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隠れ里

「甲賀の隠れ里みてぇなとこだけどな!」


佐助はそう言うと、山道を軽やかに駆け出した。


「ついて来な!」


盗賊たちは慣れた様子で後に続く。


幸村たちは商人と別れ、佐助の後を追った。


細い獣道を抜け、岩場を進み、滝の裏を潜る。


やがて視界が開けた。


「おお……。」


清海が思わず声を漏らす。


谷間には小さな里が広がっていた。


木造の家々。


畑。


井戸。


煙突からは白い煙が立ち上る。


子どもたちが元気に駆け回り、大人たちは畑を耕し、家を建て、武器の手入れをしている。


その誰もが穏やかな笑顔を浮かべていた。


「頭ぁ!」


子どもたちが佐助へ駆け寄る。


「お帰り!」


「今日は遅かったね!」


佐助は笑いながら頭を撫でる。


「今日は大物を連れて来た。」


皆の視線が幸村たちへ集まる。


佐助は照れ臭そうに笑った。


「この人が俺の命の恩人だ。」


「俺が命を預ける、たった一人の人だ。」


その一言で里の空気が変わった。


里人たちは一人、また一人と頭を下げる。


幸村は静かに手を上げた。


「やめられよ。」


「わしは、そのような大層な者ではない。」


一人の老婆が微笑む。


「頭はいつも申しております。」


「今の自分があるのは、この方のお陰だ」と。


幸村は佐助を見た。


佐助は照れ臭そうに鼻を擦る。


「余計なことまで話してやがる。」


その様子に里人たちは笑った。


幸村もまた、小さく微笑む。


里には、佐助が奴隷商から救い出した者たちが暮らしていた。


故郷へ帰る場所を失った者。


家族を失った者。


行き場をなくした者。


佐助はそんな者たちを受け入れ、この里を築き上げたのだった。


昼は畑を耕し、夜は子どもたちへ忍びの技を教える。


生きる術を。


守る術を。


囲炉裏を囲み、久しぶりの穏やかな時間が流れる。


幸村は佐助へ目を向けた。


「佐助。」


「六郎の噂とは。」


佐助は湯呑みを置き、話し始めた。


「この山を越えた先に、小さな村がある。」


「貧しい村だ。」


「税が払えなくなってな。」


「領主が見せしめに皆殺しにしてやるって、領軍を率いて攻め込んだそうだ。」


清海が眉をひそめる。


「何と……。」


佐助はニヤリと笑う。


「ところがどっこい。」


「完膚なきまでに返り討ち。」


「領軍は逃げ帰ったらしい。」


伊三が目を丸くした。


「村人だけでか。」


「ああ。」


「その村へ流れ着いた、一人のおっさんが作戦を立てたらしい。」


「村人をまとめて、領軍を追い返したって話だ。」


幸村の表情が変わる。


佐助は幸村を見ながら笑う。


「な。」


「海野のご家老様っぽくねぇか?」


幸村は静かに目を閉じた。


やがて、小さく頷く。


「六郎じゃ。」


清海も笑う。


「ご家老様なら、そのくらい朝飯前でござろう。」


伊三も頷いた。


「敵が何百おろうが、ご家老様なら勝つ道を見つける。」


佐助は肩をすくめる。


「だろ?」


「だから確かめに行こうと思ってたんだ。」


「まさか、その前に殿と会うとは思わなかったけどな。」


幸村は静かに立ち上がる。


「参ろう。」


「六郎がおるならば、迎えに行かねばならぬ。」


その頃――。


大人たちが話し込んでいる間、銭はいつの間にか里の子どもたちと打ち解けていた。


木登りをし。


鬼ごっこをし。


誰よりも大きな声で笑っている。


幸村は思わず微笑んだ。


「銭。」


「行くぞ。」


その声に子どもたちが一斉に振り向く。


「えーっ!」


「もう行っちゃうの?」


一人の男の子が駆け寄る。


「姐御!」


「また遊びに来てくれよ!」


「姐御ー!」


「約束だからな!」


銭は胸を張り、満面の笑みを浮かべた。


「おう!」


「また遊んでやる!」


子どもたちは大歓声を上げる。


「やったー!」


「またな、姐御ー!」


その光景を見た幸村は苦笑した。


「もう姐御になっておるの。」


佐助は腹を抱えて笑う。


「半日で子分を作るとは、大したもんだ。」


銭は得意げに鼻を鳴らした。


「だから言ったろ。」


「俺は人たらしなんだ。」


その言葉に、一同の笑い声が隠れ里へ響いた

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