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第13話 エドヴィンの協力

「なるほど……。

 それで、イベント会社への支払金額が、多すぎるんじゃないか、ということなんだね」


 お昼休み、私たちはランチを持って、裏庭の片隅のベンチに集まった。私は腰を下ろすと、すぐに帳簿を見て気づいたことをエド様に全て話した。


 周囲のざわめきは遠く、まるでそこだけ別空間のようだった。


「はい。それで、このイベント会社に話を聞きたいと思っているのです。

 ただ、本当のことを教えてくれるか?と悩んでいたのです」


「なるほどね……」


 エド様は、少し考え込んだ様子であった。


 そして、軽くサンドイッチを口に運びながら、声を低めにして話す。


「エリシア嬢。このイベント会社に確かめる件、僕に任せてくれないかい?」


 エド様が私の目をじっと見てくる。


「え……」

「君が行って、真正面から聞いても確かに答えてくれないと思うんだ」

「そうですよね……」


「だから、ちょっと僕に任してくれないかな?」


 エド様が、いつもは見せない真剣な表情をしている。


「それに、レオンハルト殿下の婚約者である君が動くと、レオンハルト殿下にも何か迷惑がかかるかもしれないし」

「そうですよね。……でも」


 エド様は、手にしていたサンドイッチの残りをパクリと頬張った。


「大丈夫だって!

 君に不利なことはしない。僕を信じて任せてくれ」


 先ほどまでの真剣な顔から一転、いつもの明るいエド様の顔に戻った。


「……分かりました。エド様、お願いします」


 私は、エド様を信じて、任せてみることにした。


 もし裏切られたら……そんなことはあるはずがない。

 ただ、もしも、そのときは、その事実を受け入れる覚悟をもっている。


「けれど、エド様。危ないことはなさらないでください。それに、何かあったら、私が全て責任を負いますので、全て報告してください」


「分かった。約束する。危ないことはしないし、ちゃんと報告もする」

「お願いします」


 相談の話題がひと段落すると、二人の間に柔らかな沈黙が流れた。


「それにしても、エリシア嬢。よく気づいたね。僕も当時予算案を見たはずなんだけど、何も気づかなかったなぁ」


 エド様は、すごいすごいと、まだ感心している。

 私は微笑みながら、残りのパンをかじる。


 風がそよぎ、木漏れ日がゆらりと揺れる。

 周囲のざわめきが少し近くに感じる。


 相談が終わっても、私たちはベンチに座ったまま

 軽い話題を続けた。


 といっても、話をしているのは主にエド様で、私はそれを聞いている。

 ベンチでの時間はただのランチの、のんびりとしたひとときとなった。


 アル様とは違う、別の温かさを感じる時間だった。


 (エド様は、お兄様にそっくりで安心できるわ)


 ◇


 エド様にお願いしてから1か月も経たないうちに、エド様から呼び出された。


「エリシア嬢。いい物を手に入れたよ」

「危ないことはなさっていませんよね?大丈夫でしたか?」


「ありがとう。何も問題ないよ。――それより、この書類が問題だ」


 エド様が、一つの紙を見せてきた。


 私はその紙を手に取り、エド様から説明を受け、全てを理解した。


 私の表情は、1ミリたりとも動かなかった。


 もしかしたら、と予想していた結果に冷めた感覚だ。

 ただ、この結果をどう伝えるか。

 心の中で小さくため息をつく。


「明日、生徒会室に皆を集めよう」


「……エド様。ちょっと待っていただけますか?」

「どうして?」


「私は、レオン様だけに、まずはお話ししたいのです」


 エド様は悩ましい顔をしている。


「うーん。こういっちゃなんだけど。レオン殿下は、エリシア嬢を毛嫌いしている。二人きりで、まともに話を聞いてもらえるだろうか」


 皆の前で明らかにすれば、さすがのレオン様も私を無視はしないだろう。

 しかもエド様もいるので、レオン様は、少なくとも話だけは聞いてくれるだろう。


 ただ、私は、レオン様の反応を見てみたかった。


「確かに、レオン様は、もう私の言葉に耳を傾けてはくれません」

「だから、二人で話すのは、エリシア嬢が嫌な気持ちになるんじゃないかって心配なんだけどな」


「ご心配してくださり、ありがとうございます」


 私はエド様に微笑んだ。


「ただ、レオン様が私の話を聞いてくれるかは、私による審査のようなものです」

「……審査」


「えぇ。私は、この学園での3年間でレオン様が変わる可能性があるのか、私が労力を費やす価値がある人なのか。それを見て、判断すると、入学の時に決めたのです」


「なるほどね。それで審査、ということか」


「えぇ。今回の件、レオン様が話を聞いてくださるか。聞いてくださった場合、どのように対応をするのか、それらを見たいのです」


「……分かった。エリシアが発見した問題だ。エリシアの意向に従おう」

「ありがとうございます」


「ところで、もし、レオン殿下が審査に落ちたらどうなるのかな?」

「少なくとも、レオン様の隣に私は立たないということです」


「そうか……。少なくとも、か。それ以上のこともあるってことか」


「……審査の結果を、国民が判断することになるかもしれませんね」


 私が、レオン様の婚約者を続けるか否か。

 私自身の在り方を判断するためだけでは、とどまらないかもしれない。


 いずれは

 ――王太子そのものの資質を問うかもしれない。

 でも、いまはまだ、判断材料を集めているところだ。


「それにしても、エリシアの審査、怖いなぁ! 僕は審査合格?」


 私は微笑みを深めた。


「……エリシアの微笑みって、無言なのにドスがきいている感じがするよね……」


 (あら! 感情が見えない微笑みなのに読まれてしまったのかしら)


 ◇


「レオン様。少しお時間よろしいでしょうか」


 私は、休み時間、レオン様が側近らと一緒にいるところに行って声をかけた。


「エリシアか。いまここで話せ」

「別の場所に移動してお話しできませんか?」


 レオン様は、私の手元の資料をチラリと見て、鼻にしわを寄せた。


「また、予算がどうのとか、お金の話だろう。

 いま聞く気にはなれない」

「レオン様。確認だけでもしていただきたいのですが……」


「くどい! そんなに話したければ、ヨハン。お前が聞いてやれ」


「……分かりました。では結構です。

 お時間いただきました。失礼しました」


 レオン様は確認すらしない。

 それに、二人きりで話したいということは、側近にも聞かせられない、大切なことだというのは分かるだろう。


 側近らも、レオン様の態度を正さない。


 (レオン様は、私のことは見ようとしないのね)


 レオン様の反応は、予想とおりではあった。

 計算外のことが起こってほしいと、少し期待していた自分もいた。


 愛情からではない。

 臣下として、上に立つ者には相応の器が必要であり、それを示してほしいと願っただけだ。


 レオン様への審査は、マイナスが積み重なっていく。学園卒業のころには、マイナスは、もう取り返しがつかないほど溜まっていくかもしれない……。


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