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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
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 白金。ハルちゃんの口から出たその名前を記憶の中で探すが全く心当たりがない。どこかで会っているんだろうか。でも出会った鬼の数なんて片手くらいしか居ないはずだから覚えていないなんてことは無いと思うのだけど。


「誰それ?」

「その返事で十分だ。知らねえのな」


 私が聞き返すとハルちゃんは納得したようにあっさり引き下がって話題を終わらせようとする。

 待って。気になる。勝手に納得して終わらせないで。


「誰なの、白金って。ハルちゃんの鬼?」

「俺のじゃなくて金城家の鬼。ここ数日くらいそいつの動向が掴めてねえの」

「金城家の鬼の動向を何故ハルちゃんが気にする必要が?」

「その白金って鬼は金城家で結構重要な鬼なんでな。そいつの動きが見えないとなると金城家が裏で何か企んでるんじゃないかと警戒してるわけ。おっさんが妃芽ちゃんに会いに行ったことも不自然だし何か関係あるんじゃないかと思ったんだけど」


 金城さんとは今日初めて会ったばかりなのであまり知ったようなことは言えないけど裏で何か企んでることを親切に教えてくれるとは思えない、でもハルちゃんはその兆候になる動きを掴んでいる。つまりハルちゃんは金城さんに内緒で金城家の動きを探ることが出来るってことか。考えてみれば金城さんの家も鬼を使うのであれば情報を集めるくらい自分たちで出来るだろうに、それをわざわざ頼むんだから繧繝衆は情報を集めることに長けているのかもしれない。ハルちゃんの居ないところでもハルちゃんの悪口はなるべく言わないようにしようっと。


「ごめん、本当に知らない。私が金城さんに会ったときは黒金と黄金って鬼だけだったから。お役に立てず申し訳ないです」

「妃芽ちゃんが謝ることじゃねえよ。こっちとしても知ってたら儲けものくらいの気持ちだったからな」


 話しながらもハルちゃんはお猪口にお酒を注いでいく。ハルちゃんはどうやら結構お酒に強いらしい。私の父なんて缶ビール二本で呂律が怪しくなっていた。でもこの場合はハルちゃんがお酒に強いと言うより父がお酒に弱いとも考えられる。お酒を飲んでいる大人に遭遇することがないので比較対象が少なすぎてどっちが正解なのか分からないのが悔しいところだ。


「話が脱線したな。妃芽ちゃん、他に聞きたいことある?」


 今の話、脱線してたんだ。そもそも本筋がどこにあるのか私はよく分かっていないけど。


「聞きたいことはまだいろいろあるはずなんだけど…ちょっと待って。情報量が多くてもう頭が混乱してきてる」

「ま、当然だ。今まで関わって来なかった世界の話だろうし、大半の人間は関わること無く生きてるからな。また気になることがあったら手近な人間捕まえて聞いてくれ」


 なんでそんな世界に片足突っ込んでしまっているんだろう。人生って本当に何があるか分からない。


「妃芽ちゃん、俺から一個聞いてもいい?」

「何?」

「妃芽ちゃんはいつからその二人連れてんの?」


 ハルちゃんの指が私の左右を指差す。恐らく私の後ろに立っているだろう瑠璃と紅玉を指したのだろう。改めて聞かれると答えに困る質問だ。


「多分、一か月…二か月くらい前から?」

「いや、何で自分のことなのに疑問形なんだよ」

「なんて言ったらいいんだろ…どこを基準にしたら良いのか自分でも分からなくて」


 紅玉に出会ったのと瑠璃に出会ったのでは一週間くらい時間差があるし、二人に名前を付けたのは更にその後になる。連れているという言葉通りなら紅玉と出会った翌日からということになるがどちらかの主となったという意味だったとすれば瑠璃に名前を付けた日、つまり紅玉に腹を搔っ捌かれて入院した日である。二人の主になった日とするならば紅玉に名前を付けた日、つまり退院する数日前。二人が揃って側に居るようになったのは瑠璃の封印が解けてからだから退院して学校に通い始めてから。

 どれだろう。ハルちゃんが何を意図して聞いているのかが分からないのでどれが正解か分からない。


「何でそんなこと聞くの?」

「その二人が術で使役してるわけでもないのに忠誠心が高いもんだから随分前から一緒に居るのかと思ってな。ま、信頼の有無は時間じゃねえか」


 忠誠心が高い、果たしてそうだろうか。戦闘能力と殺意は高めな二人だけど忠誠心が高いと感じたことは正直無い。二人から好かれている自覚や自信はあるが好意と忠誠は別物だ。

 ハルちゃんの発言の意図が分からなくて首をひねるとハルちゃんは徳利を逆さまにして最後の一滴をお猪口の中に落とした。


「さっき言っただろ、繧繝衆は土地柄から鬼を使役するのが難しいって。と言うのも天狼が縄張りを作って鬼を寄せ付けないせいなんだけど。あ、縄張りは分かる?」

「強い鬼が気に入らない相手を近付かないようにするやつで合ってる?」

「そうそう、それ。で、天狼の縄張りの中には野良の鬼は勿論だけど使役されている鬼も近寄りたがらない。金城家で使役されている鬼も主に付いて二区に入って来るのは少数派だろうな」


 なるほど。つまりハルちゃんのところに居る間は金城さんの鬼による攻撃は限定的になるって考えても良さそうだ。まあ、人間が問題無く入れるなら非力な一般人である私にとって脅威であることには変わりないけど。


「妃芽ちゃんの鬼は術で縛られているわけでも無いのにこうして付いてきて妃芽ちゃんの側を離れようとしない。いやあ、愛されてんな。妃芽ちゃんが大事にされてんのは嬉しいけど俺嫉妬しそうだわ」

「普通は付いて来ないものなの?」

「俺の嫉妬をスルーするじゃん、別にいいけど。鬼にとって二区は普通じゃないってこと。普通じゃない環境で普通でいるってのは結構しんどいものなんだよ。妃芽ちゃんにくっついて二区に入った時点で妃芽ちゃんを裏切ることは無いと思って良いんじゃねえか?」


 じゃあ後ろの二人には結構無理させていることになるのだろうか。いや、間違いなく無理させているのだろう。二人はここに来てから随分気が立っているみたいだし。ここに居るのが私の優柔不断と我儘の結果なだけに申し訳なく思う。でも当然のことながら親を見捨てるという選択を選べるほど私の倫理観は破綻していないのでそこは諦めて欲しい。


「さて、飯も食い終わったことだしここらでお開きとしようか」

「え?!」


 そう言ってハルちゃんはぐっとお酒を呷ってお猪口をテーブルの上に置く。どうしよう、聞きたかったことの半分も聞けていないかもしれない。もっといろいろ確認したいことがあるはずなのに。箇条書きにして書き出しておけば良かった。


「そんな顔すんなって。妃芽ちゃんからの質問には答えるように他の奴らにも言っておくし、なんなら俺のとこまで直接聞きに来てくれて良いし」

「でもハルちゃん、一番偉い人なら忙しいでしょ?」

「本来ならとても忙しい人ですよ、この人。本来なら」

「黙ってろ、土岐。妃芽ちゃんと話す時間くらい作れるっつーの」


 吃驚した。今まで沈黙を貫いていた土岐さんが急に喋るからめちゃくちゃ吃驚した。すごく失礼だけど背景の一部として認識し始めてるところがあったから、人の居ない場所から声がしたレベルで驚いた。気配を消していたのだろうか、心臓に悪いからやめて欲しい。

 まあ、そんな動揺はおくびにも出さない程度には驚くことには慣れてしまっているのだけど。驚きこそしたけど命の危険が無い分、鬼を前にした時よりはマシである。


「ハルちゃんは何で私たちを助けてくれるの?」


 席を立って部屋を出て行こうとするハルちゃんの背中に問いかける。するとハルちゃんは首だけで振り返って肩越しに笑った。


「フレンドが困っていたら助ける。当然だろ?」


 ここに来る前に似たような質問をしたときと返答が違う。

 ああ、もう。こういうところが胡散臭い。

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