「うおおおおおお!!」
清海の金棒が盾を打ち砕く。
「どけぇ!」
伊三の一撃が兵を弾き飛ばす。
そして。
ついに。
重装歩兵の列が割れた。
城門まで。
一本の道が開く。
幸村が槍を掲げた。
「道は出来た!」
その声に。
全員の視線が集まる。
幸村は槍を城門へ向けた。
「皆の者!」
「進め!」
「応ォォォォォォォ!!」
三十余名が一斉に駆け出した。
先ほどまで。
ヒノモト傭兵団の者たちの顔には。
確かに恐怖があった。
三十余名で。
千を超える兵が待つ領都へ攻め込む。
恐ろしくないはずがない。
だが。
今。
その顔に恐怖の色はなかった。
頬を紅潮させ。
武器を掲げ。
我先にと幸村の後を追う。
「行くぞ!」
「続け!」
そして。
誰かが叫んだ。
「真田に続けぇぇ!」
「応ォォォォォ!」
その声を聞いて。
鉄の六角棒を肩に担いで走っていた十蔵が、豪快に笑った。
「わはははは! しかし殿!」
「何じゃ、十蔵!」
幸村が走りながら振り返る。
「真田の初陣だというに、揃いも揃って徒とは締まりませぬな!」
周囲から笑いが起きた。
「せめて殿の馬くらい、用意しておくべきでございました!」
幸村が笑う。
「今さら申すな!」
「違いない! わはははは!」
甚八が横から叫ぶ。
「十蔵! お主が殿を背負えばよかろう!」
「馬になれと申すか!」
「六角棒を担いで走れるのだ! 一人くらい増えても変わらぬ!」
「ならば貴様が背負え!」
「俺はこの大剣がある!」
「儂にも六角棒があるわ!」
笑い声が上がった。
千を超える兵が待つ城へ。
わずか三十余名で攻め込んでいる。
それなのに。
彼らは笑っていた。
城壁の上。
その光景を見ていた領兵の一人が呟いた。
「……なんで」
声が震える。
「なんで、あいつら笑ってるんだ……」
その声に。
隊長が我に返った。
「何をしている!」
誰も動かない。
「弓兵!」
反応がない。
「弓兵!!」
怒鳴り声。
ようやく数人が身体を震わせた。
「射ろ!」
「奴らを射ろ!」
弓兵たちが慌てて弓を構える。
海野六郎が城壁を見上げた。
「佐助!」
「はいよ!」
佐助が笑う。
そして。
五人の弟子を見る。
「お前ら!」
「はい!」
「仕事だ!」
六人が本隊から離れた。
城壁へ向かう。
佐助が壁へ取り付く。
僅かな凹凸へ足を掛け。
手を掛け。
信じられぬ速さで登っていく。
弟子たちも続く。
だが。
佐助との差は見る見る開く。
「遅い!」
上から声が飛ぶ。
「す、すみません!」
「謝る暇あったら登れ!」
佐助が城壁の縁へ手を掛ける。
身体を翻した。
「なっ!」
弓兵の目の前。
佐助が現れる。
「よっ」
一撃。
兵が倒れる。
「敵だ!」
「城壁に上がったぞ!」
領兵たちが剣を抜く。
佐助は笑った。
「弓だけ潰せ!」
下から登ってくる弟子たちへ叫ぶ。
「深追いするな!」
「本隊の頭の上を空けるぞ!」
「はい!」
城壁が。
一気に騒がしくなった。
その間にも。
幸村たちは城門へ迫る。
「門を守れ!」
城門の内側から領兵たちが飛び出してきた。
「通すな!」
数十人。
槍を並べる。
先ほどとは違う。
普通の領兵。
だが。
数は多い。
「また塞がれたぞ!」
十蔵が叫ぶ。
その横。
望月六郎が腰の袋へ手を入れた。
「やれやれ」
取り出したのは。
掌ほどの小さな箱。
十蔵が横目で見る。
「六郎!」
「何とかせい!」
「言われずとも」
望月は箱の一部を捻った。
カチリ。
小さな音。
甚八が眉をひそめる。
「それ、何だ?」
望月が答える。
「知らん」
「知らん!?」
「拾った魔道具をいちいち調べておる暇があるか」
「待て!」
十蔵の顔が引きつった。
「知らん物を投げるな!」
望月は構わない。
「確か、これは――」
ぽい。
領兵の真ん中へ放った。
ころころ。
小さな箱が地面を転がる。
一人の兵が見下ろした。
「……なんだ、これ」
次の瞬間。
ドォォォォン!!
「うわぁぁぁぁぁ!!」
爆風。
土煙。
領兵たちがまとめて吹き飛んだ。
「おおっ!」
十蔵が目を輝かせる。
甚八も笑った。
「こいつはいい!」
煙が晴れる。
そこには。
ぽっかりと道が出来ていた。
望月が何事もなかったように。
もう一つ箱を取り出した。
十蔵の顔が再び引きつる。
「……お主、それ幾つ持っておる?」
望月は腰の袋を見る。
「さあな」
にやりと笑う。
「まだあるぞ」
それを聞いた領兵たちが。
一斉に後ずさった。
前には。
金棒を担いだ二人の巨漢。
鉄の六角棒。
巨大な剣。
見たこともない魔道具。
そして。
その後ろから。
六文銭。
領兵たちの足が止まる。
「な、なんなんだ……」
「こんなの聞いてないぞ……」
「勝てるわけが……」
一人。
剣を持ったまま後ずさった。
隊長が怒鳴る。
「何をしている!」
「前へ出ろ!」
だが。
誰も動かない。
その時。
海野六郎が前へ出た。
「聞けぇ!」
声が戦場に響く。
領兵たちが六郎を見る。
「我らの狙いは領主ただ一人!」
ざわめきが広がった。
六郎は続ける。
「命を惜しむ者は引け!」
「逃げる者は追わぬ!」
領兵たちが互いを見る。
「されど!」
六郎の声が低くなる。
「なお我らの前に立つというならば――」
清海が金棒を肩へ担ぐ。
伊三も並ぶ。
十蔵が六角棒を握る。
甚八が大剣を構える。
望月は小箱を手の上で転がした。
六郎が言い放つ。
「容赦はせぬ!」
沈黙。
やがて。
一人の領兵が剣を下ろした。
一歩。
後ろへ。
それを見た別の兵も。
そして。
一人。
また一人。
領兵たちが道を開け始めた。
「おい!」
隊長が叫ぶ。
「持ち場へ戻れ!」
誰も戻らない。
一人が背を向けた。
走り出す。
それを合図に。
二人。
三人。
十人。
領兵たちが逃げ始めた。
「逃げるな!」
「戻れ!」
隊長の声が響く。
だが。
恐怖は。
命令より速く広がった。
十蔵が逃げる兵を見る。
「追うか?」
「構うな!」
六郎が即座に制した。
領都の奥。
その先にある領主の館を指す。
「我らの敵はあれじゃ!」
「城へ向かえ!」
「応ッ!!」
幸村たちが進む。
その時。
城壁の上から声が飛んだ。
「殿!」
佐助だった。
城壁の弓兵たちは。
すでに半数以上が倒れていた。
残った者も弓を捨て。
佐助たちから距離を取っている。
佐助が片手を上げた。
「ここは任せてください!」
幸村が見上げる。
「任せた!」
「はい!」
佐助が笑う。
「行ってらっしゃい!」
幸村たちは。
城門をくぐった。
六文銭が続く。
領都。
突然始まった戦いに。
民たちは家へ逃げ込んでいた。
扉を閉め。
窓の隙間から外を覗く。
街路を。
領兵たちが逃げてくる。
「何があったんだ……?」
「敵が来たって……」
「敵?」
「どこの軍だ……?」
そして。
逃げてくる領兵の向こう。
城門から。
一つの旗が現れた。
見たことのない旗。
六つの銭。
その下を。
武器を持った者たちが進んでくる。
先頭。
赤備えの男が。
槍を手に歩いていた。
「……なんだ」
窓から覗いていた男が呟いた。
「あの旗は……」
誰も知らない。
まだ。
この領都の誰一人として。
その旗の意味を知らない。
六つの銭。
六文銭。
その日。
初めて。
真田の旗が。
領都の門を越えた。




