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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
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 金城清が重延の元から解放されたのは日が完全に落ち夜も深まったころだった。宗司には三十分ほどで戻るなどと言っていたものの重延の長話は三時間をゆうに超えた。清からすればよくもまあそんなに口が動くものだとある種の感心すら覚える。もっともその感心は思考の大半を占める焦りと苛立ちにすぐさま埋もれてしまうほどわずかなものではあるが。

 時間の無駄。纏めてしまえばその一言に尽きる。分かりきった事実や的外れな発言の数々、そんな内容を延々と繰り返すだけの生産性の無い時間だった。清にとって重延は実父であるものの血が繋がっているなど信じたくない話だ。ましてあれが一時は金城家の当主だったなど悪い冗談であって欲しいとさえ思ってしまう。

 清が無駄な時間を過ごしていた間にも繧繝衆は次の手を打っているに違いない。たかだか数時間程度の出遅れならばどうにかなると思いたいが、神算鬼謀の如月妃芽が相手。楽観的な思考は徹底的に排除し、堅実に攻め口を探し出した上で柔軟に対応しなくてはならない。


 重延の元を離れた清は自室に戻る前にとある一室の前で足を止めた。中の様子を窺うこと無く部屋の戸を開けると入口に背を向けた状態で正座している人物が一人。

 その人物の名は黒金、金城清の鬼である。戦闘によって欠けた角は既に修復されており他の負傷などは見られない。それでも黒金が清の来訪に反応する様子はなかった。


「いつまでそうしているつもりだ、黒金」


 清の声に黒金は振り返らない。その様子に清は喉元まで出かかった溜息を飲み込んだ。

 黒金の視線の先にあるのは一本の日本刀、黒金が扱う刀に似ているが黒金の刀は彼の腰に差してあるので彼のものではない。如月妃芽との敗北の後に三区内で発見された刀である。その刀が誰のものなのか、清は既に察しがついている。


「先程霊力の鑑定が終了しました。白金の刀で間違いないそうです」


 黒金の第一声に清はそうか、とだけ答えた。予想通りの事実で他の感想を抱く必要を感じない内容だ。

 そこから十数秒ほど沈黙が続いた後、黒金が絞り出すような声でそれを破る。


「主…白金が、折られました」

「そうか」

「…驚かないのですね」

 

 再び抑揚の無い声で答えた清をどこか責めるような黒金の言葉に清は今度こそ溜息を吐き出した。


「簡単に予想出来る。今回の敗走の原因の一つは白金が居なかったことだ、白金が居ればもっと他にやり様があった。私が敵の立場であればそんな存在は真っ先に潰しておく。それを敵が実行しただけに過ぎない」

「ですが、白金は並みの鬼に倒されるような者ではっ…」

「相手が並みの鬼ではなかっただけのことだ、そんなことは実際に戦ったお前が一番分かっているはずだがね」

「っ…!」

「今にして思えば学校で戦闘にならなかったのは不幸中の幸いだったな。結果は敗北だが一般人への被害は最小限に留まっている。繧繝衆の力が借りられない現状では一般人相手の騒ぎが大きくなるともみ消すのは骨が折れる」


 それまで微動だにしなかった黒金の肩がわずかに揺れる。すぐに割り切った清と違い、黒金は白金の死を消化出来ていない様子だった。黒金という鬼の感性はどちらかと言えば人間に近い。白金を目標にしていた黒金はその死を惜しみ悔やんでいるのだろう。


「主にとって、白金は一ノ鬼だったではありませんか」

「そうだ、それに足る実力だった。だが惜しんだところで時間の無駄だ」


 確かに清の一ノ鬼は白金だった。先々代当主から譲り受けた鬼であり実力も霊力も申し分ない。白金が清を主に選んだから重延のような露骨な反対勢力があっても当主の座に就くことが出来た。

 しかし清にとって鬼は戦力でしかなく、替えが利かなかったとしても所詮は駒でしかない。無論それは白金も、目の前に居る黒金も例外ではない。


「悔やむ時間があるのならば腕を磨くことだ。白金を討った鬼とは今後嫌でも刃を交えることになる。今のお前では太刀打ち出来まい」


 黒金の背中がぐっと強張る、しかし言葉が返って来ることは無かった。己の実力を弁え無駄な反論をしないのは黒金の美点ではある。もっともそれを踏まえた上で能力が伸びるかどうかはまた話が違うが。

 如月妃芽が使役していた青角。実力は白金とほぼ対等だったとみて間違いない、黒金だけではまず勝ち目は無いだろう。術封じの発動下であれば黄金で対応出来るだろうが気分屋の黄金をどこまで頼りにして良いか。つくづく白金という存在を失った穴が大きいと思い知らされる。


(黒金が使い物になれば多少は好転するか)


 清はその場を離れて今度こそ自室へと足を向ける。予定よりかなり時間を取られたが、恐らく甥の宗司はまだ部屋にいることだろう。あれはそういう男だ。

 宗司に当主の座を譲るまでに様々な問題を片付けなければならない。重延派の弾圧、繧繝衆の離反による混乱、如月妃芽の台頭。どれも一筋縄ではいかない問題ばかりで頭が痛くなる。


 金城家の地位を盤石なものにして繋いでいかなければ。

 それこそが現当主である自分の役割であり使命なのだから。


 * * * * *


「え?御当主に黎明の剣について話さないんですか?」

「当たり前だろう。いくら現繧繝がふざけた男でもゲームのために守護四役を抜けるわけないだろうが。たまたま名称が同じになっただけじゃないか?そんなことお忙しい伯父上の耳に入れるほどの話ではない」

「それもそっすね」


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