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第12話 学園の帳簿のからくり-真実を示す数字ー

 アル様と別れて、急いで自宅に戻った私は、足早に階段を駆け上がろうとした。


「エリシア。おかえりなさい」

「お母さま。ただいま帰りました」


「今日、アルベルト殿下が、エリシアは何時に学園終わるか?って聞いてきたわよ」

「放課後に待っていてくださったんです。

 いま一緒にカフェに行ってまいりました」


「まぁまぁ! そうなの!

 アルベルト殿下と何のお話をしたの?

 ちょっとゆっくり聞かせてほしいわ」


 母は、目をキラキラさせている。

 ここで母につかまると、結局は父とのノロケ話に移行するのだ。


「お母さま。今度、ゆっくりと話しいたしますわ。

 いまはちょっと急いでいるので、申し訳ございません」


 私は母に謝り、階段を駆け上って自分の部屋のドアを開ける。


 机の上には昨日のままの資料が散らばっていて、淑女としては失格だ。


 (ちゃんと整理しないなんて、私らしくなかったわ)


 私は一人苦笑しながら、机の上を軽く片付ける。

 焦る気持ちを抑え、資料のページをめくる。


 まずは、この1年間の生徒会帳簿を、再度じっくり見返してみた。


 そして、学園祭の部分の、ある項目に目がとまった。


 『支出先 ワクワクフェスタ

  項目 舞踏会費用

  金額 金貨90枚』


 学園祭で行われた舞踏会の準備を、ワクワクフェスタという業者にお願いしている。


 しかも、金額は

 ――金貨90枚。


 私は、さらに、その前の年の学園祭に関する帳簿も探す。


『支出先 ハッピーセレモニー

 項目 舞踏会費用

 金額 金貨20枚』


「金貨20枚」


 帳簿の数字の上を、人差し指で一定のリズムで叩いた。


 (そうよね。普通、学園での学園祭の規模ならこれくらいでしょう)


 我が家主催で、姉の婚約前の舞踏会を行ったときにも、イベント業者にお願いした。


 有名演奏家も招いて、かなり大々的に行った。

 かかった費用は、確か、金貨100枚だった。


 その時のイベント代と、去年の学園祭のイベント代が、あまり変わらない。


 学園の一大イベントであるため、舞踏会の舞台設営や飾り付けもそれなりにはなるだろう。


 されど、学生主体の学園のイベントにすぎない。

 かたや、侯爵家で行われる舞踏会。

 それも、婚約前に、侯爵家と伯爵家の両家の顔合わせを兼ねるイベントである。


 レベルが異なる。


 それなのに、去年の学園の舞踏会が、侯爵家の舞踏会と値段があまり変わらないのだ。


(学園祭の舞踏会を取り仕切った、イベント会社に

話を聞いてみる価値があるわ)


 その日の夜、私は興奮して、なかなか寝付くことが出来なかった。


 違和感の正体を、掴むことができた。

 それでも思考は止まらない。


 頭の中で何度も組み立てなおし、確かめる。

 間違いない。

 あの数字は、やはりおかしい。

 あと少しで、もっと大きな何かが分かる。


 翌朝、起きるとすぐに次の行動をどうするか、という件で頭が埋まった。


 イベント会社に話を聞く、といっても、素直に教えてくれるだろうか。

 領収書の数字がおかしくないでしょうかと、正面切って尋ねたところ「はい、そうです」とはならないだろう。


 何か良い方法はないだろうか。


 数字の違和感という問題が一つ解決したが、次の問題に考えあぐねていた。


 私は、思考を巡らせたまま、学園へと向かった。


「エリシア嬢。おはよう。

 ……って教室通り過ぎているよ」


 考え込みすぎて、エド様に声をかけられなければ、そのまま違う教室に行くところであった。


「あ、おはようございます」 

「エリシア嬢が、ぼーっとしているところ珍しいね。何かあったのかな?

 お昼休みにでも話を聞くよ」


「お気遣いいただきありがとうございます。

 でも何でもありません」


「僕では頼りないと思ってる? ひどいなぁ!」


 エド様が、すねたように頬を膨らます。

 あざとすぎる……でも、似合っている。


「いえ! そんなことはありません!

 ただ……どうしたものかと」

「やっぱり何かあったんだね。

 じゃあ、お昼休みにお弁当もって、いつもの裏庭のベンチ集合ね!」


 私が返事をする暇もなく、エド様は去って行ってしまった。


 私とエド様が話しているのを見ていたクラスの女子たちが、コソコソと話している。


「昨日、エリシア様が、男性とカフェでお茶していたのを見たのよ」

「えー! レオンハルト殿下じゃない男性と?」

「レオンハルト殿下に相手にされないからって。

 一応は婚約者なのに許されるのかしら」


「それに、いま見た? エド様とも仲良さそう」

「エド様って、軽いノリだけどカッコいいよね。

 そんなエド様と何話してるのやら!」


 中心で話しているのは、マルグリット様と一緒にいるところを何度か見かけたことがある。

 マルグリット様の取り巻き令嬢だろう。


 取り巻きといえども、マルグリット様には仲間がいる。

 人づきあいが得意ではない私とは違う。


 (私は、仲間や派閥などを作るのは苦手なのよね)


「あの人、生徒会にゴリ押しで入ったっていう噂よね」


 取り巻き令嬢たちは、まだ噂話を続けている。


「聞いたことある!

 レオンハルト殿下がダメなら、別の令息を見つけようっていう魂胆だって」

「冷たい顔してるくせに。

 内面は欲望で燃えてるようですわ」


「それに、拾うのが趣味って、レオンハルト殿下に言われたらしいわよ。

 ゴミでも拾うのかしら。上品とは言えないわよね」

「フフフ! 確かに!」


 ……全部聞こえている。


 生徒会に入って、帳簿を見ることが出来るのは楽しいが、ゴリ押しなどしていない。

 

 しかも、細かい数字を読み取るのが好きであるということが、何かを拾うのが趣味との噂に変化しているようだ。


 (拾うのは数字よ。

 落ちている物を拾うのが趣味だと全く意味が違ってくるじゃない)


 私は、いつものように心の中でツッコミを入れた。 


 たぶん兄だったら

「何なに? 俺の話をしてるなら、俺も混ぜてよ!」

 と言って堂々と輪の中に、空気も読まずに入っていくだろう。


 姉だったら、嫌味の一つや二つ

 ……それどころじゃないかもしれない。

 面と向かって口撃するだろう。


 私は、ここで反論をしたところで、何が生まれるだろうかと思ってしまう。


 そうすると、無視が一番になる。


 クラスメイトの陰口には慣れている。

 慣れてよいものかは分からないが、いちいち気にしていたらキリがない。

 噂話は否定したところで、止まらないものだ。


 噂話や陰口には、価値がないと判断している。

 なので、何を言われても

 感情を表に出す理由がない。


 私は静かに、授業の支度に取りかかった。


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