第14話 学園の帳簿に隠されていた真実
翌日の放課後、生徒会室に、レオン様を始め、役員の皆が集まった。
私とエド様が、みんなに話したいことがあると召集をかけたのだ。
「エリシア。何を始めるつもりだ?」
「エリシア様。私も暇ではないのですわよ」
レオン様とマルグリット様が、憮然とした表情をしている。
「お時間をいただき申し訳ございません」
説明は私がする。
私が何か困ったら、エド様が補足する。
そう役割を決めていた。
「実は、去年の学園祭の帳簿に違和感を覚えたのです」
「去年?」
レオン様が、わずかに眉をひそめた。
「はい。今年の学園祭の予算の参考にしようと思い、過去を調べていたのです。
すると、少し気になることがありまして。
色々調べたら、わかったのです」
私は、去年の学園祭の帳簿の該当部分を開いて、指し示した。
「学園祭で行われた舞踏会の準備費用として、イベント会社に、金貨90枚を支払った。
そう記載してあります。領収書も添付されています」
そして私は、1枚の紙を、テーブルの上に出した。
「しかし、この舞踏会準備費用の領収書が、もう一枚あったのです。
同じイベント会社で同じ日付。
ただ、金額だけが異なるもの。
――金貨20枚
と書かれた領収書です」
レオン様は、理解しかねるという顔で、テーブルに出された領収書を見ている。
「二つの領収書……? どういうことだ?」
「学園祭のイベントに、金貨90枚も支払っているというのが腑に落ちない点でした」
私は、皆の顔を見渡しながら、続ける。
「この値段は、侯爵家の夜会レベルです。
そこで気づいたのです。
帳簿に添付されている、この領収書に載っている金額。
これは、本当に支払われたのか? と」
レオン様らは、不審そうな顔をしつつも、私の話に聞き入っている。
顔色を変えている一人を除いて。
「そこで調べたところ、本当に支払ったのは、金貨20枚の領収書。
これが正しい数字だということが分かりました」
「実際に支払われたのは、金貨20枚……?」
理解しがたいような顔をしたレオン様が、聞き直してきた。
「えぇ。そうです。
ということは、もう一つの領収書。
金貨90枚を支払ったとする領収書は――ウソ、ということになります」
「ウソの領収書……」
レオン様は目を見開き、固まってしまった。
「つまり、学園には、あたかも金貨90枚を支払ったかのように報告をし、その差額を、取っていた、ということです」
「取っていた?」
レオン様の顔が険しくなる。
「それ以上のこと、私が説明を続けた方がよいでしょうか?
……ノエル副会長」
ノエル様は、口を真一文字にして覚悟を決めたような顔をしている。
今回の件、会計を担当していたノエル様が行っていたことが、調査で分かった。
私は、彼が自分で話すのを待とうとした。
「エリシア。ちょっと待て!
ノエル副会長が、会計係だからといって疑っていいのか? そもそも、そのウソの領収書というのが、本当にウソなのか?」
レオン様は、ノエル様が話すのを待たないどころか、彼を擁護しようとしている。
(レオン様。信じたい気持ちが強すぎて、物事を見ることが出来ていないわ)
「それは、ちょっと僕が、権力を使わせてもらったんですよ」
エド様が話し始めた。
「エリシア嬢の話を聞いて、イベント業者とコンタクトを取ったのです。
まぁ、うちの家系で有名演奏家が何人かいるので。
今後の舞踏会や夜会で、その演奏家達がイベント業者の誘いに乗って来てくれるかなぁ、とか。
少し話を振らせてもらいました」
そして、エド様は肩をすくめる。
「そしたら、すぐに白状して、本当の領収書を渡してくれたのですよ」
「……!」
ノエル様は、引きつった顔でエド様を見た。
レオン様は、それでもまだ納得が出来ないような顔をしている。
「業者が言ってましたよ。
ノエル副会長から、この金貨90枚の領収書にサインだけしてほしい、絶対に迷惑をかけないからとお願いされたと」
エド様が、ノエル様とレオン様を交互に見ながら続ける。
「そして、ノエル副会長は、協力してくれたら見返りに、ファルケンベルク家の系列の屋敷で行われる舞踏会での準備は優先的に回させるようにすると言った、と」
「ノエル様?!
わが公爵家の系列って……何勝手なことを言っているのですか!?」
マルグリット様が驚いた顔をする。
(この反応、マルグリット様は、何も知らなかったと見ていいのかしら)
ノエル様は、意を決した顔で話し始めた。
「マルグリット様、申し訳ございません。
権威ある家の名前を出せばよいのでは、と思い、勝手なことをしました。
レオンハルト殿下も申し訳ございません!」
「申し訳ない、というのは、どういうことだ?
エリシアらが言っていることは本当なのか?」
レオン様が戸惑っているようだ。
「はい。僕は、ウソの領収書で、学園からお金を取っていました」
「……! なんで、そんなことを!」
「それは……お金が欲しかったからです」
「あなた、お金に困っていたの?
だからと言って、なんでそんなことしたの?!」
マルグリット様が叫ぶ。
「マルグリット様。お父上様らまで、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
ノエル様が、マルグリット様に頭を下げる。
私は、ノエル様が、ただお小遣いほしさにやったとは思えない。
ノエル様の裏には誰かがいるはずだ。
でも、証拠はない。
本当は、ノエル様の裏まで探したかった。
しかし、エド様は、正常な学校経営に戻すことを優先すべきだ、と言い、これ以上調査に時間を掛けるべきではないと主張した。
けれども、私は確かめずにいられなかった。
「ノエル様。一つお聞かせくださいませ。
ウソの領収書を書くということ。
本当に、あなたが考えたことなのでしょうか?」
ノエル様が肩を少し震わせた。
「あなたの会計は、正直、ポコポコと穴がありました。
よく言えば学生らしい帳簿。
悪く言えば……未熟な帳簿管理でした」
私は、過去のノエル様が作成した帳簿を思い返す。
「去年の学園祭に関する帳簿以外は、小さな点での修正や些細なミスが常にありました。
でも、一生懸命に会計をやられていたのだとは思います」
「そのとおりだ! ノエルは一生懸命やっていたんだ。
小さい頃から数字ばかり見ている者には、その努力がわからないのだろう!」
レオン様が余計な口を挟むが、私は無視をして話を続けた。
「しかし、失礼ながら、会計知識があまりなく収支が合っていなくても、違和感を覚えないような方が、今回のこと、果たして出来るのでしょうか?」
私はノエル様に疑問を突きつける。
「本当の領収書とウソの領収書を作ること。
二つの差額を自分のものにすること。
帳簿上、おかしな点が出ないように操作すること。
そのようなことを、本当に、一人で思いついて、やられたのでしょうか?」
「エリシア! 何が言いたいのだ!」
レオン様は、強い口調で私を責めてきた。
「ノエル様に、そのような指南をした方が
いらっしゃるのではないでしょうか?
――そして、お金も、その方に、流れていったのではないでしょうか?」




