第33話 レオンハルトの誕生日-全てを証明する日
レオン様の2年間の再教育が終わった。
そのため、今年はレオン様の誕生日パーティーが開かれる。そこで、陛下は、レオン様を正式に跡継ぎにすることを宣言するようだ。
(レオン様。残念ですが、あなたにはその器がありませんわ)
「エリシア。いよいよ今日だな」
我が家の屋敷のリビングにて、アル様が私に話しかける。
「えぇ。証拠は完璧ではないですが……」
「大丈夫。最後のピースは必ず埋まる。信じろ。それに、手元にある証拠だけでも、十分だ」
アル様の力強い言葉に、私は勇気をもらった。
「そうですわね。弱気になるなんて私らしくないですわね」
◇
レオン様の誕生日パーティーは、王家主催としては、豪華さが控えめである。
しかし、それでも大広間には柔らかな燭台の光が揺れる。シンプルな花の装飾は、上品に輝いている。
招待された貴族たちは、静かに談笑をしている。豪華すぎず、しかし地味すぎもしない。控えめながら、確かに祝宴の空気は漂っていた。
香り高いワインやシャンパンが配られる。サンドイッチから肉料理、軽やかなデザートなどがテーブルに置かれ、誰もが口元に微笑みを浮かべる。
久しぶりの王家主催の祝宴。王太子の誕生日という節目の重みは、静かに伝わってくる。
(卒業パーティーの事件以来、祝宴は自粛だったものね)
私は、プチタルトを口に入れながら、周りを見渡す。戦う前の腹ごしらえだ。
アル様は、私をエスコートしたら、すぐ戻ると言って外に出て行った。
(さて、まずは挨拶に行かないとね)
私は、少し気合いを入れるように一人うなずき、レオン様の元へと向かった。
「レオンハルト殿下。お誕生日おめでとうございます。エリシアより、お祝い申し上げます」
「……エリシア。来ていたのか」
レオン様は気まずそうに目をそらす。
「エリシア様? まぁ! 招待されていたのですか?」
レオン様の隣に立つマルグリットは、相変わらずである。
「マルグリット様。お久しぶりでございます」
マルグリット様は、私の頭からつま先までを査定するかのように見ている。
「ふーん。あなたにしては、素敵なドレスを着てらっしゃるのね」
私は、アル様の瞳と同じ琥珀色のドレスを着ていた。
ドレスの胸元には黒のレースが縁取られ、夜のように深い色の大ぶりのリボンが中央に据えられている。宝石のブローチが静かに光を返しており、スカートはドレープをたくし上げるように黒いリボンがいくつも結ばれている。
「下地が地味だから似合うのかしらね。私は華やかさがあるから、着られないわね」
(マルグリット様は、何も変わらないわね。よく言えば芯が通っているというのかしら)
私は、二人に微笑みながら一礼をし、その場を立ち去った。
◇
パーティーも終盤。
笑い声とグラスの触れ合う音が、ひとつ、またひとつと消えていく。
視線は自然と壇上へ集まる。そこでは陛下らが、宣言に向けて静かに整えられていた。
私は、少しずつ壇上の方に近寄る。
壇上中央に立つ陛下を中心に、その右に王妃様、左にレオン様が並ぶ。レオン様の更に外側にはセドリック様が控え、王妃様の隣には堂々と胸を張るマルグリット様の姿があった。
壇上近くでは、レオボルト大臣がニコニコした顔で見守っている姿がある。
陛下が、一歩前に出る。
いよいよだ。
「本日、私からの報告がある。
我が第一王太子レオンハルトを、私の正式な後継者とし――」
「陛下、僭越ながら申し上げます。その宣言、どうかお待ちください」
私は、陛下らを見上げる最前列にて、陛下の声を遮った。
会場がざわつく。
「陛下の宣言を止めるだなんて!」
「あれは、エリシア様?」
「レオンハルト殿下の元婚約者といえども、不敬だろう」
「また、何かが起こるのか?」
「エリシア! 下がれ! 陛下の話をさえぎるなど、もってのほかだ!」
レオン様が吠える。
「陛下の話を止めたことの処分、後ほど甘んじて受け入れます。ただ……後継者としての資質に関わる問題がございます」
陛下が、王妃様をチラリと見る。王妃様が、小さくうなずいた。
「エリシア。申してみろ」
「父上!」
「実は、財務省の方々が、王家の許可なく山を購入し、売却をしていたのがわかりました」
「な……! 語弊があるぞ! 確かに許可は手続き上のミスがあった。ただ、あとからちゃんと報告をして許可を取っておる!」
レオボルド大臣が、慌てて大声をあげた。
私はレオボルド大臣を無視した。
「その山は、見た目は鉱石が発掘される山でして、金貨500枚で購入したそうです」
私は、微笑みながら続ける。
「けれど、その山、本来の価値が金貨50枚――ですよね?」
「何を言っているんだ! 帳簿にはちゃんと、金貨500枚と記載されておるわい!」
レオボルト大臣は言い返す。
私は、レオボルド大臣の反論を予想していたため、ある書類を見えるように掲げた。
「これは、山の売買について記載されている部分の帳簿の写しです」
「な……! なんで、お前が持ってるんだ!」
「確かに、山を購入、金貨500枚。と記入されていますわ。でも……」
私は、何枚もの不動産鑑定書を取り出した。
「実際、この山は、金貨50枚の価値しかございません」
会場がざわめく。
どういうこと?などと、ささやく声が広がっていく。
「そんなはずはない! 陛下だまされてはいけませぬぞ!」
レオボルド大臣は、私の手から不動産鑑定書を奪い取り、確認をする。
すると、勝ち誇ったかのように、高らかに声を上げた。
「陛下! これを見てください。この鑑定書は隣国の業者によるものです!」
「それがなにか? この国の業者は、レオボルド大臣と関係がある者がいるようでして。なので、第三者として隣国の業者に鑑定をしてもらったのです」
「陛下! エリシアは、この国を乗っ取ろうとしております。陛下らもご存じですか? エリシアは、隣国ヴァルディア国のアルベルト王太子と懇意にしておる。なので、隣国と通じて、何やら企んでおるのです!」
「アルベルト王太子と?! なんだと、エリシア! それは本当なのか?!」
レオン様は、ショックを受けたような顔をしている。
「はい。アルベルト様とは仲良くさせいただいております。ですが--」
「この私が、ルクセリア王国の後継者となることを妨害したのは、そういうことなのか! 隣国と共謀して乗っ取ろうと考えてのことなんだな?!」
レオン様は、私の声を聞こうとせずに、騒ぎ立てる。
人を信じると言っても、決して私を信じようとしない。この人が信じているのは、自分にとって都合のよいことだけなのだ。
私は何も変わっていないレオン様を見て、小さくため息をついた。




