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第23話 卒業式パーティーでの断罪

 そして、卒業パーティーの日が訪れた。

 王城の大広間には、貴族たちが集まっている。


 レオン様が、一歩前に出る。


「私は、ここにいるエリシア・アルカディオール侯爵嬢との婚約を破棄する!」


 会場がざわめいた。


 私は静かに口を開く。


「レオン様、婚約破棄、承りました」


 そして、事態は急展開する。


「しかし、国民から集めた資金を私的流用することは見過ごせませんわ」


 ――ここから先は、誰も知らない。

 私は静かに息を吸った。


「私的流用とはどういうことだ?!」


 レオン様は戸惑いながらも、振り上げた手を下ろせず、興奮したままである。


 私は、一つの書類を出してテーブルに置き、軽く書類を叩いた。


「これは、災害緊急対応のための予算表です」


 レオン様に裁量が与えられている公的費用の一つ、災害緊急対応費用の書類である。


「去年は、いつもより小麦の収穫量が少なく、また海も荒れて魚の収穫量も減っており、国民の皆さまは厳しい生活を送っておりました」


 会場では、食糧難で大変であった領地の様子を思い出した者たちが、当時を思い出しているのか、頷いている。


「レオン様は、この費用を国民への炊き出しに使われたようですね。帳簿には、炊き出し費用が支出されておりました」


 なぜ公的帳簿を見たのだ、などと言われたときのための言い訳も用意していたが、レオン様はその点は気に留めなかったようだ。


「あぁ、そうだ! お前も一緒だっただろう。

 地方で何度も炊き出しを行ったのだ」


「そうですわね。

 レオン様が炊き出し現場にいらっしゃって、民衆の方々も非常に喜んでおりました。

 しかもレオン様自らが配給していただき、あの時はありがとうございました」


「民のためにするのが私の使命だからな。

 当然のことだ」


「でも、レオン様。

 あの炊き出しですが、――私の個人資産、で行ったものですよ?」


「……は?」


 レオン様が間の抜けた顔をしている。


「レオン様は、あの炊き出しは、あなたの名のもとで行われていた、と思っていたのですか?」

「ど、どういうことだ……?」


「私の炊き出しの手伝いにきてくれたわりには、ずいぶん偉そうに……失礼。

 堂々と仕切っていらっしゃると思っていました」


 私が地方で炊き出しを行っていると、いつのまにか現場にレオン様が現われる。

 私のお金だから私主導よ、などと言う気持ちは微塵もなかった。


 ただ、事前に相談してくれれば、もっと大規模に、そして効率よく炊き出しが行えるのではないか、とは思っていた。


 もっとも、レオン様が私の言うことを聞くとは思えなかったので、何も言わなかった。


「でも、領民らが、王太子に会えたと喜んでおりましたので、特に指摘はしませんでした。

 領民にとっては、誰が旗振り役だろうが関係ありませんので……」


 レオン様は、驚きに固まっていた。

 しかし、はっと我に返り、激情のまま、側近のヨハンの方に大声をあげた。


「ヨハン! 地方で行われていた炊き出しは……

 王太子管轄の慈善事業として、行っていたものではないのか?」


「えー……それは」

「ヨハン! はっきり言え!」


「……エリシア様が、地方で炊き出しを行うとお聞きしましたので。

 だったらそこに行けばよいだろうと思っていたのでして……」


 レオン様は、目を白黒させている。


「レオン様。炊き出し準備の予算について、いくらか負担するなどのお話をいただいていれば、炊き出しの計画もまた違っていたのですよ」


 私は口元に扇子を当てて、やれやれ、といった風にため息をついた。


「まさか、私の個人資産からの炊き出しを、王太子予算からの炊き出しと思っていたとは。

 夢にも思いもしませんでしたわ」


 レオン様は、顔を真っ赤にしている。

 恥ずかしさからか、怒りからか。多分両方だろう。


「ですので、災害緊急対応費用から炊き出し費用が支出されるはずがない、のです」


「炊き出し費用として、使われていなかった……」


「はい。

 ですが、炊き出し費用として、お金が払われたことになっております。

 ――このお金、どこに消えたのでしょうか?」


 会場がざわつく。


 私は、レオン様の隣に立つマルグリット様に近づいた。


「ところで、マグリット様。

 瞳の色と同じエメラルドのネックレス、とてもお似合いです。」

「何を急に!」


「お似合いなのですが

 ――それは、国民に、回すべきお金で買ったものですよね?」

「……! わ、わたしは何も知らないわ!

 レオン様が買ってプレゼントしてくださっただけですもの!」


「ここに領収書がございます」


 私は、側近ヨハンが拾い上げ、握りしめていたその手から、領収書を取り上げた。


「この領収書が、エメラルドのネックレスの領収書ですわ」


「私は、レオン様の私的帳簿のチェックを任されておりました。

 しかし、領収書がなく、支出もない。

 なのに、ドレスや宝石を購入していました。

 一体、どこから支払っていたのでしょうか」


 私は、困ったのですよ、とわざとつぶやく。


「そこで、どこからお金を出しているのか、と聞いても……。

 レオン様。なんておっしゃったか覚えていますか?」


「……覚えてない」


「必要ないことは聞くな! お金があるから支払っているのだ! と。

 それはそれは、大変な剣幕でしたわ」


 多くの学生たちは、レオン様のことを、明るくて皆を引っ張っていく、頼れる姿を見せてくれる王太子、と評価しているだろう。


 しかし、そんなレオン様が、理不尽な怒りを 婚約者にぶつけていたということを知り、学生たちは

 信じられないといった顔でレオン様を見ている。


「そういえば、マルグリットに嫉妬しているのか!

 などともおっしゃっていましたよね。」


 当時の言葉を思い出して、つい笑いそうになったので、扇子で慌てて口元を隠した。


 嫉妬をしているという感情論を出してくるとは、さすがの私も計算外だった。


 (まさか、私がレオン様に、恋焦がれているとでも思っていたのかしら)


 私が嫉妬をするほど、レオン様を想っているなんて、どこにそんな自信があるのだろうか。


 (レオン様は、本当に自信家ですわ。……根拠がないのですけどね)


 しかも、お金の出どころを聞いても、お金はあるんだ、という回答。

 何も分かっていない、とあきれてしまったのを覚えている。


「いま、マルグリット様がおつけになっている、エメラルドのネックレス。

 この領収書を入手したのですが

 ――金貨50枚でした」


「……! そんなにしたのか?!」


 レオン様が目をむいている。


 マルグリット様は、居心地が悪そうに目をそらし、手でネックレスを覆い隠している。


「ほかにも、領収書が見つかったのです。

 これらの金額は、交際費帳簿には載っておりません。

 ですので、レオン様の個人財産からの支出ではございません」


 私は領収書の束を取り出し、ペラペラとめくる。


「ドレスは2着と少なめですが、イヤリングにブレスレット、髪飾りなどなど。

 宝飾品が多いですわね」


 レオンハルトが、驚きの表情でマルグリットを見ている。


 (殿下は、マルグリットがそこまで購入しているとは知らなかったようね。)


「いまマルグリット様の胸元で輝いているエメラルドのネックレスは金貨50枚。

 その他、ドレスや宝飾品の購入を併せると

 ――合計、金貨80枚。

 それだけあれば、子どもだけでも100人は飢えずに済みますわ」


「……!金貨80枚?!

 マルグリット、これはどういうことだ?!」


「私はお金のことはよく分かりませんわ!

 それに、レオン様が、好きに買っていいとおっしゃったじゃないですか」


「だからといって、限度というものがあるだろう!」


 二人が言い争いを始めたので、私はフゥとため息をつき、扇子をパンッと音を鳴らして閉じて、注目を向けさせた。


「先ほど、災害緊急対応のお金が消えている、と言いました」


 レオン様が、私の言うことを予想したのか、顔色がどんどん青くなっている。


「消えたお金は金貨80枚。

 そして、ここにあるドレス宝石代の領収書の合計

 ――金貨80枚」


 会場がシンとしている。


「一致しますね」


「……ヨハン、これはどういうことなんだ?

 マルグリットへのドレス代は、私の個人的なお金から支払っていたのではないのか?」


 レオン様の側近のヨハンは、下を向いて拳を強く握っている。


 ヨハン様は分かっていたのだ。


 婚約者代は、私への誕生日プレゼントとしてのドレスと宝石代を支払えばほとんど残らない。

 そして、交際費も、マルグリット様への弁償という名のもとのドレス代や夜会などで、ほぼ使い切っていた。


「ヨハン。何か言ったらどうなのだ?」


「……レオンハルト殿下。

 本当に申し訳ございませんでした」


 ヨハン様が、レオン様の目の前にひざまずいて頭を下げている。


「殿下から、マルグリット様へのドレスや宝飾品の購入を任されていました。

 しかし、予算が足りなかったのです」


「足りないのならば、足りないと!

 そう言ってくれれば良かったのではないか!」


「……殿下に私は、言えませんでした……」


 そういうとヨハン様は、涙を落した。 



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