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ご家老様

翌朝――。


佐助に案内され、一行は山を越えた。


しばらく歩くと、小さな村が姿を現す。


畑は荒れ、家々にも戦の傷跡が残っていた。


だが、村人たちの表情に絶望はない。


「ここでござる。」


佐助が静かに言った。


村の奥。


一軒の古びた家の縁側に、一人の男が座っていた。


目の前には碁盤。


だが、向かいには誰もいない。


一人、静かに盤面を見つめている。


清海が小さく呟く。


「一人で碁を……。」


佐助は肩をすくめた。


「いつもああだ。」


幸村は盤へ目を落とした。


しばらく見つめた後、静かに口を開く。


「七の四、黒。」


男の指が止まる。


石を持ったまま、小さく笑った。


「ほう。」


「殿も碁を嗜まれるようになられましたか。」


幸村も笑う。


「そなたがおらぬ間、少しの。」


男は静かに石を置く。


「まだまだにございます。」


「三の三、白。」


幸村は盤を見つめ、苦笑した。


「参った。」


佐助は呆れたように笑う。


「会って最初に碁かよ。」


男はようやく立ち上がる。


そして深く頭を下げた。


「お久しゅうございます。」


「殿。」


幸村は静かに頷く。


「久しいの。」


「六郎。」


佐助が笑いながら銭を見る。


「そういや、その娘は?」


幸村は銭へ目を向けた。


「名は銭。」


「旅の途中で拾った。」


銭はすぐさま睨みつける。


「拾ったじゃねぇ!」


「助けてもらったんだ!」


幸村は苦笑する。


「そうとも言うの。」


佐助は腹を抱えて笑った。


「面白ぇ娘だな。」


六郎は銭を静かに見つめる。


「黒髪……黒い瞳。」


「殿と一緒に来られたのでござるか。」


銭は首を横に振った。


「違う。」


「俺はこの世界の人間だ。」


六郎は静かに頷く。


「左様でございましたか。」


それ以上は何も尋ねなかった。


家へ通されると、六郎は一枚の地図を広げた。


そこには細かな文字がびっしりと書き込まれている。


幸村は目を細めた。


「相変わらずじゃの。」


六郎は微笑む。


「分からぬことは書き残す。」


「昔より変わっておりませぬ。」


幸村は静かに尋ねた。


「六郎。」


「この世界をどう思う。」


六郎は逆に問い返す。


「殿は、この世界をどう思われますか。」


「この黄泉の国がか。」


「拙者も初めは黄泉の国と思うておりました。」


一つ、碁石を指先で転がす。


「ですが……。」


「子が生まれるのを見申した。」


幸村は静かに目を閉じる。


六郎は続けた。


「亡者が子を成すものでございましょうや。」


部屋が静まり返る。


「ここは黄泉の国ではございませぬ。」


「拙者は、そのように考えております。」


幸村は静かに頷いた。


「左様か。」


六郎は地図を指差した。


「拙者は二年前、この世界へ参りました。」


「各地を巡り、この国の様子を見てまいりました。」


「その途中で才蔵と再会いたしました。」


幸村の表情が和らぐ。


「息災か。」


「はい。」


「ですが、今は別行動にございます。」


「殿が来られた時のため、この世界の情報を集めてもらっております。」


幸村は満足そうに頷く。


「才蔵らしい役目じゃ。」


六郎はさらに続ける。


「もう一つ。」


「気になる噂がございます。」


「日の本一の兵と名乗る傭兵団。」


佐助が笑う。


「ああ。」


「俺も聞いた。」


「王国じゃ、ヒノモト傭兵団って呼ばれてる。」


六郎は頷いた。


「百戦百勝。」


「民を決して見捨てぬ傭兵団。」


「幹部は四人。」


「皆、一騎当千の兵と聞き及びます。」


清海が腕を組む。


「我らの仲間でござろう。」


伊三も大きく頷く。


「間違いあるまい。」


六郎は静かに村の外へ目を向けた。


「殿。」


「この村は、これまでにございます。」


幸村が問う。


「何故じゃ。」


「領軍は一度敗れました。」


「されど、次は兵を増やして参りましょう。」


「村人だけでは、二度目は耐えられませぬ。」


幸村は静かに頷いた。


「左様じゃな。」


六郎は佐助へ向き直る。


「佐助。」


「才蔵から聞きました。」


「山奥に隠れ里を築き、行き場を失った者たちを受け入れている、と。」


佐助は照れ臭そうに頭を掻く。


「まあな。」


六郎は深く頭を下げた。


「頼みがございます。」


「この村の者たちを、お主の里で見てもらえぬか。」


佐助は即座に笑った。


「そんなもん、頼まれるまでもねぇ。」


「全員まとめて面倒見てやる。」


六郎は穏やかに微笑む。


「忝い。」


幸村は二人を見比べ、小さく笑った。


「皆、それぞれに役目を果たしておったの。」


やがて幸村は立ち上がる。


「参ろう。」


「日の本一の兵を迎えに行くぞ。」


佐助はニヤリと笑う。


「ようやく全員揃いそうだな。」


六郎も静かに頷いた。


「真田十勇士。」


「再び、一つとなる時にございます。」


囲炉裏の火が静かに揺れた。

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