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第24話 レオンハルトの甘さと罰

 会場には、ヨハン様のすすり泣く声だけが響く。

 誰もが何も言えずに、ただその場に立ち尽くしていた。


「……殿下」


 ヨハン様が顔をあげた。


「私には、もう予算がないのです、ドレスは買えません、と言うことは出来なかったのです……」


「なぜなのだ?」


「殿下は私に『任せる』とおっしゃいました。

 ですので、私が一人で対処しなければいけないのだ、と……」


 ヨハン様は、消え入りそうな声で答えた。


「だからといって!

 国民のための、災害緊急対応のお金を勝手に使うなんて、あり得ないだろう!」


 レオン様が声を張り上げると、ヨハン様は、レオン様の声に被せるように言葉を返した。


「では、私は、どうすればよかったのでしょうか?

 予算はない。けど、買わなければいけない。

 私は殿下に、頼ることは出来ない」


「せめて一言、言ってくれれば……」


「マルグリット様へのプレゼントも任せる、炊き出しについても任せる、あれもこれも……。

 殿下は、私に『任せる』とおっしゃるだけではないですか!」


 ヨハン様は側近にはふさわしくなかった。

 これは絶対だろう。

 忠義を尽くすのと、何も言わないのでは話が違う。


 ただ、レオン様はヨハン様に全て任せる、それだけだった。


「なぜだ! ヨハン。私は……私は、お前を信じていたのだぞ」


 レオン様の声が響く。


「私は、お前を信じていた。何かあれば、必ず報告と進言があるものだと信じていたのだぞ!」


 信じていた。またその言葉だ。

 私は、一歩前に出た。


「レオン様は、『任せた』とおっしゃいました」


 私は静かに尋ねた。


「任せる、というのは責任も負うということです。その覚悟はおありでしたか?」


 一瞬、レオン様が言葉を失う。


「責任が問われる事態になるとは……考えていなかった。私は、知らなかったのだ……」


「ええ。ですが」


 私はレオン様から、視線を逸らさない。


「知らなかったことは、免罪にはなりません」


 側近らが息を飲み、戸惑う者たちが身を乗り出す。


「ノエル様の時は『信じろ』とおっしゃっていました」


 私はレオン様の目を見ながら続ける。


「一度目は『信じる』。二度目は『任せる』と。

 ですが、殿下は、一度として、『確かめる』ということはしない」


 私の言葉は、静かに落ちた。

 怒号は上がらない。代わりに沈黙が広がる。


 レオン様の頬が赤く染まる。


「……私を愚か者だと言うのか」

「申し上げているのは、能力の話ではございません。」


 私は、視線をレオン様よりも奥の方に向ける。

 壇上の一番奥に座る、陛下の方へ。


「責任の所在を、明らかにしていただきたいのです」


 会場の視線が一斉に陛下へ向く。

 陛下は、しばし沈黙する。


「父上! 私は、ヨハンが行ったことは、何も知らなかったのです」

「レオンハルト。黙りなさい」


 陛下がレオン様を制する。


「側近が行ったことに対する、王太子の監督責任は重い。だが――若さゆえの過ち、ともいえよう」


 どよめきが起きる。

 甘いと、誰もがそう思っているだろう。


 ただ、私は、陛下なら、第一王太子であるレオン様に対して、甘い処分を下すだろうとも予想していた。


 一度目の失敗は、学園という中での話で、表には大っぴらには出ていない。

 二度目の失敗は、炊き出しのための費用という国の資産に手をつけたという重さはある。

 しかし、レオン様が直接、横領を指示していたわけではない。


 それに、財源は私であるが、レオン様は実際に炊き出し行事に参加をし、領民を鼓舞していた。


 (陛下はレオン様をまだ信じたいのですわね。人を信じるのは、親子で似ていますね。甘さまで似てしまっている)


 私は、王家の甘さに心の中でため息をつきつつ、陛下がレオン様に下す処分に耳を傾けた。


「レオンハルトには、2年間、王太子としての再教育を命じる」


 レオン様の表情は硬い。

 マルグリットは涙を浮かべながら、レオンハルトの袖を握る。


「レオンハルトとマルグリットは、自らの資産をもって、勝手に使った国の予算を償いなさい。まずは、そこからだ」


 陛下は続けた。


「二人は、地方で炊き出しをしながら、民衆の生活状況を、身をもって知りなさい。

 そして、王太子として足りなかったところを学びなおすがよい。細かいことは、追って言い渡す」


 エリシアは、ただ一礼した。


「陛下のおおせのままに」


 レオン様は救われた。

 ただ、これは許されたのではない。猶予を与えられたにすぎない。救われたこと自体が、彼の未熟さを証明した。


 壇上から降りた私は、レオン様の方を振り向いた。


「レオンハルト殿下。

 マルグリット様と一緒に歩まれる将来が幸あるものであることをお祈りいたします」


 そして、私はレオン様に尋ねたかったことを聞いた。


「ただ、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?

 信じることの大切さを説いてきたレオンハルト殿下ですが――私のこと、信じてくれていたのでしょうか?」


 レオン様は何も答えることが出来ないまま、立ち尽くしている。


 私は、そんなレオン様を横目に、会場を出る。


 廊下に出た私は、左の手首につけていた『未完の雫』のブレスレットを、そっとなでる。


 不完全なもの、余白に美しさを感じる『未完の雫』。


 成長の『余白』が、レオン様にはあるのだろうか。

 私は――ある、と信じたい。


 卒業式の鐘が鳴る。

 祝福の音は、どこか空虚であった。


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