連携
翌日、日曜日も津村はダンジョンに潜った。もちろん前日から仮眠室を利用させてもらってだ。
ダンジョンの施設はボロアパート住まいの津村にはまさに救いの主といってよかった。
ベッドもシーツと枕と毛布を「洗濯もの」と申請すれば交換してくれ、シャワーも浴び放題、パソコンもネット環境もあり、無料洗濯機もある。おまけに美味しくて安い食堂と、値段が高いので行かないが結構立派なカフェテリアもある。
少し離れた処にある無料トレーニングジムも魅力である。ジムの中には模擬戦が行える地下スペースもあるからいずれは津村も利用するつもりだ。
何より大きいのは快適な空調である。静かで適度な環境をただで使えて感謝でいっぱいだ。
探索者でなければネットカフェでさえ未成年者という理由で自由にはできないのだから、この厚遇は普通ではない。
朝も200円の美味しい食事をして、大満足であったが衝撃的なことが起きた。
「津村さん、ごめんなさい。やはりスペチャの現金化はどうしても一カ月掛かるって本部から返信が来ました」
「そ・そうなんですね……」
そう受付嬢に云われて津村は固まった。
昨日、トゥルーにき達からのスペチャに浮かれて、金一封と配信料金の6500円をネットマネーに換えて、妹に送っていたのだ。
友人家族にスキーに誘われたが、スキー施設の利用代金がないと相談され、送金してしまったのである。
ダンジョン配信料をすぐにもらえるように交渉したら翌日に貰えるように手配してもらえたので、スペチャもすぐに手にできると思い込んでいた。
津村はダンジョンアタックする寸前に顔を真っ青にさせる。現金がもう1200円しかないのだ。1200円で6日過ごさなくてはならない。
ダンジョン配信料で何とかなると思っていたが、すでに下着と上着が迷宮劣化で怪しいことになっていた。
聞けばダンジョンに身に着けていく下着と上着は寿命が二週間が目安ということであった。下着と上着は購買部で合わせて2000円と格安だが、今の津村の経済状況だと厳しい。
更に言うと日払いで貰えるダンジョン配信料も源泉徴収が発生して、おおよそ20%引かれるので頼りにするのは危険であった。
ふと気づくと受付嬢にじっと見られていることに気づく。
「津村さん、ソロでは5階層まで行くのは止めてくださいね。当ダンジョンの基準では5階層でのソロはレベル10推奨です。津村さんは現在最短でレベル6ですが5階層は非常に危険です。まだ三日目です。絶対に焦らないでください」
「は、はい。心得ています」
心の中を見抜かれたように津村は思う。5階層に行けばこのジリ貧状態が解消されるのは確実であったのだ。
実際行くのは簡単で、二階にあるダンジョンポータルを使えば5階層に瞬時に移動できるのである。ダンジョンポータルとはダンジョンでドロップされる魔法の装置のことで、大量の魔力を使うことでダンジョン内を空間転移することが可能になっていた。
5階層から現れるダイアウルフ、ペリュトン、ボギー、ハーピィのドロップは平均一つ千円以上になるのだ。今の収益の20倍になる。最悪、3つのドロップがあれば、そこそこの成果になるので誘惑も強い。
津村の現在の目標である7階層のヒーリングハーブは一つで4000円になるので、一刻も早く行きたいというのが本音である。
探索者の冒険は自己責任なので、レベル6でも挑むことはできるが受付嬢の信頼を裏切る度胸は津村にはない。
本来は一年掛けてレベル7になるのが目標であったのに、順調すぎて欲が出てきたのだと自覚する。
津村は思わず、大きくため息をつく。
野球部にいた際もそこそこ激動ではあったが、探索者になってからの方が日々のアップダウンが強くなった感じがしていた。
とにかく1200円と配信料を一銭も無駄にできないと再認識する。
「よし、今日は夕飯は抜きだ!」
まさに背に腹は代えられないと覚悟し、ダンジョン入り口に向かった。
今日はいきなり同接、24人から始まったが1時間経つと半分に減った。
今日はモンスターと会う回数が低かったので、内容的には退屈なものとなっていたのだ。
それでも今日もトゥルーにきから送られた型を流し込むパフォーマンスだけは盛況であった。
今日は昨日の合成ブロックでスモールシールドといわれる盾を作って、装備していた。
昨日のショートソードはトゥルーにきが送ってくれた保存ケースに魔石と共に入れてしまっているが、ロッカーがそれでほぼ埋まっている状態である。
一時間半歩いてノッカーと双頭狐のヴァルドリンの集団が目に入る。ノッカーが6匹、ヴァルドリンが4匹で流石に一人では分が悪い。
ノッカーのうち2匹はヴァルドリンに跨っており、どういう動きをしてくるのかがわからない。
5分観察し、あきらめようとした時、背後を通った3人の探索者に声をかけられる。
一回挨拶をしたことがある大学生達であった。
「一人で10匹はきついよね。手伝おうか?」
「えっ、いいんですか?」
「君、ソロだろう? まだ複数対複数、スカーミッシュな戦いを経験していないんじゃない?」
「はい」
「じゃあ、俺達と暫定パーティ組んでやってみようよ。案外経験してみるとソロを続けるか、考えが変わると思うよ?」
「えっと……はい、お願いします!」
そういうと大学生3人の一番右手に津村は配置された。
実況同接者たちもおおむね好意的な反応である。
「俺と君がアタッカーでずっと右寄りを位置取りして戦って欲しい。俺は後衛の弓師と魔術師の活動スペースを確保しながら動くんで、君は俺達と連動しなくていいから!」
「了解しました」
ノッカー&ヴァルドリンもこちらに気づき、戦いが始まった。
津村はすぐに右手側に配置された意味を理解した。剣を味方に当てる可能性が低い状態で立ち回れるのだ。
大学生グループは息があっていた。前衛の戦士は後衛にノッカー達を行かせないように専念しながら、隙あらば攻撃を繰り出す。
戦いはテンポよく進み、弓師が2匹仕留め、魔術師が炎魔法で3匹焼き、戦士が2匹、津村が3匹倒した。
津村は手負いの3匹を倒すだけだったので非常に楽だった。
ドロップ品は素早く人数で均等に分け、大学生達は別れを告げて出口に向かって去っていく。
虎キャン界隈@「なに、素敵すぎるなあの大学生!」
ツイ廃帝@「礼に始まり礼に終わるダンジョン道」
津村にとっても衝撃であった。
圧倒的な安定感は津村には未経験のスタイルに思える。
当然、映像では複数パーティが大量のモンスターを倒すものなどは見てきたが、全体の連携にまで目がいかなかった。
だが今の短い戦いでは、個人が集団で動く意味や役割が確かに津村に伝わった。
しばし驚きで棒立ちになっていた津村であったが、視聴者がコメントを待っているのを感じ、口を開く。
「あの大学生の方々は素晴らしかったですね。見事な連携で一切の無駄がありませんでした。非常に参考になって嬉しかったです。そういえば野球でもインフィールド・シミュレーターやフルチーム・レップスなどといって守備の連携練習をすることがありますが、それに近かったと思います」
ツイ廃帝@「6-4-3、4-6-3、5-4-3、そして2-5-4の守備連携は基本の基本だよな」
ブルー+@「ツイ廃帝、野球の話は少し自重しろよ」
チャット欄も津村が組むにふさわしいパーティのことで花を咲かせた。
津村も5階層を本気で目指すならばソロではだめだと痛感し始める。危険を回避する可能性が圧倒的に高くなるし、視野を分散することで余裕が生まれるのがわかる。
今まで攻撃を一回も受けていないが、そういうレベルではない安全が確保できるのは魅力的であった。




