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第35話 クラウスの父親の真実

 遡ること3ヶ月前


「子ども未来基金が購入した山は、価値がほぼなかった、ことまでは分かりましたね」

「あぁ。レオボルトは、山を購入したはいいが、価値がなくて赤字となってしまった。

 その赤字を隠すための隠れ蓑が、子ども未来基金だったのだろう」


 山の視察を終え、私とアル様は、屋敷でお茶をしながら、今まで分かったことを話し合っていた。


「しかも、レオボルト大臣は、買った金額の金貨500枚で押し付けるのではなく、金貨800枚で押し付けています」

「欲が出たのだろうな。金貨500枚で買って、金貨500枚で売る。これだけではなく、儲けを出そうと思ったのだろう」


「でも、金貨800枚は、国から子ども未来基金への助成金を大きく上回りますわ」

「子ども未来基金は、借金をしてお金を作っているのかもしれないな」


「それは、子ども未来基金の内部資料を見なければ分からないですわね。レオン様がどこまで関わっているのか、内部資料には何か記載されているはずです」


「そうだな。子ども未来基金の代表は、レオンハルト殿の側近のクラウスか」

「えぇ。ですので、クラウス様に話を聞ければよいのですが……」


「直接話しかけても、警戒するだろうな。クラウスにとって、エリシアは、自分が仕える主を公の前で断罪した元婚約者だしな」

「そうなのです。しかも、クラウス様はレオボルド大臣の息子ですし、協力はしてくださらないと思うのです」


「なるほど。でも、子ども未来基金の内部資料は、クラウスから入手出来ないとなると難しいな」


 私たちの間に、少しの間、沈黙が落ちた。


「あっ! クラウス様のこと、エド様なら何か分かるかもしれません」

「エドが?」


「えぇ。私が知らなかった、クラウス様が実は養子だということ、エド様が知っていました。エド様は情報通だから、エド様に聞けば、何か糸口が見つかるかもしれません。」

「よし、分かった。国に戻ったら、エドに聞いてみるとしよう」


 ◇


 アル様が隣国に戻ってから、すぐにエド様から手紙が来た。


 『エリシア嬢、久しぶり。

 ところで、クラウスの件。僕が彼のことで知っていることは、彼の実父が、事故で亡くなったということくらいだったけど、ここヴァルディア国で、落石にあって亡くなっていたことが分かったんだ。


 エリシアの知りたいことに関係ないかもしれないけど、クラウスの実父について調べたら、何かにたどり着くかもしれない。


 だから、隣国に事故報告書など何か資料がないか、アルベルト殿下がいま調べているようだ。また、詳細が分かったら連絡をする。


 けど、僕が連絡をする前に、アルベルト殿下がエリシア嬢の元に飛んでいくだろうね』


 (エド様、相変わらずだわ)


 私は、手紙の文字からも、エド様の明るい雰囲気がにじみ出ているのを感じ、少し胸が温かくなった。


 それにしても、クラウス様のお父様は、アル様の国で事故に遭っていた、だなんて。

 アル様が調べてくれていることに感謝をしながら、今はただ連絡を待つことにした。


 それから、数週間後、ようやくアル様から手紙が来た。


 『エドから言われて、クラウスの父について調べてみた。色々と分かったことがある。糸口になりそうだ。

 ただ、外交問題が絡む可能性があるので、こちらに任せてほしい。心配しないで。全力を尽くすから』


 外交問題という言葉を見て、大きな何かが裏にあることに驚きつつも、すんなりと受け入れる自分もいた。


 アル様の力強い言葉に、私は勇気をもらい、アル様にすべて任せることにした。


 ◇


 エリシアにアルベルトから手紙が届いた頃。


 クラウスは、レオンハルト殿下に3日間の休みを告げて、隣国ヴァルディア国に赴いていた。


 クラウスは、崖のそばの道ばたに花をたむけて、手を合わせている。


 (お父様。僕は、レオン様の元で頑張っています。レオン様は僕を信じています。僕は間違ってないですよね……)


「クラウス殿かな?」


 クラウスの背中越しに声がした。

 クラウスが振り返るとそこにいたのはアルベルト王子だった。


「……!あなたは?!」

「私も一緒に手を合わせても、いいか?」

「はい……」


 クラウスは落ち着かない。


 なぜアルベルト王子がここに?目的は自分だろう。なぜ自分に?

 目まぐるしく頭の中を色々な可能性が走り回る。


 クラウスの隣に並び手を合わせていたアルベルトが、クラウスの方を振り返った。


「どうだろ、少し話をしないかい?」

「……」


 クラウスは逡巡している。何を聞かれるのか。


「そんなに警戒しないでくれ。君の本当のお父上の事故について、話したい」

「……! そ、それは、どういうことでしょうか?」

「立ち話も何だから、場所を変えて話そうじゃないか」


 クラウスとアルベルトは、ヴァルディア国の王家の馬車に乗り込んだ。

 クラウスは、何を聞かれるのかという不安と、内装の豪華さも相まって落ち着かない。


「単刀直入に言う。

 君のお父上の事故だが、我が国で作った報告書とは違うものが、あなたの国に報告をされていた」

「……え。違うもの?!」

「あぁ。誰が何のために書き換えたのかだが、予想はついている」


「それは、誰ですか?!」


 クラウスは、不敬と言われかねないくらいの勢いで、アルベルトの方に身を乗り出して尋ねる。


「それは――レオボルド大臣だ」

「まさか!」


 クラウスは予想しなかった言葉に、頭の血の気が引く。


「当時、事故は落石にあったとなっていた。しかし、落石する瞬間、崖の上に人がいるのを見た、という目撃者がいたのだ」

「それって、つまり」


「誰かが、人為的に落石させた可能性がある」

「事故ではなかった、ということですか?!」


「あぁ。しかし、その目撃者が、急に証言を変えていた。こちらの記録には、その変遷も記載している」


「証言を変えた……。それは、何か、圧力があった、と言いたいのですか?」

「あぁ。当時の記録を見ると、ある時期を境にコロッと変えていた」


「その目撃者が見たという人物は?」

「名前が出たので調査をしようとしたところ、目撃者の証言が変わったので、それ以上の追及は免れたようだ」

「そいつの名前は?! 誰なのですか?」


「レオボルド大臣の元部下だ。元というのは、すでに亡くなっている」

「そんな……。でも、それだけでは、レオボルド大臣が犯人かは分かりませんよね?」


「今回、改めて目撃者に対して、調査をした。

 レオボルド大臣から金をもらったことを認め、泣いて謝罪をしていた」


 クラウスは、声にならない声を出し、握りこぶしで何度も自分の太ももを叩いている。


「そんな、僕の叔父が……。僕を育ててくれたのは、どういう気持ちからだったんだ?」

「彼にメリットがあったのだろう」


「僕を育てるのにメリット……。母をすでに亡くしていた僕を可哀想に思って、ではなく」

「あぁ。君自身も気づいていただろう。レオボルトが君を、どのように扱っていたのかを」


「……僕は……僕は」


「君は、レオボルドの使い勝手の良い駒だったんだ」


 クラウスの目からは涙が止まらない。

 クラウス自身も分かっていた。レオボルドに利用されているということを。それでも、親を亡くした自分を思う気持ちもあると信じていた。


「直接的な証拠はなくても、積み上げていけば必ず真実にたどり着けるはずだ」


 アルベルトはクラウスに、ハンカチを渡しながら続ける。


「そして、今回、15年以上前のことだが、改めて調査をすることにした」

「どうして、そこまでしてくださるのですか?」


「それは、協力をしてほしいからだ」

「……レオボルドの悪事について、ですか?」

「そうだ。飲み込みが早くて助かる。子ども未来基金の資料を見せていただきたい」


「……よくご存じですね。これは、エリシア様からのお願いですか?」

「それもある。それに、隣国として、手を取り合う国の王として、レオンハルト殿がふさわしいのか否かは重大な関心事だ」


 クラウスがうつむきながら、表情をゆがめている。


「レオンハルト殿下は、何も知らないのです……僕は、殿下のお人好しを利用したのです」

「そうしろ、と言われたのだろう?」

「でも……」


 クラウスは答えをすぐに出せずに、浅い深呼吸を繰り返す。クラウスの声にならない声だけが馬車の中に響く。


「再調査をしていただければ、レオボルドに復讐出来るかもしれない。父の死の真相が分かれば、父も浮かばれます」


 クラウスはそう言いながらも、とても苦しそうな顔をしている。


「けれど、資料を渡せば、レオンハルト殿下にも処分が下される。殿下は僕に利用されただけなのに……」


「王の器たる者であれば、盲目的に信用することはあってはならないのだ」


 アルベルトが力強く言い切る。


 クラウスは、ハッとしたように顔をあげる。


「……。アルベルト殿下。少し考える時間をください」

「分かった。ただ、タイムリミットは、レオンハルト殿下の誕生日パーティーだ」


「わかりました。それまで、僕はどうすべきなのか、結論を出します」 


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