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第26話 数字を離れると気弱なエリシア

 あの卒業式の騒動により、レオン様の側近ヨハン様の文官の道は閉ざされた。

 ヨハン様は、家の跡取りである兄の秘書として、家にて再教育をされるらしい。


 側近ゼノン様も、ヨハン様の横領行為やレオン様の甘さなどを指摘できなかったことから、鬼のように訓練が厳しいと評判の騎士団に入れさせられたようだ。

 騎士精神をゼロから磨き直せということのようだ。


 側近クラウス様も、同じく実家で叱責を受けたようだ。

 ただ、いまもレオン様のそばについている。


 (レオン様らは再教育。ヨハン様は将来が閉ざされた。

 実際に横領をしたのがヨハン様といえども、やはり陛下はレオン様に甘いのよね)


 そして、レオン様とマルグリット様は、まずは勝手に使ったお金の補てんをしたようだ。


 レオン様は、個人資産を使って、横領された部分の穴埋めをした。

 マルグリット様は、プレゼントされたドレスや装飾品をすべて売却して飢饉対策のためにと寄付をした。


 さらに、レオン様とマルグリット様は、王都だけではなく、地方を回っての炊き出しを自分たちの費用を使って行うことを命じられた。


 レオン様はやる気いっぱいで地方を回っているそうだ。

 しかし、マルグリット様にとってはかなりの罰になっているようだ。


 地方にこそ行く意味があるのに、炊き出しの経験がないから、と言って、まだ王都でしか実施していないようだ。


 私は、これらのレオン様らの処分内容については、父から聞かされた。


「まぁ、陛下は甘いかもしれないがな」


「えぇ、お父様。

 でも、陛下としては、王太子という地位から逃げないのも責任を果たすという意味がある、ということなのですよね」


「そうなんだろうけどね。

 でも、レオン殿下以外にも、セドリック王太子という後継者候補がいるんだからなぁ」


 父は、セドリック第二王太子のことを評価しているようだ。

 私も、セドリック様が優秀であることを知っている。兄であるレオン様よりも。


 ただ、根拠がなくても自信に満ちたレオン様と比べると、大人しい。

 うかつなレオン様、気弱なセドリック様。


 陛下としては、うかつさは教育で直る、と思っているのだろう。


「そうそう、レオン殿が、みんなの前で新婚約者宣言をしたから、レオン殿は責任を取るといって、マルグリットが王太子妃教育を受けているそうだ」

「それは、大変でしょうね」


「あぁ。マナー面はそれなりだそうだが、お前と比べると知識がね。

 あと、かなり、いや結構きつめの教育とするようにと、王妃様が教育係に言っているそうだ」


 私は、厳しかった王太子妃教育を思い出し、少し胸の苦しさを感じた。


「私ですら厳しいと思ったのですから、毎日お辛いでしょうね」


「でも、マルグリットには頑張ってもらわなければ、だな。

 王妃様は、まだエリシアのことを諦めてないようだから」

「レオン殿下と再びは絶対にありえませんわ。

 あんな負債、私は手放しましたの」


 私も王妃様が、私に対して何か思っていることは薄々感じている。

 王妃様の腹のうちは読みづらい。

 マルグリットが王太子妃教育に難航をしているとなれば、なおさら私に白羽の矢が立つ可能性がある。


「もちろん、私たちも、再び婚約者だなんて、絶対許さないよ」

「お父様、心強いです」

「アルベルト様のこともあるしね」


 父がさらっと言う。


「隣国においで、と言われたのに行かなくて良かったのかい?」

「アル様は、気晴らしにおいで、と言っただけですわ」


「それは違うね。

 ――エリシアだって、分かっているのだろう?」


 父が真剣な顔をしながら言った。


「婚約解消をしたばかり、ということを気にしているのかもしれないが、いつもお前のそばで支えてくれていたのは、アルベルト様ではないのかい?」

「……はい」


「そして、エリシアも、アルベルト様のことを、少なからず想っているのだろう?」

「……」

「アルベルト様からの手紙が来た日のお前の顔。

 見れば、すぐに分かったよ」


 私は兄からも同じことを言われたことを思い出した。

 王太子妃教育では完璧と言われた表情管理が、そんなに甘かったのか。


「私、そんなに顔に出ていましたか?」

「あぁ、他の人がなんて言おうが、お前の感情はよく分かるのだよ」


「そうなのですね。

 お兄様にも同じことを言われました。

 あと、アル様にも……」


 私は、意を決して、アル様のことで不安に思っていることを初めて父に打ち明けた。


「……隣国の陛下らが。

 どのように私を思っているのか不安です」


 いくら王太子の有責であるからといっても、婚約解消をした令嬢だなんて傷物であろう。

 しかも、冷血女・感情がない女と言われている噂も耳に入っているかもしれない。


 私は、アル様の隣に立ってよいのだろうか。

 自信がない。


 目線を膝に落としたままの私に父が言った。


「アルベルト様を信じなさい」


「そして、エリシア。お前自身も信じなさい」


 父が静かに続ける。


「お前は、いつも自分で考えて判断をしてきただろう? 自分を信じていたじゃないか」


 父の言葉に、はっとした。


 私は、ずっと数字だけは裏切らないと信じてきた。

 数字はウソをつかない。


 だから、数字に従って、自信を持って主張してきた。

 いままで、私は、数字が出す答えは決して揺るがないと信じてた。

 そして、その答えを導き出した自分も疑っていなかった。


 なのに、数字から離れた途端、私は急に自信をなくす。

 計算できないものの前では、急に心許なくなる。

 ……まるで、別人みたいに。


「数字の外に出ると、私は……」

「だからこそ、自分を信じなさい」


 父の声が、静かに落ちてきた。


 ……そうだ。

 私は、いつも自分の判断で答えを出してきた。

 まだ、起きてもいないことを先回りして、勝手におびえていた。

 私は、こんなふうに逃げ腰になる人間ではない。


「自分を信じて判断する。今回は違うのか?」

「……いいえ。お父様、ありがとうございます。

 私らしくなかったようですわ」


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