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第3話 レオンハルト王太子の誕生パーティー

 私が12歳になった頃、第一王太子であるレオンハルト殿下の誕生日パーティーが開かれた。パーティーには、レオンハルト殿下と同い年くらいの子どもたちが招待された。


 誕生日パーティーとは名ばかりであり、実際は、婚約者選定会であった。私も、レオンハルト殿下と同い年であったため、招待状が届いた。


 ちなみに、私の姉は、4つ上であり、すでに婚約者がいるため、今回招待はされていない。

 姉は、王立ルクシア貴族学園を卒業したら、辺境伯の息子である婚約者の元に行ってしまうのだ。


 姉の性格は、物怖じをせずに、ズバズバと言って行動をする。しかし、たまにしおらしい姿を見せるらしい。そのギャップに、婚約者であるリヒャルト様は、夢中になっているそうだ。


 私には、しおらしい姿は想像出来ないが……。


 レオンハルト殿下の誕生日当日は、雲一つない空で澄み切っていた。まるで殿下の誕生日は、祝福以外を許さぬかのような晴天だった。


 馬車から降り立った私の目に広がるのは、まるで一枚の絵画のように整えられた王宮の奥庭であった。


 低く刈り込まれた生け垣が迷路のように続き、その奥では、白大理石の噴水が静かに水を吐き出している。季節の花々は色を競うことなく、計算された配置で咲き誇っていた。


 招待された令嬢たちは、緊張した面持ちでいる。しかし、可愛らしい微笑みを崩さない。笑顔の裏で、足下のドレスの裾がわずかに震えている。


 私は、可愛らしい微笑みを出すことが苦手だ。もっと言えば、感情を表に出すことが難しい。

 そのため「何を考えているか分からない」「冷たい子」と周囲から言われており、友人もあまりいない。


 それでも、私は、家族だけは分かってくれるため、気にしていなかった。


 無理に明るい笑顔を作ろうとしないことは、今日も同じだ。私は、他の令嬢のように、レオンハルト殿下に気に入られるために愛想を振りまこう、という気持ちにはならない。


 なぜなら、私は結婚に、そこまで興味がないからだ。ゆくゆくは、侯爵家を継ぐお兄様の右腕として、領地の経営を財政面から支えて、領民のために生きていければ、と思っている。


 私が両親にこの話をすると、反対はされない。しかし、父が少し寂しそうな顔をする。



 私は会場を見渡す。


 (今回、呼ばれているのは、8名ね)


 私はパーティーに参加している令嬢、つまり婚約者候補を数える。


(8名のうちから1名が婚約者候補として選ばれる。

 87.5%は選ばれない。

 ということは、私が選ばれない可能性は高いわね)


 端から見たら無表情に見える顔で、私は計算をする。


 愛想を振りまくことが出来ない私は、順当に考えれば、婚約者には選ばれないだろう。


 けれど、もし選ばれた場合。


 レオンハルト殿下と結婚をすれば、国の財政に関わることができる。国の財政に関われれば、我が侯爵家の領民だけではなく、国全体、国民たちのために役立つことが出来る。


 そういう意味では、レオンハルト殿下との婚約に興味が全くないわけではない。


 (選ばれる確率を上げるべきかしら?)


 もっとも、あまり感情が顔に出づらい私は、他の7人の令嬢のように、にこやかに・可愛らしく、というのは難しい。


 (口角を上げて、声のトーンを上げることで、婚約者に選ばれる確率も上がるかも。

 でも、今まで無表情と言われていた子の笑顔って、怖くないかしら)


 そんな私の複雑な思いを知るよしもなく、爽やかな弦楽四重奏の旋律が風に溶ける。噴水の水音だけが、場の静かな緊張を覆い隠している。


 楽団の音がふと弱まり、近衛騎士の槍が一斉に地を打つ。それだけで庭に満ちていた私語が、波を引くように消えた。


「今日は、私の誕生日に集まってくれてありがとう。

 たくさんお菓子やお茶を用意している。

 今日は、気持ちの良い晴天にめぐまれた。これも、皆が私を祝いたい、との思いが天に通じたからと思っている。存分に楽しんでいただきたい」


 太陽の光の反射もあり、キラキラとまぶしく輝く金色の髪。

 今日の空よりも澄んだ青い色の瞳は、群衆をひと息で従わせる力を宿している。

 きりりと整った顔立ちには、王族の威厳が宿っている。


 レオンハルト殿下が現れた瞬間、空気がわずかに張り詰めた。

 12歳とは思えない、重厚さと力強い声であり、計算式では表せられない人を引きつける魅力がある。


「レオンハルト殿下!お誕生日おめでとうございます。

 素敵な庭園に、素晴らしいお菓子の数々。このような素敵な会にお呼びいただき、ありがとうございます。レオンハルト殿下の誕生日を一緒にお祝いさせていただけること、この上なくうれしく思います!」


 レオンハルト殿下の周りに、令嬢らが集まる。そして、口々にレオンハルト殿下を褒め称えている。


 最初は緊張した面持ちの令嬢たちであったが、一人が話しかけると、みなが我先にと言葉をかけている。


 レオンハルト殿下を囲む輪から、一歩離れたところに余裕のある表情で、扇子を仰ぎながら、令嬢らを見ている女性がいる。


 (あの方は、お父上が財務大臣のマルグリット公爵令嬢。落ち着いて上品な風格。彼女が婚約者候補の本命っぽいわね)


 赤色の髪にエメラルド色の瞳をしたマルグリット令嬢は、その情熱的な髪色とは反対に、落ち着いた様子を見せている。


 選ばれることを疑わぬ者だけが持つ、静かな余裕がある。


 我先にと群がる令嬢の輪に入らず、観察をしていた私は、我に返った。


 (のんきに見ている場合じゃないわ。私も招待してもらったことのお礼と、誕生日のお祝いの言葉を伝えないと、失礼に当たるわ)


 私はレオンハルト殿下の元に近づこうとした。


 すると、目の端に赤く光る物が映った。


 (……! これは! いま王都で美味しいって評判のイチゴのプチケーキ! イチゴに飴がコーティングしてあるのかしら。キラキラ輝いていて……美味しそう)


 カフェテーブルにずらりと並ぶお菓子の数々の中に、王都で流行のイチゴのプチケーキを見つけ、目が釘づけになってしまった。


 イチゴのプチケーキは全部で45個。

 今ここにいるのは令嬢と付き添い、レオンハルト殿下を合わせて22名。

 

 一人2個食べたら1個余る。


 (ということは、私が3個食べても、計算上は、大丈夫ね。でも、さすがに私だけが3個食べるのは、計算上は問題ないけど……淑女としては問題よね)


 私は、レオンハルト殿下に挨拶をする、という当初の目的を忘れ、ケーキの前から動けなくなっていた。


明日のお昼に第4話を更新予定です。

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