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横濱究極

 相南岳は寝不足のせいで、今日八回目の大あくびをした。

 こんな頭の働かない日に限って、地理総合の教材の片付け係に指定されてうんざりした。

 基本暇で自堕落な生活をしている相南であるが、今日は忙しいのである。

 外せない二つの用事があった。

 教材室から一年C組に引き上げる時に、裏道を使う。人気のない変電施設と食堂の裏を駆け抜けると、二年生校舎をショートカットできるのだ。

 移動していると変電施設近くで異常を感じ取る。


「馬鹿やろう! ドジこきやがって!」


 その怒声の後に小さな炸裂音が三つ続く。

 相南が音の方に足を忍ばせ、近づくと7人の男子生徒の姿が見えた。

 二メートルを超す長身の大男の前で、5人の男が項垂れていた。そのうち3人が赤くなった頬を押さえている。

 横濱究極と、横濱が招き入れた5人の転校生だ。転校生はいずれも探索者で、横濱の父が経営するネットオークション会社「アルティメット」に勤務する父親を持つ点が共通していた。

 また六人は〈横濱組〉のメイン構成メンバーである。

 仲間のNo.12から昨日仕入れた情報がそのまま目の前に出てきたといった展開に、相南は思わず身震いした。

 横濱は怒りのままに吠える。


「津村の奴を手下にする処か、集団暴行した証拠を抑えられやがって! 津村が告訴したらおまえら普通に少年院だぞ! 馬鹿め!」


 話の大まかな流れが相南にはわかった。昨日、〈横濱組〉3人が津村を暴行しようとしたが、できずに逃げ出したことでもめているのだと。

 恐らく3人は中継ドローンが個人情報配慮で配信はしないが、記録はされていることを知らなかったのであろう。

 ダンジョン協会で3人が問題になったが、津村が「稽古してもらった」と答えたと昨日、津村から聞かされていた。

 相南は小型カメラで撮影を開始しながら耳を澄まし、横濱の声を拾う。


「探索部の馬鹿どもが規定に沿ってチンタラしているうちに、こっちがスキル持ちの数とレベルの高さが逆転すれば主導権はこっちに移るんだ! そうすれば俺の味方をする教師も数人いるから探索部を乗っ取れる。そのために転校してきたことを忘れんなよ!」


 相南は気色ばむ。何と横濱の狙いは探索部の乗っ取りであるのだ。

 しかしその理由がわからない。普通に探索部に入って、実権を握ってしまえばいいと思うのだが、できないわけがありそうであった。

 今のところ横濱が探索部にいたことも、トラブルになったことは確認されていない。

 むしろ横濱は野球部にいたが一年でレギュラーになれなかったことで自首退部している。「探索部よりも野球部を怨む方がむしろ自然」という見解を相南は一昨日No.12から聞いていた。

 茶髪の男が口を開く。


「そういえば知っていますか? 昨日マジで下小山田ダンジョンに〈天啓〉と〈凍獄〉が現れたそうですよ」


「馬鹿な、本当なのか? 2人が本当に大手クランと距離を置いて、2人だけで活動しているという情報はゴシップじゃなかったのか!」


 〈天啓〉と〈凍獄〉の話は相南にはタイムリーであった。ダンジョンや探索者に疎かったが、昨日津村に2人から勧誘を受けたという相談を受けてちょうど調べていたのだ。

 吉村磯子の〈天啓〉は未来の出来事を映像として見るというスキルらしい。未来・近未来・個人の限定的な未来を見ることができるという。とんでもないスキルとして大手クラン〈栄光の虹〉に属していたが7カ月で無所属になって今に至る。

 本牧美紗姫の〈凍獄〉はダンジョンの魔素を冷気に換え、望むがままに増幅させれるという破壊力抜群のスキルとして知られている。ほとんどのモンスターを問答無用で凍死させられるというから驚くしかない。だが美紗姫もまた短期間で複数のクランを渡り歩いたのちに無所属になっている。美紗姫自身は名家の人間で、探索者として稼ぐ必要のない環境にいるが、有益なスキルで社会貢献するためにダンジョンに入っているという話だ。

 若いのに探索者としてかなりの大物なのは相南にもわかる。だが素人の相南には2人が凄く可愛いということが一番印象に残った。

 二人とも探索者として実力・実績があり、津村になぜ声をかけたのか相南には想像もつかない。


 津村が嘘をついているわけじゃないだろうけど、あまりにもありえないことだからどういっていいのか俺には全然わからない!


 津村から昨日のうちにチャットアプリで、2人が何者で何を考えているか聞かれたが、相南は正直に分析不能と答えていた。それは今日も変わりがない。

 No.12ならば自分よりはマシな見解が出せるが、No.12は同志ではあるが友達ではないのでそこは区別しなくてはいけないと考える。

 3時限目が始まるので〈横濱組〉も解散となる。

 ただ最後に横浜がつぶやいた言葉がどこか意味深に思えた。


「〈万雷〉を仲間にできなかった時は、〈天啓〉にするという代案も馬鹿にできんか。いや俺の〈写照〉に取り込むなら〈天啓〉の方がむしろ美味しそうだ」


 相南もすぐにクラスに戻る。

 相南の斜め前に津村が座っているが、基本眼も合わさない。

 No.12も野球部排斥派が沈静化するのももう少し時間がかかるだろうと予想している。

 自分の机に戻って考えたが横濱の言葉の意味がわからない。

 相南はいつの間にか、自分が諍いの中心の近いところにいることに気づく。

 意識すると思わずゾクゾクしてくる。

 学園の中で、学生ではありえないイベントが目白押しでやってきて、その非現実に酔いそうになる。

 

 あれ? これ俺も探索者になる流れ? 頼れる相棒と共にダンジョン配信して、超すごいスキル得る流れ来てない?


 甲子園出場者を友人に持ち、学園内でのデカすぎる陰謀を知るとか、あまりも主役になるフラグが立っている! しかも超有名探索者に出会うチャンスも! 滅茶苦茶やばい!!


 相南は数学の授業も全く頭に入らず、有頂天になっていく。脳内麻薬が出てそれに溺れていく感覚があった。

にした。


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