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 ダンジョンを出て、シャワーを浴びると津村は待ち受けていた少女に連行される。

 金髪碧眼の美少女は満面の笑みで、津村とじっくり話すと言って譲らなかったのだ。

 しかも場所がダンジョン施設内のカフェテリアと聞いてしり込みした。


「すいません、カフェには入れません! その後5日を配信料込みで5000円ほどで過ごさなくてはならなくて――おまけに下着も買わないといけないので!」


 津村は言わなくてもいい事をいうはめになって、更に狼狽した。


「あら貧窮してるん? ええでお姉さんが奢ったる。好きなだけ食べーな」


 といって少しも譲歩しないので渋々カフェテリアに入った。

 初めて入るカフェテリアの内装はお洒落であった。天井にはデザインの良い換気扇が回り、レトロなジュークボックスに木製のピンボールが2台、目に入る。

 慣れない環境に周囲を見回していると、何を飲むか尋ねられた。


「その……一番安い奴でお願いします」


「OK! ポチポチっと!」


 津村は女性が滅茶苦茶注文タブレットを押しているのに不安になった。

 ふと自分達に視線が向いていることに気が付く。広いカフェテリアには他に30人近い客がいたが、全員がこちらに視線を向けていた。いや店員さえも津村のテーブルを見ていたのだ。

 だが磯子たちは一切気にしない。津村は金髪少女たちが想像以上の有名人なのだとゆっくりと認識していく。

 そんな金髪少女はニッと微笑んで津村を見据える。


「ほんで改めて自己紹介ね! うちの名前は吉村磯子な。両親はアメリカ人やけどもう全員帰化してんねん。それでアメリカンスクールに通う15歳。まあ結論から言うてうちと隣の本牧美紗姫ちゃんとパーティ組んで欲しいねん!」


「パ、パーティですか? えっ? 自分と?」


 これは津村には完全に予想できない話であった。

 更に言えば磯子の隣で睨む銀髪の少女本牧美紗姫の存在も津村を更に困惑させる。美紗姫は垂れ目で、口の近くに艶ぼくろがあるが、全体的にクールに映る風貌をしていた。

 完全に自分とは不釣り合いの存在である。

 2人ともデザインの良い装備を身に着け、抜群の体形が艶美だったので強い存在感を覚えさせる。またそれだけでは終わらない強烈な圧を感じさせた。

 恐らくは探索者としても一流の2人が、駆け出しの自分に用事があるというのが理解できない。

 からかわれているんだよな? と思っていると津村の目の前で磯子が顔を横に振る。


「ドッキリでもトラップでもないで? うちは本気やねん。えーと、うちのスキル〈天啓〉って知っている?」


「……知りません」


「ええ? ほんま? うちも美紗姫ちゃんほどではないけどそこそこ有名なんやけどな」


「すいません、探索者になると決めて一カ月で、講習を受けるなどで手いっぱいで、他の探索者の方の情報を集める時間はまるでなかったんです」


「ほーん。うちら普通に結構ネットニュースとかにもなるんやけどね」


「ネットは……体の鍛え方しか見ないです。動画とかもメディシンボールとチューブのトレーニングぐらいしか見ないですね」


「ほんまもんの脳筋派なんやな。そらともかくうちのスキルは、未来をざっと見れるんや。それでこの前、エネルギーバーのことで話した時、あんたの背中に触ったやろう? ほならめっちゃええ予兆が見えてん!」


「そう……ですか」


 とてもそんな話を津村は信じることができなかった。また相南が〈天啓〉の話をしていたことを思い出す。

 しかし「いい予兆」が何かわからなかったので尋ねることにする。


「『いい予兆』っていいますと、具体的にはどんな未来が見えたんでしょうか?」


 するとこの問いに、先ほどまでふてぶてしい顔をしていた磯子が不意に顔を赤くする。急速に耳まで紅くなると怒った顔をして小さく机をたたく。


「か、簡単に乙女のプライベートを覗くのは却下やで! 云われへんこともあるんやからね!」


 この磯子の主張に津村も驚いていると、隣にいる美紗姫も友を当惑した目で見ていた。

 咳払いした磯子は津村に挑むように言う。


「うちの〈天啓〉の一端見せたるわ! あんたはうちのパーティの申し出は断る! せやろう?」


 これに津村も美紗姫も驚く。


「こ、断る? 〈天啓〉の申し出を〈熔解〉が断わるというのか? 間違いないのか?」


 美紗姫に問われて、津村は頷く。


「は、はい。さすがにいきなりパーティは無理です。会ったばかりですし、それに自分と同じようなトレーニングをする人とパーティを組みたいと思い始めているんです」


 津村は少し前から理想のパーティ像が浮かんでいた。それは即席の大学生パーティを組んだことと、同じ学校の者達と模擬戦をした経験から、自分と連携が組める人と探索をしたいと考え始めたのだ。

 となると自然と自分と同じ、運動経験がある人材が相応しいと思えたのである。

 磯子のことはまだわからなかったが、アスリート特有の雰囲気がないので合わない気がしたのだ。

 ビックリしていた美紗姫であったが、津村が断わったことで安堵した顔をする。


「いやパーティを組まないとは思ったよりは懸命であるな。磯子が何かの間違いを犯すのではないかと付き添ったが、これで一安心だ!」


 が、津村は磯子の顔を見てギョッとなる。

 涼しい顔でほほ笑んでおり、あきらめた雰囲気はまるでなかった。

 磯子は横にいる美紗姫を見つめる。


「そんなことより、美紗姫ちゃん約束覚えている? 一回だけ津村ちゃんと手を握ってって話を!」


「むっ、うむ。まあそれは何度も頼まれてしぶしぶ同意したのは間違いないが……」

 

 磯子は今度は津村を向く。


「悪いけど津村ちゃん、美紗姫と一回だけ握手してくれへん?」


「まあ――握手くらいなら構わないですけど……」


 そういって津村はおずおずと右手を伸ばすが、美紗姫は戸惑った顔で手を動かさない。

 すると磯子が美紗姫の手を取って、強引に津村の手と重ねた。

 正確には磯子も手をどけないので3人が重ねた状態となったのだ。

 美紗姫はあわわとなって狼狽したが、磯子は違った。


「やっぱりやん! 二ヒヒ!」


 またも耳まで真っ赤にしながらも、これから悪戯をするかの如くニヤリと笑ったのであった。

 これは津村も磯子が未来を見た顔なのだろうと考えた。だが見えたものを想像すると何か恐ろしい気持ちがこみ上げてくる。

 磯子とは距離を空けないといけない――そんな考えを頭に浮かべた瞬間に、テーブルに続けて、ピザが3枚置かれた。しかも直径40センチを超える特大サイズである。


「お待たせいたしました。マルゲリータ、クアトロフォルマッジ、ディアボラの3枚です! スパゲッティも続けてお持ちしますね!」


 津村は突如の濃厚で魅惑的な匂いにクラクラとなる。鮮烈なチーズとオリーブオイルとニンニクの香りに脳を刺激された。

 そもそも野球の寮でもピザは出なかった。脂質と塩分が多いメニューは除外されていたのだ。

 美紗姫は大皿三枚にしり込みする。


「間違ってこんなに注文したのだな? わたくしは食べ物を無駄にするのが大嫌いだと、磯子も知っているだろう?」


「かんにん、美紗姫ちゃん! うっかり頼みすぎてもうた! すまへんけど津村ちゃん、ピザ可能な限り食べてくれへん? この通りや!」


 津村は磯子の仕草が芝居めいていると思った。しかし長い禁欲が続いたせいで、津村の意志は曲がってしまう。


「そういうことなら、いただきます!」


 そこから美紗姫は4分間、驚きで目を丸くしてしまう。ピザの3分の2を津村があっという間に口の中に消してしまったからであった。

 特大ピースのピザをあれよあれよと津村は平らげていったのである。

 その津村を見つめる美紗姫の目に強い好奇心と喜びがあると、テーブルが近い客はそう感じ取った。

 食べっぷりにウットリしたような、軽い陶酔した目つきになっているのを磯子も目撃していた。


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