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横濱組

 この後、運が復調したようにノッカー6匹、ヴァルドリン3匹、スライム8匹を狩った。2時間経過し、そろそろ迷宮劣化を意識して2階層から戻ろうとした時に配信ドローンがいつもは赤いランプが緑色に変わって激しく点滅し、警告音を発する。


「リフューザー、記録拒否者を複数検知。配信を停止します」


 と音声で伝えてきた。リフューザーとは配信に映ることをあらかじめ拒否する申請をしている者を指す。探索者申請する際にダンジョン配信に映ることを許可するか尋ねられるが、拒否するとその容姿・音声が配信されないように登録されるのだ。

 リフューザーの者たちは7人いた。年代は同じ年頃のようだと津村は思う。

 その者たちの数人が大声で話していた。


「んだよ、結局〈天啓〉と〈凍獄〉、見つけられなかったじゃんか」


「マジでガセだったんじゃねえ?」


「ったくうんざりだゼ。せっかくの日曜にこんなゴミ共と過ごすとか! あ~〈凍獄〉のパイオツ揉みてぇゼ!」


 津村は不思議な一団だと感じる。

 7人のうち先頭の3人はちゃんとした冒険者装備だったが、あとの4人は津村と同じレンタルだった。

 しかもその4人の顔色が悪く、明らかに怯えている様子だった。

 また4人のうちの一人が見おぼえがある。確か学校で見たことがあるようであったが、すぐには誰だかわからない。

 そうして津村が通り過ぎようとしたところで声が掛かる。


「おい、おまえ伊江慶の生徒だろう? マジ見覚えあるし!」


「はあ」


 津村も足を止め先頭の3人を見る。

 一人は茶髪の皮鎧に短剣の盗賊風、もう一人は大柄で金属鎧の大剣を背負う者、もう一人は細い剣を帯びた皮外套のスレンダーな者――いずれも目つきの良くない少年たちであった。

 細身の男が津村を見る。


「あ、おまえ、野球部をクビになって探索者に逃げた奴じゃんか!」


「おお、横濱さんにそんな奴がいるって聞いた覚えあんゼ。確かに根性なさそうな感じだゼ?」


 大柄の男がニヤリと笑いながらそう言った。

 津村はおおよその事情を知っているようだから、本当に同じ学校の者なのだろうとわかった。

 装備が充実しているのでダンジョン探索部の面々かと思う。探索部の部員の親族にはダンジョン関連のメーカーの人間がおり、そのつてで装備が万全なのだ。


「伊江慶学園1年の津村杉太です。探索部の方ですか?」


 そういうと3人がニヤニヤと笑い出す。

 茶髪の男が嘲笑まじりにいう。


「はっ、マジで俺達をあんなセレブ気取りのアホと一緒にすんなよ。俺らは本気でダンジョンくぐっているガチ勢だからよ!」


「そうなんですか。自分は3日目で頑張ってレベルを上げている最中です。何かありましたらご指導ください!」


「つかおまえはマジの探索者適正のある魔核持ちだろう? レベルは?」


「6です」


「嘘つけ、3日でレベル6なわけねえだろう。ともかくおまえは俺達の下につけ。横濱さんがおまえならパシリとしてマジで欲しがるだろうし!」


「パシリ……すいませんが自分はまだ駆け出しであまり余裕がありません。探索者も生活をするためなんでしばらくはソロでやりたいと思います!」


 と津村が云い頭を下げると、大柄の者が大剣をいきなり振り、その切っ先を津村に向ける。


「馬鹿か、てめえに拒否権なんかねえゼ! 黙って従うしかねえんだよ! おめえはもう〈横濱組〉に入るのは決まったことだゼ!」


 ここに来て津村はこの3人があまり善良な人間ではないと察する。いざとなれば全力で離脱しようと考える。

 すると細身の男がヘラヘラ笑いながら津村に近づく。


「まあまあ、ここは探索者らしく話をしようじゃん! 津村、おまえ、対人の訓練したことあるか?」


「対人? いいえ」


「この先、人型で武器を持つモンスターのオークやオーガ、サテュロスと戦うじゃん? その訓練を今から俺達がつけてやるじゃん? どうよ!」


 この申し出は津村には魅力的に映った。二足歩行のモンスターとの戦いは立ち回りが違うと聞いたことがあったのだ。ノッカーでは確かに対人の訓練にならないと肌で感じていたのである。

 先ほどの大学生との連携した経緯もあるので、対人の訓練は是非とも受けてみたいと思っていた。

 

「あの、よかったら対人の訓練をさせてください。よろしくお願いいたします!」


 津村がそういうと3人が笑い出す。「マジかよ!」「わかってねえじゃん」「こいつ天然だゼ」と大げさにも見える仕草をして笑った。

 他のレンタル装備の4人は青ざめて、どこか怯えたような表情をし始める。


 あれ? 自分はからかわれているのか?


 そう思っていると茶髪3人達は武器を抜いて、横に広がるように動く。


「んじゃあマジで稽古をつけてやるよ! おまえは負けたら〈横濱組〉に入ってパシリな? ちなみに俺らは全員レベル9だぜ?」


 そういうと3人は津村に襲い掛かっていく。

 3人の踏み込みは早く、殺気に満ちているのが津村に伝わる。

 津村は即座に実戦形式の稽古だと理解し、本気を出すことにスイッチする。

 まずは茶髪が突き込んでくる短剣を盾で横に弾き、かわす。続いて降り下ろされる大男の大剣を左にずれて凌いだ。

 その隙に細身の者が津村の背中に回り込む。が、すぐに急速反転し、正面に捕らえられるように修正する。


「っんだ、こいつ? デカいのにすばっしこいじゃん!」


「マジ、なんなんだよ!」


「おい、おまえら俺の邪魔すんじゃねえゼ!」


 津村は立て続けに〈横濱組〉3人の攻撃をさばいていく。

 ある時は足を踏み、ある時は盾で視界をふさぎ、急速横移動を行った。

 津村は連携について3人が何も考えていないのを察する。それぞれの攻撃が仲間に当たることを計算していないので、少し体を入れ替えるだけで攻撃が失速してしまうことを繰り返していたのだ。

 80×60センチの長方形の盾、リクタングラーシールドで視線をふさがれるだけで簡単に動揺していた。

 先ほどの大学生とは雲泥の差である。

 しかも殺気のこもった濃密な攻撃は1分弱で急速に消えていった。

 2分した時には3人とも息切れを起こし始める。

 満塁で強打者を迎えた修羅場に比べて、あまりにも緊張感が低く持続力も低い。

 そして3分すると、顔を真っ青にして肩で息をするようになっていく。

 細身の者がゼイゼイ言いながら津村を睨む。


「な、なんで、3人同時の攻撃をしのげるんだよ! お・おかしいじゃんか!!」


「………」


 自分が一撃も受けなかった理由を尋ねられているのだと理解した津村は正直に答える。


「たぶん、UZRやOAAを毎日計測され、求められる練習を続けていたから、対応できたのだと思います」


「UZR、なんだそれは?」


 伊江慶学園高等部の野球部ではカメラ・センサーを導入してUZR・OAAを独自で割り出していた。

 UZRは選手の守備範囲や反応速度を数値化し、それでアウトをどれだけ生み出せるかを割り出したものである。

 OAAは打球の軌道・スピード・選手の初動から捕球までの時間を解析したものである。

 いずれも守備にセイバーメトリクス理論を導入した場合に重要な指数・データになるのだ。

 津村はライトの守備評価FPCTで980という高い数字を出していた。

 毎日0.03単位での反応を要求され、査定される環境下で練習してきた津村にとって、3人の攻撃はあまりにも淡白でお粗末であった。


「ば、バケモンだ! マジで殺される!」


 茶髪の者は突如大声を上げて走り出すと、遅れて他の2人もそれに続いた。

 津村には意味がわからない。

 が3人はよろよろとしながら、遠ざかっていき戻ってこなかった。

 津村はどうしていいのかわからず、残った4人を見るとすがるような視線を向けられた。


「あ、あの、わたし達だけでは地上に帰れないので、ずうずうしいお願いですが、どうか一緒についてきてくれませんか?」


 と見覚えのある女子が切羽詰まった顔で津村に言ってきた。

 なぜそんなに必死なのかわからなかったが、あっさり承諾する。


「ええ、ちょうど戻るんで一緒に帰りましょうか」


 そう返答すると4人は心底ほっとしたような顔をした。


 地上に戻るまで4人はほとんどしゃべることもなかった。またモンスターを見ると震え上がり、しり込みしてしまう。

 ダンジョンアタックをしに来ているようにはとても思えなかった。

 そして間もなく地上となると4人は心底安堵したような態度を取るようになる。


 なんだか、今日は色んな人にあったな。そして何か疲れた……。


 探索者としてかつてない疲労を感じていると、またもアクシデントが発生する。


「やっとみつけたわ! もう離さんで!」


 そういって金髪の女性が津村に抱きついてきたのであった。


「ええっ!? な、なんですか?」


 それは2日前に、入り口で出会い、エネルギーバーを恵んでくれた金髪少女であった。

 そして金髪少女の後方に銀の長髪美少女がおり、強い眼光を放ってきたのだ。

 憎悪にも似た強い拒絶の意志を叩きつけれた感じを津村は受けた。


 え~っ、自分が知らないうちに何かしたのか?

 

 津村は抱きしめられながらかつてないほど激しく困惑した。


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