配信再開
4450万円の件はほぼ一日時間が経ったこととボックス呼吸法を繰り返したおかげで、津村は平常心を取り戻すことができた。
となれば、ダンジョンアタックをするのが当然だと考えた。
レベルを上げることで手に入れたスキルを磨くためにも、ダンジョンでの修練を行うことが当然であると判断する。
それに4450万円が「間違えだった」と言われて没収されることさえあるだろう。
少し遅くなったが津村は下小山田ダンジョンに着くと、着替えて装備を用意して地下に向かった。
「皆さん、こんばんは! 甲子園出場経験もある探索者、津村杉太です。時間が空きましたが今日はダンジョンアタックの配信をお届けしたいと思います!」
配信ドローンの前で大きな手ぶりで津村はそういった。いつもは笑顔を作るのは辛かったが、今日は待たせてしまったという気持ちから満面の笑みを作ることができた。
虎キャン界隈@「よっ! 待ってました、有名人!」
ブルー+@「まあ正直おまえが無事でよかったよ」
ツイ廃帝@「前の配信は正直肝がつぶれかけた。あんな無茶はもうしないでくれ」
なじみのアカウント以外からも42人がコメントを寄せてきた。津村は相南のコメントに驚く。
虎キャン界隈@「ちなみに10階層のことは質問禁止という条件でみんな中継観ているぞ。ダンジョン協会からの警告が流れた後にアクセスしているから!」
その報告に津村は六角に感謝した。今日は10階層の件を話せない釈明からかなり時間を取られると思っていたが、それをしないでいいというのはかなりありがたかった。
日本ダンジョン協会が配信アクセスの前に注意喚起してくれたというのは驚きだったが感謝しかない。
六角の影響もあるだろうが、ダンジョン内のトラブルについては結論が出るまで何も言わないようにと協会から釘を刺されている。
一番立場の上の本牧美紗貴も、磯子の忠告でトレインは確認していないと報告しているので間もなく炎上は収まると津村は思う。
とはいえ、「名門高校の部活がトレインをした」という事実は一部の人間を強く刺激しているのは確かである。
現に今日の同時接続数は1120人というとんでもない数であった。注意喚起を受け入れてこの数字ということは、まだ関心が高いことの証である。
津村は今日の配信は言葉を慎重に選ぼうと思いながら口を開く。
「前回は配信が乱れて本当に申し訳ありませんでした。危ないところもありましたが〈凍獄〉の本牧美紗貴さんのおかげで全員帰還できました!」
するとコメント欄は「無事でよかった」が3割で、「やはり凍獄姫、凄いぜ」が7割を占めた。
美紗貴の人気がやはり高いと思った津村は報告する。
「それでですが近日中に本牧美紗貴さんに動画に出ていただきます! コラボを承諾していただきました!!」
これには歓喜のコメントでチャット欄が埋め尽くされる。人付き合いの悪い本牧美紗貴の希少性を知る者達が舞い上がったのだ。
美紗貴が津村の下で最低一年は働くといって譲らなかったのである。「命を危険にさらした罰」としてその程度のことはさせてもらうと言い張ったのだ。
これに磯子も賛成した。これは津村というよりも美紗貴のためだという。磯子は美紗貴が精神的に危険な状況にあるということを以前から懸念していたという。
思い込みが激しく、不正を憎悪し、一度信頼した者に強く依存する美紗貴を不安視していたのだ。
「津村ちゃん、うちと一緒に美紗貴を教育しよう! お願いします!」
当然津村は困惑した。レベル31の美紗貴がレベル11の津村の下に着くというのが納得できない。
当然断る予定であったが、なんと六角まで同意してしまったのだ。六角と美紗貴は師弟関係ではないが、磯子を通じて関係があるようであった。
津村は「目立たないようにした方がいい」という方向ではなかったのかと言いたかったが、自分よりも社会に精通している2人が言うのだから間違いがないのだろうと判断した。
本牧美紗貴とのコラボの一報は、同時接続数に一気に反映される。
情報を拡散されたらしくその数は一気に3200人に跳ね上がった。
これには津村は嬉しいやら恐ろしいやら困惑したが、探索者としての仕事を続行することにする。
「コラボの内容は後日お知らせとなります。では今日の配信内容をお知らせいたしますね。ソロで7階層に行ってヒーリングハーブを採取したいと思いまーす!」
そういうと同時接続数にまたも変化が起きた。3200人から780人に一気に減少したのだ。
「えっ!? なんで!」
津村は純粋に驚き、声を出してしまった。すると常連が答えをくれた。
ブルー+@「素材採取、特に植物採取の配信は一番人気がないんだよ。しかも津村一人じゃん? 一生懸命話しても映像の7割がしゃがんでいる画になる。いや、俺らは新しいことしているってわかんだけどね?」
津村は配信中にも関わらず、硬直してしまった。一気に配信数が減るという体験はなかなかのホラーであったのだ。
何か自分がとてつもない選択ミスをしたような気がして呆然としてしまう。皆の関心を失うということを一切気にしてこなかった自分が何か致命的なミスをしたような、そんな気になってしまった。




