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第34話 子ども未来基金と山-赤字が隠された場所ー

「我が国を、侵略者のように誹謗することは、心外だな」


 群衆の中から、アル様が出てきて、私の横に並び立った。


「アル様! 今ですか。このタイミングは最適なのでしょうか?」

「エリシアが、私と仲良しだと言ってくれたから、それが事実であることを示すために出てきたのだ」

「ですが、いまは責められているときですよ?」


「それに、証拠は揃った。安心しろ」


 アル様が耳元でささやいてきた。


「……ありがとうございます」


「なに二人でイチャイチャしているんだ!」


 レオン様が顔を赤くして声を荒げる。


「そもそも、アルベルト王子。なぜここにいるのですか?レオボルド大臣が言うように、我が国を侵略するつもりなのですか?!」


 会場がざわつく。

 衛兵たちにも緊張が走る。 


「レオンハルト。落ち着きなさい。わたくしが、招待したのです。

 エリシアと――その婚約者として、アルベルト王太子を」


 王妃様が静かに告げる。陛下の眉が少しあがった。


 会場のざわめきが一瞬で静寂になる。


「母上……?」


 レオン様は混乱している様子だ。


「エリシア。続けなさい」


 王妃様が私に促してきた。 


 レオボルド大臣は、王妃様の迫力に少したじろいだようにしている。


「山を、金貨500枚で購入したのに、実際は金貨50枚の価値しかなかった。これって、大赤字ですわ」


 私は、レオボルト大臣やレオン様の顔をゆっくり見ながら続ける。 


「ですが、国の帳簿には赤字は載っていません。さらに、奇妙なのは、この収入の部分です」


 私が帳簿の該当箇所を指さした。


「この価値のない山を売却しており、帳簿としては黒字となっているのです」

「……どういうことだ?」


 レオン様が、ためらいながら問いかけた。


「簡単な話です。損した山を――別の財布に押しつけたのです」


「別の財布……」

「ええ、別の財布です。『子ども未来基金』という別の財布です」

「……!」


 レオン様が目を見開いている。


「そうです。レオン殿下。あなたが設立した、子ども未来基金です」


 ざわめきが、波のように広がった。


「金貨50枚の価値しかない山を、子ども未来基金が購入しています。

 しかも、金貨800枚で購入しています。赤字の山を押し付けられただけではなく、さらに多くお金を取られていたのです」

「ぼ……僕は何も知らない!」


「レオン殿下は、子ども未来基金が、山を買うこと。承認していたのではないですか?」

「山は、孤児院に関する施設を作るのに良い場所だからとは聞いていた……」


「聞いていた。……確認はしていないのですわね」

「……」


「私は実際に、この目でその山を見てきました」


 レオボルド大臣が目を大きく見開いた。


「実際に見れば、どんな場所であるかは一目瞭然です」

「僕は……」


「私は、レオン殿下が貧しい子どものためにと基金を設立したと聞いたときは、その志、尊敬いたしました」


 レオン様の悲しい子どもをなくしたいという思いは、嘘ではないだろう。炊き出しのときもだ。民衆のことを思う気持ちはある。

 けれど……


「私は、子ども未来基金が設立されたのに、孤児院の状況に変化がないのに違和感を覚えました。

 そして、基金が山を購入したことを知り、実際に見に行ったのです」


「レオン殿下は、子ども未来基金を設立した。子どもたちを思う気持ちはある。……でも、それだけなのです。それ以上の確認はしましたか?」

「孤児院の視察もしていた……」


 レオン様の声が小さくなる。


「孤児院の貧しさが変わらないこと、お気づきになりませんでしたか? 実際に基金からどのような援助がどのようになされているか、確認いたしましたか?」

「それは……」


「殿下は、自分では確認していないのです」


「私は……何も知らなかったのだ! 子ども未来基金の代表は、クラウスだ。私は、クラウスに任せていたのだ」


 名前を出された側近のクラウス様が、ビクっとして、うつむく。 


 しかし、クラウス様は顔をあげて、アル様の方を見て、小さく頷く。

 そして、意を決した様子で私に近づいてきた。その手に、書類の束を持って。


「クラウス!! お前はなにをしておる! その書類は何だ?!」


 レオボルド大臣がわめき立てる。


「陛下! そもそも、エリシアは帳簿がどうのと言っていますが、帳簿は国家の情報ですぞ! それを、国の中枢に関係の無い者が見ていること自体おかしいことだ! 即刻つまみだすべきです!」


 レオボルド大臣は、クラウスを目で牽制しながら、激しく言い募る。


「今日は殿下の誕生日というめでたい日なのですぞ!

 おい! 誰か! エリシアとクラウスをつまみ出せ!」


「レオボルド大臣。僕が許可しました」


 セドリック様が、中央に出てきて、淡々と告げる。


「は……?」

「セドリック?」


 レオン様とレオボルド大臣が間の抜けた顔をする。

 陛下は落ち着かない様子で王妃様を伺っている。

 王妃様は表情を変えない。微笑んだままだ。


「僕がエリシア様に、国の帳簿の閲覧権を与えました」

「なんて、勝手なことを!」


 レオボルド大臣がセドリック様にも吠える。


「……勝手なことをしていたのは、あなただろう」


 セドリック様が声を荒げることなく言った。だが、声音には明確な怒りがにじんでいた。


「あなたは、王家に許可なく土地を買い、赤字を隠して、私腹をこやしていた。そのほかにも国の金を勝手に使っていたことは分かっているのだ!

 いま、あなたの屋敷には、警備隊が入って証拠を押さえている頃だろう!」


 セドリック様の声が、低く鋭く響いた。


「ここは、貴様の虚言が通る場ではない!」


 レオボルド大臣は返す言葉を失い、顔をゆがめた。


「衛兵! レオボルドが逃げないように、見張っておけ」


 セドリック様の一声で、衛兵らが、レオボルド大臣を囲む。レオボルド大臣は、やめろ!と騒ぎ、床に押さえつけられている。


 レオン様はおろおろしている。

 かたやセドリック様は、堂々としている。


「エリシア様。これが、基金に関する書類です」


 クラウス様が私に書類を手渡してきた。


「クラウス! この恩知らずめが!!」


 レオボルド大臣が、衛兵に床に押し伏せらたまま、なおも怒声を上げる。


「……あなたに……お前に、言われたくない!」


 クラウス様が、燃えるような目で、レオボルド大臣を睨んでいる。


「僕は、今までお前の手伝いをさせられてきた。それは、育ての親であるとの恩からだ」


 クラウス様の呼吸が乱れ、肩がわずかに上下している。


「でも――でも、僕の本当の父は、お前に殺されたのだろ!」


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